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第1話 空白の日々

「さむっ」

 雪が降っている。もう今は1月。とうとう今年は受験の年になってしまった。

 早いもので、この高校に入学してからもう約2年が経過しようとしている。これを早いと言わずして、なんというのだろうか。

 個人的には2年生になって、ただなんとなく高校生活を過ごしていたら、あっという間にあと三ヶ月で3年生だ。本当に意味がわからない。まあ、こんなことを考えてしまうことに何の意味があるのかと言えばそれまでだが。つまり、なってしまったものはしょうがないのである。過ぎ去ってしまった時間は戻らないのである。時とは不可逆なのだ。

 何が言いたいのかというと、現在俺は登校中。自分で言うのもどうなのかと思うが、極度の人見知り体質なのだ。なので、家の近くにある駅から来る高校生とは時間をずらして登校したい。そう考えると、自然に歩くスピードは上がってしまうものだ。特に、人がたくさんいる環境の中にいると、どうしても追い越していくかのような感じになるのだ。そのため、なるべく人が居ない時間帯に合わせて出発している。ここまでで、俺の神経は結構磨り減らされる。考えすぎなのだろうか。そして、田んぼ道を抜けて、トンネルをくぐり、整備がほとんどされていない一本道を進んでいくと、左手に通っている高校が見えてくる。ようやくついた。心なしか、到着する時間が早い気がする。



「お、中津。今日は早いんだな」

「そうか? まあ、今日は少し急いできたからな」

 早い。そう聞くと何となく余裕を持ってきたのだろう。そう感じるかもしれない。しかし、俺の使う早いは少し違う。着席しておかなければならないのは8時35分だ。その5分前に着くと、早い。1分前に着くと、遅いとなる。まあ、みんなそんなもんだろう。どこの高校もそんなものなのではないだろうか。

「今日は遅刻じゃなくってよかったな」

「余計なお世話だ」

 ちなみに、さっきから話をしているこいつは、俺の親友的な存在である武弥だ。人見知りな性格の俺に幾度となく関わってきた、数少ないやつだ。普通は俺みたいなやつは避けられる感じなのだがな。何故かこいつはあきらめなかった。ただ、そういう経緯もあり、比較的何でも話せる関係ではある。つもりではいる。

「そうか。そろそろ先生来るから、またあとでな」

「ああ」

 こんなあっけのない会話の為に三列離れたここまで来て、俺が来るのを待っている。物好きというか、なんというか。まあ、そこが良かったりするのだけれど。

「はーい、席ついて朝学習の時間ですよー」

 ガサガサ…。

 相変わらずの朝の教室の風景である。みんな眠そうな顔をして話を聞いている。そういう俺も、実は昨日若干夜更かししてしまった。 その影響で軽く睡眠不足になっている。


 毎日、先生の言っていることはたいして変わりがない。

「あと、進路希望調査を出していない人は出しておいてください」

 完全にその存在を忘れていた。どうすればいいのだろう。一応、大学に行こうとは考えているのだが、具体的にどこに行こうみたいなものは全くない。困った。確か、どこかで聞いた覚えがある。『高校卒業からの進路選択は人生を大きく変える』と。

 やはり、重要なものなのだろう。しかし、今の俺にはその重要性が分からない。

「何だお前、まだ決めてなかったのか」

 武弥はいつものようにそう言って来た。彼は彼なりに俺のことが心配なのだろう。でも、その心配さが苦痛でもあった。

「仕方ないだろ。何になりたいみたいな将来の夢を持っていない。どこを目指すみたいな気持ちもない。もういっそのこと就職にした方がいいのかな」

「まあ、好きにすれば?お前の人生だしな」

 すっかりやる気を失い、自らの課題を放棄する俺に武弥は正論をたたきつける。

「言うと思ってた」

 こいつはいつもこんな言い方をする。そう、考え方が俺とは違って大人なのだ。何かを決める選択肢を選ぶときは、必ず自分で決める。人に流されるな。それがこいつの考え方なのだ。そもそも言ってることがあまりにも正論なために、俺も反撃できないのが悔しい。

 いつかは武弥をあっと言わせるようなことを言ってみたいものだ。いつになるか、それはまだ未定だ。


 あっという間に5時間目になった。この時間は数学Bという教科である。この科目は有名なところで言えば『ベクトル』と言えば伝わりやすいだろうか。

 俺は勉強していくうちに、気付いたことがあった。俺は数学とか理科系いわゆる理数系が凄く好きなのだが、理屈は解っても、基礎計算の復習や演習不足により、答えを導けないのである。慣れていないということだ。その影響により、最近は若干嫌いになってきている。また、理系は向いていないのではないかと思い、英語や現代文を三日ほど真剣に勉強してみて、勉強したところを自分なりにテストを作り、実験してみると、なんと満点だった。もちろん、自分で作ったという事もあるかもしれない。しかし、これには驚いた。実は文系なのではないか。その不安を頭から掻き消し、今日も計算問題の演習に励む。授業はさっきから聞いてはいるのだが、さっぱりわからない。復習したはずなのだが。これは重症だ。


 ふと、窓の外を見た。そこには校舎の周りの道をひたすら走っている体操服姿の子が見えた。

 俺は走ることだけは好きだ。道具を扱ったりする、バレーとかバスケ、野球、ソフトボール。つまり、ボール系は苦手なのだがな。

 思いっきり走りたいな。大声で叫びながら。クタクタになっていることに気が付かないくらいに。そんな気分だった。


 何か面白いことでも起きないかな。いつもそう思う。家と学校の往復だけの日々。

 でも、決して不自由な生活を送っているわけではない。ただ、心が退屈なのだ。俺は高校生活に『何か』を求めすぎなのだろうか。いや、そんなはずはない。俺の周りがおかしいだけなのだ。

 そう、何かちょっとした変化があれば、もっと面白いのにな……

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