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ノラとパン焼き窯の悪魔  作者: kaoru
新しい友達
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殺人鬼シュテファン・ババコワの最期

著作権は放棄しておりません。

無断転載禁止・二次創作禁止

「止めてー!」

 思わず目を瞑ったノラだったが、聞こえてきたのはサリエリの悲鳴ではなかった。

「ぬっ……ぐっ……うおおっ……!?」

 シュテファンの苦しげな唸り声を聞き、ノラは恐る恐る瞼を開いた。そして目を疑った。地面についたサリエリの膝が少しずつ浮き上がって行く。シュテファンの斧が、押し返されているのだ。

「うおおおおおっ!」

 押し合いの末、サリエリがついにシュテファンの斧を弾いた。シュテファンは足を滑らせてひっくり返り、サリエリはその隙に、腰を抜かすノラを背中に負ぶさった。

「降ろしてサリエリ!」

「…………」

「二人じゃ逃げ切れない!あんただけでも……!」

 サリエリはノラの言葉に耳を貸そうとはしなかった。

 サリエリは屋根のある路地にノラを降ろし、その雨でびしょ濡れになった顔を手の平で拭ってやった。

「サリエリ……?」

 サリエリはノラの前髪を払ってやりながら、にこりとほほ笑んだ。決意の滲む彼の瞳を見て、ノラはひやっとした。

「いやっ……行かないでっ……」

「…………」

「行ったら許さない……!絶対に許さないわ……!」

 サリエリは、いやいやと首を振るノラを引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。こんな風に男の子に抱き締められたのははじめてで、ノラの心臓は早鐘のように打った。甘い痺れが背筋を駆け抜け、頭がぼんやりした。僅か二秒の触れ合いで、ノラの心は芯まで潤い、肉体はまつ毛の一本まで歓喜した。

 サリエリはノラの顔を、これで見納めだとでも言うようにじっくりと見詰めてから、雨の中へ駆け出した。サリエリの姿は水飛沫に邪魔されて、たちまち見えなくなった。雨の檻に囚われてしまったようだった。

 ノラは居ても立ってもいられず、這うようにして安全な屋根の下を出た。

 雨脚が弱くなると、シュテファンとサリエリの姿が、遠くの方に確認できた。大男にナイフ一本で立ち向かうサリエリの姿に、ノラは胸を打たれた。ノラの目からは滝のような涙があふれ出した。

「逃げて!もう良いから!サリエリっ……!」

 ノラの声がサリエリの耳に届くことはなかった。シュテファンにがつんと頭を殴られたサリエリは、糸が切れた操り人形のように、泥水に沈んだ。

「きゃああ―――っ!」

 シュテファンが斧を振り上げて、ノラは絶叫した。

 シュテファンが良く狙いを付け、サリエリ目掛けて鈍く輝く刃を振り下ろそうとした、その時。

―――ドオオオ―――ン!!

 大地を揺るがすような爆音が響き、シュテファンの大きな体が宙を舞った。

(えっ……!?)

 仰向けに引っくり返ったシュテファンは、一度瞬きをしたかと思うと、それきりぴくりとも動かなくなった。シュテファンは額に開いた小さな穴から血を流し、絶命していた。

 見れば、道の向こうに女が立っていた。頭巾で顔を隠し、男のような格好をした、たくましい体付きの女だった。女の手には金属の筒が握られていて、その筒の先端は、シュテファンが立っていた場所に向けられていた。

 女は呆然と立ち尽くすノラに向かってにこりとほほ笑んだかと思うと、金属の筒の先を天に向けた。金属の筒が女の手の中でドオオオ―――ン!ドオオオ―――ン!と火を吹くと、不思議なことに雨はぴたりと止み、分厚く垂れこめた雲の切れ間から光が差し込んだ。

 呆気にとられて空を仰いでいたノラが、ふと気付くと、女の姿は消えていた。その後、駆け付けてきた憲兵によって、ノラとサリエリは無事に保護された。


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