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ノラとパン焼き窯の悪魔  作者: kaoru
小さな町の大事件
44/91

ノラの名案

著作権は放棄しておりません。

無断転載禁止・二次創作禁止

 その夜。ベッドに入ったノラは、家族が寝静まった頃を見計らってベッドを抜け出し、こっそりと窓から外に出た。

「はあっ……はあっ……」

 満天の星空の下を走って走って、クリフォードが寝泊まりしている教会へ向かった。

「クリフー……!」

 途中でアベルと合流し、無事に教会に到着したノラは、窓下からクリフォードに呼びかけた。いくら呼んでも気が付かないので、窓に小石を投げた。

「ノラ……!?アベルも……!」

 クリフォードは窓下に2人の姿を見つけると、目を丸くした。ノラとアベルは慌てて、しーっ!と人差し指を口元に持っていった。

 ノラは家から持ってきたロープの先に石をくくり付け、クリフォード目掛けて投げた。クリフォードは見事に縄の先をキャッチすると、ベッドの脚にしっかり括り付けた。

 ノラとアベルは苦労して壁をよじ登り、クリフォードが待つ客間に侵入を果たした。

「2人ともこんな遅くに、どうしたんだ?」

 クリフォードは驚き半分、嬉しさ半分でたずねた。

「遊びにきたの」

 ノラとアベルは、顔を見合せてうふふと笑った。

「大丈夫なのか?こんなことして……」

「平気よ。お母さんが起こしに来る前にベッドに戻れば」

 クリフォードは2人の訪問をたいそう喜んだ。

 ベッドは狭すぎるので、3人は客間の床に毛布を敷いて横になった。左からアベル、クリフォード、ノラの順番だ。

 よっぽど疲れていたのか、2人の顔を見て安心したのか、クリフォードはお喋りしている内に眠り込んでしまった。ノラとアベルは、クリフォードの寝顔を確認してから、眠りについた。

 翌朝。

「ノラ!ノラ、起きて!」

「うーん、もうちょっと……」

「だめだよ!早く戻らないと、抜け出したのがばれちゃう!」

「はっ!そうだった!」

 ノラとアベルはいそいそと窓から抜け出して、それぞれの家路を急いだ。 地平線には銀色の太陽が顔を出していた。もうすぐ母が起き出す時間だ。

 走って走って家に到着すると、ノラは抜け出すときに使ったロープで壁をよじ登った。窓に足をかけて一息ついていると、母が階段を上ってくる音が聞こえた。

 ノラがベッドに滑り込んだ直後にドアが開き、母が部屋に入ってきた。

「ノラ、起きなさい。もう朝よ」

「う、うーん……」

 ノラはたった今起きたようなふりをして、身を起こした。

 ノラは床にくっきりとついた靴跡を見て、ぎくりとした。窓からはロープが下がったままだ。額からは冷や汗が噴出し、心臓はばくばくした。

「早く下りていらっしゃいよ」

 母が部屋を出て行くと、ノラの胸はえも言われぬ爽快感と、達成感で満たされた。ノラはにんまりと口角を持ち上げた。

『昨夜はどこへ出かけていたんだ?』

「うふふ、秘密よ」

 ノラはその日から、毎晩ベッドを抜け出して、クリフォードに会いに行った。

 はじめびくびくしていたノラは、次第に秘密とスリルを楽しむようになった。ノラが刺激に慣れるのと同じくらいの速さで、クリフォードは元気を取り戻していった。

「マルクもいれば良かったのにね……」

 ある晩、クリフォードが眠ってしまった後で、ノラはぽつりと呟いた。

 ここにマルキオーレがいれば、いつもの4人組だったのに。ノラがそんな風に言うと、アベルは苦い顔をした。

「今度会いに行ってみよう。寂しがりだから、今頃1人で泣いてるわ」

「…………」

「アベル、付いてきてくれる……?」

 ノラがたずねると、アベルは少し迷った後、こくり、と小さく頷いた。

 秘密のお泊まり会が終わりを告げたのは、クリフォードの瞼からくまが消え、肌は血色を取り戻し、瞳に光が戻った頃だった。

 早朝、いつものように教会から部屋に帰ってきたノラは、ドアの外に人の気配を感じて、慌ててベッドに滑り込んだ。

「ノラ、起きろ」

 その日、ノラを起こしに来たのは、母ではなくオリオだった。

「うーん……むにゃむにゃ」

「たぬき寝入りは止めないか。もうみんなばれてるんだ」

 オリオは言うなり、ノラの上に掛けられた毛布を、がばっ!とめくった。靴を履いたままの下半身が出てきて、オリオは額に手をあてた。

 ノラが恐る恐る目をあけると、そこには怖い顔をしたオリオと母が立っていた。

「そこでショーンに会ったのよ。ここへ来る途中にあなたを見かけたって。どういうことなの?どうなってるの?」

 母に問い詰められたノラは、内心で舌打ちした。寝坊をしたショーンが、いつもより遅くに牛乳を届けに来たのだ。しかも運悪く、いつも通る道がぬかるんでいたため、教会側の道を通ってきたという。

「こんな朝早くに、どこへ行っていたの?どうしてこっそり抜け出したりしたの?」

「……もう良いよ母さん。クリフォードに聞けば分かることだ」

 オリオには、なにもかもばれているようだった。頑として口を割ろうとしないノラを、オリオはじろりとにらんだ。

「クリフォード……?ノラあなた、教会に行っていたの?こんな朝早くから?」

「…………」

「まさか……」

 母は顔色を変えた。

「そのまさかだよ。こいつ、夜中に部屋を抜け出していたんだ」

 オリオが忌々しげに言って、母はわなわなと唇を震わせた。

「な、なんですって……!?」

 オリオはそうとう頭にきているようで、ノラが睨んでも冷たい態度を崩さなかった。

「ノラ、いつからなの!?……答えなさい!ノラ!」

「…………」

「女の子が夜中に男の子の部屋を訪ねるなんて、いけないことなのよ!わかってるの!?」

 母はノラの肩を掴んで、がくがくと揺さぶった。

「……なにも変なことしてないもん」

「当たり前です!」

 本格的にお説教をはじめようとした母を、オリオが肩に手を置いて制止した。

「母さん、もうそのくらいで……」

「でも、お前……!」

「部屋に上げたクリフォードにも非はある。ノラだけが悪いんじゃないよ」

 オリオがノラを庇って、お説教はこれで終わりかと、ほっとしたのもつかの間……

「ノラは金輪際、クリフォードとは会わせない。クリフォードには俺から話を付ける」

「ええ!?」

 オリオが断言して、ノラは仰天した。どうしてそうなるの!?

「ま、待ってオリオ……!」

「ノラ、お前の気持ちは分かるよ。悲しんでる友達を、慰めたかったかったんだろ?……クリフォードは、確かに気の毒だ。俺だって助けてやりたいって思う。でもこれは、うやむやにして良い問題じゃないんだ。変な噂をたてられて、傷つくのはお前なんだよ」

「そんなの怖くない!なにを言われたって平気よ!」

 ノラは勇ましく言い張った。オリオははーっとため息をついた。

「お前はまだ小さいから、知らないんだ。お前はただの友達のつもりでも、向こうもそうとは限らないだろ?それにこういうことは、男が責任を持つもんだ」

「…………」

「今回のことは、いい機会だ。クリフォードも納得してくれると思うよ」

 ノラは恐怖し、泣いて謝ったが、オリオは許してくれなかった。後になってアベルが、自分も一緒だったと名乗り出てくれたため、面会禁止令はなくなった。


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