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ノラとパン焼き窯の悪魔  作者: kaoru
小さな町の大事件
48/91

サリエリを守れ!

著作権は放棄しておりません。

無断転載禁止・二次創作禁止

 ノラとアベルとマルキオーレが、さっそく話題のお嬢様を見に行こうとすると、男爵夫人とデムターさんが階段を下りてきた。その後ろから、絹のドレスを着た少女と、背の高い従者、無愛想なメイド、シルビアとカレンが、ぞろぞろと付いてきた。

 3人は、絹のドレスの少女が例のお嬢様……レーチェだろうと見当を付けた。

「到着したばかりですし、もう少しゆっくりされては?」

 デムターさんは男爵夫人を気づかって休憩を勧めた。

「いいえデムターさん、私は遊びにきたわけではありませんもの。それに、ジャンマリアに後で行くと約束しましたから」

 男爵夫人は従者を連れて、リッキーが手綱を握る馬車に乗り込むと、お嬢様と無愛想なメイドに見送られて、屋敷を出て行った。

「後を追いかけましょう」

 孤児院の玄関前には、4人の大きい子供達が整列していた。左から、フランシス・コーエン、シンシア・マーケット、ベンフリート・カーティス、チャック・ノーマンだ。

 サリエリは到着した馬車の脇に立って、男爵夫人が馬車を降りる手助けをした。

「ようこそいらっしゃいました。マントウィック男爵夫人」

 4人はタリスン院長先生の号令で、男爵夫人に向かって歓迎のあいさつを述べた。男爵夫人は2、3言タリスン院長先生と言葉をかわすと、サリエリに案内されて孤児院の中へ入って行った。子供達もその後に続いた。

 ノラとアベルとマルキオーレの3人が、後を追いかけようとした、その時。

「お前等、なにやってるんだ?」

「ぎゃっ!」

 後ろから声をかけられた3人は、飛び上って驚いた。振り返るとそこにいたのは、クリフォードだ。

「べ、別になんでもないよ。クリフこそなにしてるの?こんなところで……」

 ああ、びっくりした。ノラはどきどきする胸を押さえて、たずね返した。

「俺か?……俺は教会に帰る途中でお前等を見かけて、追いかけてきたんだよ。……今のが噂の男爵夫人か?」

「そうみたい。私達、男爵夫人を見たくて偵察にきたのよ」

「ふぅん?それだけか?」

 勘の良いクリフォードは、ふに落ちないという顔をした。

「ちょうど帰ろうと思っていたところなのよ。途中まで一緒に帰りましょ!」

 3人は仕方なくは偵察をあきらめて、クリフォードの背を押して孤児院を離れた。

「今日もアベルとマルクは教会に泊まるんでしょ?」

 帰り道で、ノラはアベルとマルキオーレにたずねた。

「うん。そのつもり」

「ちぇーっ。また私だけ仲間外れかあ」

「仕方ないよ。ノラは女の子なんだし」

「私も男の子に生まれれば良かったな。女の子なんて、つまんない」

 ノラがぼやくと、アベルとマルキオーレとクリフォードの3人は、顔を見合わせて苦笑した。

 ノラはアベルに馬車で送ってもらって帰宅した。

 ノラが2階の自室に入って行くと、帰りを待ちかねていたミライが変な顔をした。

『お前、今日はどこへ行ってきた?誰に会った?』

 ミライは首をかしげるノラに、矢継ぎ早にたずねた。男爵夫人が視察にきたことを話すと、ミライは難しい顔で黙り込んだ。

「どうしたの?」

『なんでもない……たぶん、気のせいだ』

 翌日の土曜日はみんなでクリフォードの家を掃除に行った。診療所に入院していたフォスターが、ようやく家に帰れることになったのだ。

 4人は協力して布団を日に干し、シーツを洗濯し、机や家具に溜まった埃を掃い、床を磨いた。

「ちょっとぉ。2人とも遊んでないでまじめにやってよー」

 クリフォードとマルキオーレは家中を駆け回って雑巾を投げ合い、シーツをかぶってノラを驚かせ、桶をひっくり返してアベルに怒られた。

 午後になると、パーラー店主のマルタ・ブレトンが、差し入れを持ってやってきた。

「どうもありがとう、ブレトンさん。……その、家賃のことなんだけど……」

「良いんだよぉ、そんなこと気にしなくて。うちはいつでもかまわないんだからさ。それより、親父さん戻ってくるんだろ?なにか手伝うことあるかい?」

「大丈夫。みんなに手伝ってもらって、もうほとんど終わったから」

「そうかい?そんなら、引き上げるとしよう」

 マルタを見送ったクリフォードは、ふぅーっと長いため息をついた。

「……今の、大家さん?」

 リビングに隠れていたノラが姿を現すと、クリフォードは憂え顔をひっこめた。

「差し入れもらったんだ。ノラも喰ってけよ」

「う、うん。ねえ、クリフ……」

「ん?」

「学校をやめるって、もう誰かに言った……?」

 ノラはクリフォードにおずおずとたずねた。

「……まだ。もう少し落ち着いたら、学校に届けを出しに行こうと思ってる」

「……そう……」

「シルビア達が騒ぐから、みんなにはまだ内緒な」

 クリフォードは人差し指を唇にあてて微笑んだ。

「今日は本当にありがとうな。お前等がきてくれて助かった」

 帰り際、クリフォードは3人を見送りに出た玄関先で陳謝した。

「明日、教会に来る?」

「行くよ。みんなに迷惑かけちゃったし、神父様にお礼も言わなくちゃならないし」

「じゃあ、また明日ね」

 クリフォードの家を出て、しばらく荷馬車を走らせて行くと、道の向こうから男爵夫人の馬車がやってきた。立派な黒塗りの馬車の御者台には、リッキーが座っていた。

「やあ。こんにちはみんな」

 御者のリッキーは、わざわざ馬車を停めてノラ達にあいさつした。

「こんにちはリッキー。どこへ行くの?」

「これから用足しに、町へ行くところなんだ」

 リッキーが口にするや否や、ばたん!と箱馬車の扉が開き、背の高い従者が顔を出した。

「おい、リッキー!なにを道草食ってるんだ!早く出さないか!」

 背の高い従者はぷりぷり怒って喚いた。

「また今度、ゆっくり話でもしよう」

リッキーは一度肩をすくめて見せ、去っていった。

「ただいまあ」

 帰宅したノラが2階の自室に入って行くと、ミライがぴょーんと飛びかかってきた。ミライはノラの肩の上で、鼻をぴくぴくさせた。

「どうしたの?あんた、昨日からちょっと変よ」

『危険な悪魔の臭いがする……』

「危険な悪魔?」

『ああ。……くさい。くさいぞ。人間の妄執と、熟しきった怨憎の臭いだ。厄介なやつに目をつけられたな』

 ミライは低い声でぶつぶつと呟いて、ノラを困惑させた。

「退屈だから、からかおうっていうのね。怖がらせようとしても無駄よ」

 ノラは肩の上をちょろちょろするミライの首根っこを捕まえて、めっ!と叱った。

『うそじゃない。昨日はかすかな気配だったのに、今日は腐った卵みたいな、ひどい臭いだ』

 ミライは片方の手で鼻を摘まんで、もう片方の手をぱたぱたさせた。ノラはむっとして、怒りと羞恥に頬を染めた。

「言いがかりは止めてよ。腐ったたまごの臭いなんか、しないじゃない」

『たといだ、たとい。……明日の教会には、私もついて行くぞ』

「ええー」

『今日お前と接触した人間の中に、悪魔に魅入られている者がいる。突き止めて私の獲物……じゃなかった。主に手を出したことを、後悔させてやるのだ』

 そして次の日。

『パン焼き窯の灰を持って行け』

 支度を済ませて家を出ようとすると、服の中に隠れていたミライが、家族にばれないよう、小声で指図した。

「?……そんなものどうするの?」

『用心のためだ。その鞄の中にでも詰めろ。さあ、早く!』

ノラはしぶしぶ、パン焼き窯の中に残っていた灰を鞄に詰めた。

 教会に到着すると、礼拝堂では、華やかな一団が人々の注目を集めていた。

 一番前の席に、シルビアとカレンがレーチェを挟んで座り、その隣に男爵夫人。男爵夫人の隣には、緊張でカチコチになったサリエリが座らされていた。

「まあサリエリ、襟が立っているわ。直しましょうね」

 男爵夫人は、まるで自分の子供にするように、なにかとサリエリの世話を焼いた。男爵夫人の魂胆を知らないサリエリは、戸惑いつつも、ちょっぴり嬉しそうだった。サリエリの耳が赤くなっているのを見て、ノラはむっつりした。

(でれでれしちゃって)

 後ろの列には、背の高い従者と、無愛想なメイド、御者のリッキーが並んで座っていた。

『あいつだ……!あの男だ……!』

 胸元から這い出したミライが、そのうちの一人を指して小声で叫んだ。ノラはミライの指の先にいる人物を確認して、首をかしげた。

「?……リッキーが?」

『間違いない、あの男は悪魔だ。嫌な臭いがぷんぷんする』

 ノラは疑いの目でリッキーを見つめた。リッキーは堪え切れずに大あくびをして、従者の男に叱られていた。

「まっさかぁ」



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