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ノラとパン焼き窯の悪魔  作者: kaoru
小さな町の大事件
51/91

作戦開始!

著作権は放棄しておりません。

無断転載禁止・二次創作禁止

 次の日の朝、アベルと一緒に登校してみると、教室ではシルビアが必死になって、担任のガブリエラにレーチェの遊び相手を辞めたいと訴えていた。

「どうしたの……?」

 ノラとアベルは、シルビアの相棒であるカレンにたずねた。

「シルビアね、昨日レーチェお嬢様に豚の鳴き真似を20回もさせられたの……私は髪を切られそうになったわ。言うことを聞かない罰だって言って……」

 カレンは真っ青な顔で答えた。カレンは藁にも縋りたいほどに、怯えきっていた。

「ねぇノラ、レーチェお嬢様の遊び相手を代わってくれない?私、もう怖くて……」

「ええ?」

「お願い。こんなこと言ったらシルビアは怒るかもしれないけど……私達には荷が重いわ。このままじゃ殺されちゃう!」

 ノラとアベルは困り顔を見合わせた。

「もしも代わってくれたら、あなたの言うことを1回だけ、なんでも聞くわ!」

「なんでも?」

「なんでも!」

 カレンは確約した。

 カレンがあんまり頼むので、ノラは仕方なく、男爵令嬢の遊び相手を代わってあげることにした。現金なカレンはノラを勇者と称えた。

「ノラあなた、本当に大丈夫なの?くれぐれも失礼のないようにね」

 ガブリエラは過剰に心配して、ノラをむくれさせた。

「ノラ、本当に1人で平気?」

 そして放課後。1人でお屋敷に向かおうとするノラを、アベルとマルキオーレは心配した。

「平気よ。なにかあったら窓から合図するわね」

「う、うん……無理はしないでね」

 ノラはアベルとマルキオーレに見送られて、鼻息も荒くお屋敷に乗り込んだ。

 はじめに男爵夫人の部屋に挨拶に行くと、彼女はノラを見て少し嫌な顔をした。

「昨日の子供達はどうしたの?シルビアと、カレンだったかしら……?」

 男爵夫人は眉を寄せたままたずねた。

「お尻のおできが潰れて、診療所に行きました」

「お尻のおでき?……2人とも?」

「はい。あの2人は双子みたいに仲良しなので、食事をするのもお便所に行くのも、病気になるのも一緒なんです」

 ノラは平然と嘘をついた。男爵夫人は胡散顔でノラをにらんだが、追及はしなかった。

「まあ良いわ。レーチェは隣の客間よ。……くれぐれも、おかしな遊びを教えないでちょうだい」

 ノラは男爵夫人の部屋を出て、レーチェの部屋の扉をノックした。

「あんた、だあれ?」

「ノラ・リッピーよ。どうぞ宜しく」

 怪訝な顔をするレーチェに、ノラははりきって自己紹介をした。

「ふぅん?ちょうど良かったわ。あんた、馬になりなさい」

 レーチェは命令して、床を指差した。ノラは目をぱちくりさせた。

「早くしなさい。その棚の上の箱を取りたいのよ」

 ノラは高い棚の上を見上げた。棚の上には確かに、薄べったい木箱が乗っていた。

「なら、脚立を持ってくるわ」

「そんな時間ないわ。私は今すぐあの中が見たいの」

「でも、私が馬になったくらいじゃ、届かないと思うわよ」

「黙んなさい。言うことを聞かないと、お母様に言いつけるわよ」

 レーチェがいらいらしだしたので、ノラはしぶしぶ四つん這いになった。

「はじめから素直に従えば良いのよ。召使のくせに、主人に意見するんじゃないわよ」

 レーチェはぶつぶつと独り言のように呟いて、ノラの背に靴のまま、どん!と足を乗せた。腹を立てたノラは、レーチェが背中に乗ったところを見計らい、わざと体を揺らしてやった。

「痛い!……急に動かないでよ!怪我をしたらどうするのよ!」

 床に尻もちをついたレーチェは、真っ赤な顔で喚いた。

「どうもすみません。私は馬になるのは下手みたいです。今度はレーチェお嬢様が馬になってください。私が取って差し上げます」

 ノラはしゃあしゃあと言った。

「馬鹿なこと言ってないで早く起こしなさい!ぐずね!」

「はい、はい」

 ノラはレーチェを助け起こした。

「……叫んだら喉がかわいたわ。お茶を用意しなさい」

 ノラは言われたとおりお茶を用意したが、レーチェは安物のカップが気に入らないからと言って、口を付けなかった。

 レーチェの我がままは、ノラが言うことを聞くたびにエスカレートしていった。

「疲れたから肩を揉んで。痛くしたら承知しないわよ」

 ノラはレーチェに、半時も按摩をさせられ……

「どうして今日はこんなに暑いの?扇いでちょうだい」

 腕が痛くなるまで扇で風を送り……

「靴を磨いておいて。傷つけたら弁償よ」

 20足もの靴を、ぴかぴかになるまで磨かされ……

「面白い本を10冊選んで持ってきなさい」

 図書室から重い本を借りてこさせられ……

「やっぱり必要ないわ。戻していらっしゃい」

 返しに行かされ……

「退屈ねぇ……なにか面白い芸をしなさい」

3桁の足し算の暗算を披露し、つまらないと一蹴された。

部屋に入って2時間も経つ頃には、ノラはくたくたのへとへとになり、逃げ出したくてたまらなくなっていた。

「お嬢様は、国立魔学校の試験を受けたんですよね?将来は魔学者になるんですか?」

 ノラはレーチェの髪を丁寧にブラシで梳かしながら、さりげなくたずねた。

「私は男爵令嬢よ。学者になんかなるもんですか」

「はあ……そういうものですか?」

「そういうものよ。労働なんて、卑しい身分の者達がすることよ」

 得意げに断言したレーチェを、ノラは冷ややかな目で見つめた。

「どうして国立魔学校なんですか?別の学校でも良いんじゃないですか?」

「高貴な私にふさわしい学校は、国立魔学校以外にはあり得ないわ」

「でも、すごく規則が厳しいそうですよ。先生も怖いって聞くし……もしかしたら勉強についていけないかも……」

「そんなもの、お金でどうとでもなるわ。我が家の使用人たちは、お金をあげればなんでも言うことを聞くのよ」

 ノラは呆れて、二の句が継げなくなった。

 ノラはブラシを放り出して部屋を飛び出すと、外で待機していたアベルとマルキオーレの元へ向かった。これ以上の偵察は無意味だと悟ったのだ。

 アベルとマルキオーレはノラの背中の靴跡を見て、目を丸くした。

「どうだった?」

「想像以上よ。シルビアとカレンが音を上げたのも頷けるわ」

 ノラはアベルとマルキオーレに、レーチェの我がままぶりを話して聞かせた。

「とにかく、男爵夫人に気付かせることよ。レーチェがお馬鹿さんだってわかれば、国立魔学校は諦めざるを得ないわ。私、明日ヘルガ先生に相談してみる」

 ノラがアベルに送ってもらって家に帰ると、2階の部屋の窓辺では、ミライが夢中でなにかを齧っていた。

「なあにそれ?」

 覗きこむと、魚の骨のフライのようだった。ノラから隠すように、ミライはそれを背中に隠した。

「やらんぞ」

「いらないもん。……ふんだ、変なもの食べるとお腹を壊すんだからね」

 翌日、ノラとアベルとマルキオーレは、ヘルガに相談に行った。ヘルガは3人の協力を、とても喜んだ。

「みんなでお勉強会をするというのはどうかしら?」

 ノラ達が偵察の成果を報告すると、ヘルガが閃いた。3人は顔を見合わせた。

「お勉強会?」

「そう。みんなでレーチェお嬢様にお勉強を教えてもらうふりをするの。レーチェお嬢様が困っているのを見れば、男爵夫人も気付くはずよ」

「そっかあ!先生、頭良いー!」

 ヘルガの名案に、3人は拍手を送った。

「午前中に男爵夫人と孤児院へ行く約束をしているの。その時にでも話してみるわ。早速今日から開始しましょう」

 放課後、ノラとアベルとマルキオーレは、レーチェに勉強を教わるために、お屋敷へ向かった。

 お屋敷には思いもよらぬ先客がいた。フォスターが無事に退院し、すっかり元気を取り戻したクリフォードだった。

 クリフォードはノラ達の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。

「クリフ、どうしたの?おじさんの看病はいいの?」

 こんな時間に遊びに来るなんて珍しいと、ノラはたずねた。

「俺はこれから仕事なんだ」

 クリフォードは誇らしげに胸を張り、3人は首を傾げた。

「?仕事ー?」

「レーチェお嬢さまの遊び相手。昨日の夜、男爵夫人が家に来てさ。直々に頼まれたんだ。お嬢様と半日遊んだだけで、なんと1万ピチももらえるんだぜ!」

「ええー!」

「驚きだろ?こんなうまい話はそう転がってないよ」

 クリフォードはほくほく顔で自慢した。

「じゃあ俺、先に行くな」

 クリフォードがお屋敷に入って行ってしまうと、ノラとアベルとマルキオーレは、困り顔を見合わせた。

「どうする……?」

「どうするって……やるしかないわよ。男爵夫人には、もう話が通っちゃってるんだもの。私たちが行かなかったら、ヘルガ先生が怒られちゃう」

「だよねぇ……」

 アベルとマルキオーレは、はあ。と大きなため息をついた。

 約束の時間に遅れてはいけないと思い、3人は一先ずお屋敷に入ることにした。玄関を入って直ぐのところで、男爵夫人とレーチェ、クリフォードが雑談していた。

「いらっしゃい、みなさん。さあどうぞ、2階にお部屋を準備してあるわ」

 男爵夫人はまるで自分の家のように、ノラ達を招き入れた。

「ヘルガ先生から話は聞いているわ。レーチェに勉強を教わりたいんですって?感心ね。人に学ぼうという素直な心は、大切にしなければなりません」

 我が娘が頼られるのがよほど嬉しいらしく、男爵夫人は上機嫌だった。クリフォードは怪訝な顔をした。

「勉強を教わる?ノラが?」

 クリフォードは疑いの目でノラを見て、ノラとアベルとマルキオーレはひやひやした。

 結局、クリフォードも一緒に勉強をする羽目になった。クリフォードは依然として3人を疑っていたが、勉強会がはじまると、直ぐに意識をそちらに集中した。家庭の事情で学校を休み続けているクリフォードは、この機会に少しでも遅れを取り戻そうと考えているようだった。

 勉強をはじめて半時ほど経つと、マルキオーレは早くも飽きてしまい、チョークを転がしはじめた。レーチェはクリフォードの眉間のしわを、うっとりと見つめるばかりだった。

 男爵夫人が様子を見に近付いてきて、ノラとアベルは、こっそりとめくばせした。



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