第18話 失われた未来と新しい未来
藤村姉妹とかかわる様になって、あれから約6年が経った。その日、羽衣ちゃんは高校受験だった。俺と七海ちゃんはもう中学生になっている。羽衣ちゃんは俺にいろいろなことを教えてくれた。人生において何が大切か、人と付き合うってことはどんなことか。まさに俺の人生の師匠的存在だった。そう。毎日一緒にいた。七海ちゃんと羽衣ちゃんと俺の3人で。だからこそ、いろんなこともあったけど。思い出もいっぱい出来た。
「大丈夫なのか? もうこんな時間だぞ」
「うん」
今は朝の3時。どんだけ眠れないんだよ! と思う。さっきと言っても2時間ほど前だが。
突然、眠れないとのメールが羽衣から入り、心配になった俺が電話をかけてしまうという大失態を犯し、現在に至る。俺のせいで羽衣が余計に眠れなくなっているのだ。
「俺、そろそろ眠らないと……」
「そうだよね。うん、わかった。ごめんね、こんなに遅くまで付き合わせちゃって」
「いや、それはいいんだけど。少しは落ち着いたか?」
「うん。秋路のおかげで落ち着けた気がするよ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
「…あ、ちょっと待って。あのね、私の受験が終わったら、秋路に大事な話があるの。時間開けておいてもらってもいいかな?」
「いいけど」
「ほんとに?何から何までありがとね。じゃあ、明日じゃなくって今日の夕方くらいにまた連絡するね」
羽衣は何か焦っているようにも受け取れるようなそぶりを見せた。一体何を話したいんだろう?そんなに大事なことなら、今話せばよかったのに。
放課後になった。あれから俺はずっと考えていた。羽衣は何を言いたいんだろうって。そんなことを考えているうちに時間は進んでいた。
「ただいま」
家に入ろうとしたが、何か変な感じだった。何故か家の中が騒がしかった。
「秋路、大変よ!」
何があったんだ?
「羽衣ちゃんが交通事故にあったって…」
その瞬間、俺の中の時が止まったように感じた。思考が停止した。そういえばいいのだろうか。
「何だって? 病院は!?」
「今から行くところだったの。早く支度しなさい!」
俺は母に急かされて、冷汗が止まらないままに羽衣が運ばれた病院へ向かった。しかし、俺が病院についたときにはもう手遅れだった。時すでに遅し。羽衣は目を閉じたまま、動かなくなっていた。すでに死んでいた。すぐに動きそうな感じなのに。目を開けて『秋路! 来てくれたんだ。ありがとう』って言ってきそうなのに。なあ、目を開けてくれよ。
なんで、こんなに顔が冷たいんだよ……
その日から俺は何もかもが出来なくなってしまった。生活すらもままならなかった。それほど羽衣という存在を失ったショックは大きかった。心の中に穴が開いたみたいだ。いつも一緒にいて、ためになる話なんかもして。俺たち三人で遊んでたじゃないか。どこに行ったんだよ羽衣。早く帰って来いよ。二人じゃあ、なんか物足りないからさ……
やがて俺も中学三年生になった。そのころ七海の父親ががんになってしまった。なので一時的に七海を俺の家で預かることになった。しばらくの間、預かるだけだと思っていたが、その1か月後、七海の父親は亡くなった。症状が悪化してしまったらしい。ついに七海は一人になってしまった。ずっと当たり前だと思っていた日常は崩れるものだ。そのことを実感させる出来事でもあった。だが、七海の父親は俺の父親とある約束を交わしていた。
『なあ、実は一つだけ頼みたいことがあるんだが』
『なんだ? お前のことだ、また何かが欲しいとでもいうんだろ?』
『いや、実は俺の病気が進行してるらしいんだ。だから、私のもしものことがあったら、七海をお前のとこの養子にしてくれないか』
『進行してるのか…。でも、俺の養子に?』
『ああ、そうだ。お前になら七海のことを安心して任せられる』
『わかった。俺に任せろ! いくらでも七海ちゃんのことは面倒見てやるからさ』
『うむ、頼んだからな。もう私の命も長くないみたいだからな』