第10話 突然の女子会
さっきの紗那の提案で、みんなで俺の家に遊びに来ることになった。
「おじゃましまーす」
「おじゃまします」
「どぞどぞー」
結局、紗那ちゃんは由果ちゃんもつれてきていた。俺の家は親が基本的に週一、二ぐらいでしか帰ってこないため、原則的には何をしてもいいことになっている。俺が中学生の時くらいから始まったこの生活は、最初でこそ大変だったものの、最近はこの生活にも慣れてきた。
「じゃあ、お茶入れるね」
「あ、うんありがと」
あぶない、気を抜いたら自分が女子高生であることを忘れる。えっと、確かここにあったなー。あったあった。まあ、この程度の作業は決して大変なものではない。コップにお茶の粉を入れて、ポットのお湯を注ぐ。そしてみんなのところに運ぶ。ただ、それだけなのだ。でも、俺は人と比べて少し抜けているところがあるから、きちんとできるか心配ではある。
「はい、お待たせー」
「サンキュー沙希」
「ありがとう」
そういえば、二人はここに何しに来たんだろう?特に俺と話すこともないだろう。実際、暇そうな感じだし。ああ、そうか。俺があまりに謎だから、何かを探りに来たのか? 確かに傍からみたらものすごく謎な人に見えるかもしれない。学校で話しているのは由果と紗那、あとは武弥と先生ぐらいだ。極力、必要以上の人間関係を広げることをあまりに不自然に避けている。それに、二人は気づいたのかもしれない。俺はなるべく他人との接触を避けたい。そうしないと自分が本当は男だとばれそうだからだ。なんせ、ばれてしまってからでは遅いからな。
「ところでさー」
「どうしたの?」
「あんたらってなんか姉妹としては仲良すぎない?」
多分、由果ちゃんはあくまでも単なるふとした疑問をぶつけてみただけなのだろう。しかし、そのことを聞かれるのは、正直嫌なのだ。
「そ、そうかな?」
俺は事あるごとにそれを聞かれる。まるで、長年の付き合いがある幼馴染か恋人同士みたいだってな。でも、よく観察してるよ皆さん。なんですぐにわかってしまうのだろう。少し怖くなってきたよ。
「多分、普通だと思うよ?」
俺は一応反論を入れておく。しかし、由果ちゃんはまだ納得がいかないようだ。まあ、当たり前か。はぐらかされていることがわかったのだろう。すると、何かを閃いたかのように由果ちゃんはこっちを見てこういった。
「…実は、双子だったり?」
あるあ…ねーよ。いや隠してるとかそういうのではなく。
「そんなわけないでしょ。『普通の』姉妹だよ?」
双子だなんて、事実無根ですよ。惜しい気もするけど。でも、双子ではない。
そのあとは七海と紗那がゲームして遊んだり、好きな俳優とかアイドルとかの話になったり、4人でトランプしたりして遊んだ。結局、これといった目的はなかったようだ。てっきり、もっと聞かれるのかと思ったけど。
「んじゃあ、また明日学校でね」
「うん。バイバイ七海ちゃん」
由果ちゃんと紗那ちゃんが手を振って歩いていく。七海も手を振っている。ああ、なんか女子同士の集まりって楽しいな。でもやっぱり、二人に俺の本当の姿をかくして話すって、結構大変だった。これじゃあ、いつかボロが出るな。
「今日は楽しかったね。お兄ちゃん」
「そうだな」
七海は基本的に俺のことを家の中では『お兄ちゃん』家の外では『お姉ちゃん』という風にして、なぜか分けて呼んでいる。器用な奴だ。俺にはとても真似できない。まさか、俺に気を遣っているのだろうか。それとも、まだ俺のことを女子としては認めていないのだろうか。
「またいつか女子会しような」
「約1名半分男子がいるけどね」
半分男子ってなんだよ。初めて聞いたぞ。ああ、また七海の創作語か。
「うるさいな。でも、今日はありがとな。七海のおかげで会話しやすかったよ」
「そ、そんな。お礼を言われるようなことしてないよ。お姉ちゃんが楽しかったんなら、それでいいよ」
「そっかぁ」
いろいろ大変だった。でも、本当に楽しかった。女子って案外楽しいもんだな。まあ、楽しいばかりじゃないと思うけど。それは、これからわかっていくのかなあ。怖い気もするけど、もう決めたんだ! 頑張ろう。