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ノラとパン焼き窯の悪魔  作者: kaoru
物語のはじまり
32/91

ヒューゴ・キャンピオン

著作権は放棄しておりません。

無断転載禁止・二次創作禁止

「ノラ……!」

 ミライを服の中に隠してダンスホールへ戻ると、ヨハンナから解放されたアベルが駆け寄ってきた。アベルはノラの洋服を見ると、きょろきょろとあたりを見回した。

「あれ?さっきの男の子は?」

「もう行っちゃった」

「そう……ノラのドレス姿、もっと良く見たかったのに。残念だな」

 アベルは本当に残念そうに言った。

「ダンス、とっても素敵だったよ。お姫様みたいだった」

「ふふふっ、ありがと」

 それからノラは、アベルと、戻ってきたマルキオーレ、ショーン・カートライト、それからロイ・アリンガムとダンスをした。

 アベルと5回目のダンスを終えて、お互い足がもつれるほどくたくたになった頃。

 ノラのそばを離れていたオリオが、ジョゼットを伴って戻ってきた。

「それ、どうしたの!?」

 オリオのシャツの胸元には、ワインの赤い染みがべったりと付いていた。ノラが詰め寄るとオリオは言葉を濁し、ジョゼットをノラに任せて、井戸の方へ走って行ってしまった。

「ヒューゴが私にかけようとしたのを、かばってくれたのよ」

 ジョゼットの説明を聞いたノラは憤慨した。一緒に話を聞いていたアベルとマルキオーレも、ぷんすか腹を立てた。

「酷いや!女の子にワインをかけるなんて!」

「とっちめてやろう!」

 3人は顔を見合せて頷き合うと、ヒューゴを探しに向かった。

 女たらしのヒューゴは、裏庭で別の女性……クラリッサ・アダムを口説いていた。

「さっき軟弱者のオリオ・リッピーを軽く投げ飛ばしてやったんだ。あいつ泣きべそかいて逃げてったよ」

 聞きたくもない自慢を聞かされて、クラリッサは迷惑そうだった。

 建物の影から2人の様子をうかがっていると、直ぐ近くの茂みに潜んでいたクラリッサの弟……ブレンダン・アダムと目が合った。通じ合うものがあった四人は、お互いが飛び出すタイミングをを見澄ました。

「今よ……!」

 ヒューゴが後ろを向いたところを狙って、ノラとアベルとマルキオーレの3人は物影を飛び出した。ブレンダンも後に続いた。4人は音もなくヒューゴに忍び寄ると、がばっ!と彼の背中に飛び付いた。

「うわ……!」

 後ろから突然襲いかかられたヒューゴは、驚きと重みで地面に尻もちをついた。

「な、なんだ……!?」

 ノラはアベルとマルキオーレとブレンダンがヒューゴを羽交い絞めにしている間に前に回り込み、そのズボンに手をかけ……

「きゃっ」「あら」「まあ」「えへへ」「あー……」

 ずるり。

「わあああ―――っ!」

 絶叫したヒューゴは、じたばたともがいて3人の腕を振り解くと、大慌てでズボンを引き上げた。

「この餓鬼ども!なにしやがる!」

 クラリッサの前で恥をかかされたヒューゴは、羞恥と怒りで顔を真っ赤にして唸った。

「あはははは!」

4人が高らかに笑うと、ヒューゴは激昂して、ノラに掴みかかってきた。ノラはヒューゴの腕をひらりと避け、そのお尻を蹴たくった。

「マルク!」

「おお!」

 ヒューゴが体制を崩したところに、マルキオーレが飛びかかった。ノラは勝利を確信し、にやりと口角を持ち上げた。パンツを下ろすだけじゃ生温い。捕まえて縄でふん縛って、教会の前のセコイヤの木に吊るしてやるろう。首から『最小の男!』と書いた札を下げさせて……

「うわあ!」

 ところが。ことはノラの期待通りには運ばなかった。馬乗りになっていたはずのマルキオーレは、ヒューゴにやすやすと投げ飛ばされた。

「マルク!?」

 ノラは一撃で伸びてしまったマルキオーレに駆け寄った。信じられない。マルキオーレの巨体を投げ飛ばすなんて!

「……4人とも裸に剥いて教会の前の木に吊るしてやる。神様にでも許しを乞うんだな!」

 ヒューゴが低い声で唸り、ノラの全身の産毛が栗立った。どこかで聞いたような台詞だ。

「マルク起きて!起きなさい!」

 ヒューゴの目は今や、飢えた狼のように血走っていた。彼の手が伸びてきて、ノラとアベルは慌てて、大の字になっているマルキオーレの腕を引いた。

「こんのでぶぅ~っ……!!」

 しかし、ノラとアベルの細腕で、この肥満児を運んで逃げることなどできるはずもなく、あっという間にえり首を捕まえられた2人は、恐ろしさに身をすくませた。脳裏には4人で仲良く木に縛り付けられている姿が、ありありと浮かんだ。

(ひー!)

 悪戯をして洗濯物と一緒に干されたことならあるが、すっぽんぽんははじめてだ。

「くくくっ……大人しくしてなよお嬢ちゃん。こう見えても俺は紳士なんだ。いくらひどい目に合されたからって、女の子に怪我させるような真似しないよ。ただ、ちょっとばかし恥じかいてもらうだけさ」

 大声を出して誰かに助けを求めるほかないと考えたノラが、口を開きかけたその時……

「この野郎!なにしてやがるっ!」

「ぐあっ!」

 白目をむいているマルキオーレのすぐ隣に、ヒューゴが頭から倒れ込んだ。ブレンダンに呼ばれて駆けつけてきたオリオが、ぐーで横殴りにしたのだ。

「ヒューゴお前、誰の妹に手ぇ出してんのか、わかってんだろうな!」

「リッピー!?……ち、ちがう!これは先にお前の妹が!」

 ヒューゴは尻もちをついたまま弁解した。

「その子は私を助けようとしてくれただけよ!」

「そんな!クラリッサ!」

 クラリッサに裏切られたヒューゴはたちまち青ざめた。オリオは左手で右拳を包み込んで、小指から順番にゆっくりと指を鳴らした。

「悪かった!お前の妹だなんて知らなかったんだ!」

 1、2、3、4本目の人差し指がパキン!と音を立てたところで、ヒューゴはすたこらさっさと逃げ出した。

「だめじゃないか。危ないことしちゃあ」

 ヒューゴが行ってしまうと、オリオは、めっ!とノラをたしなめた。

「ごめんなさあい……」

 ノラは素直に謝った。先ほどの様子を見る限り、ノラの手助けは必要なかったようだ。普段温厚な兄の、新たな一面を見た気がした。

「本当にありがとう。しつこくて困っていたのよ」

 成り行きでヒューゴの魔の手から助け出されたクラリッサは、ノラとアベルに、丁寧にお礼を言った。2人は顔を見合せて、えへへと笑った。その後ろではマルキオーレが目を覚まし、きょろきょろとあたりを見回した。

「それで、あの、良ければなんだけど……」

 クラリッサは頬を赤らめて、もじもじと続けた。

「私と、踊ってもらえる……?」

 クラリッサがダンスを申し込んだ相手は、オリオだ。ノラはオリオを肘で小突き、アベルがぴゅーっと口笛を吹いて、ブレンダンは、ちぇっと舌打ちした。

「行こうか……」

 オリオはノラをじろりとにらんだ後、クラリッサに向って手を差し出した。2人は連れ立ってダンスホールに戻って行った。

 ノラとアベルとマルキオーレもダンスホールに戻り、端の方に設けられたソファに座って、オリオとクラリッサの物馴れぬダンスを見物した。

「アベル、ここにいたのね」

 そうしていると、アベルの母のフランカ・バスティードがアベルを探しにやってきた。

「どうしたの?お母さん」

「悪いけど、疲れたから先に帰るわね。あなたはナックルさん達の馬車で買ってくると良いわ。話してあるから」

「なら、俺も一緒に帰るよ」

 アベルは迷わずに言った。

 アベルの家は母1人、子1人の母子家庭で、アベルの父親はアベルが生まれる前に亡くなった。そのせいか、アベルはとても母親思いだ。フランカを見て、あんな優しいお母さんなら当り前か、とノラは思う。フランカはノラの母と違って寛容で、怒ったところなんて見たことがない。

「それじゃあノラ、マルク、また明日教会でね」

「うん。気を付けてね」

 ばいばい。と手を振って、アベルはフランカとともに帰って行った。

マルキオーレと2人きりになったノラはソファに沈み込み、ホールの様子をぼんやりと眺めていた。

 もう真夜中だというのに、パーティは終わる気配を見せない。飲み物は次々追加されてくるし、人々はへとへとになるほど踊り疲れていても、新しい曲がはじまれば息を吹き返し、ダンスホールに舞い戻って行く。

 騒音はノラを安心させ、人々の笑顔は、ノラを幸福な気持ちにさせた。甘く気怠い時間が流れた。

「……これやるよ」

 ノラが目を細めてホールの様子を眺めていると、マルキオーレがずいっと拳を付き出した。

「?……なあに?」

 マルキオーレは固く握り込んでいた拳を開き、中に持っていたものを、ノラの手のひらに落とした。

「綱引き相撲の優勝賞品。男の俺が持っていたってしょうがないから」

 マルキオーレがもったいぶって手渡したのは、金の指輪だった。ノラは驚き、まぶたを大きく見開いた。

「すごいわマルキオーレ!まさか優勝するなんて……!」

「えへへ……」

 マルキオーレは頭をかきかき、照れくさそうに笑った。

「それでその……もらってくれる?」

「いいの?せっかくの記念なのに……」

「ノラにもらってほしいんだ」

 マルキオーレは真剣な口調で言った。

「……どうもありがとう」

 ノラが喜んで指輪を受け取ると、マルキオーレはほっと胸を撫で下ろしたが、次の瞬間には顔を引き締めた。

「それでさ、それで俺、ノラが……」

「うん?」

「ノ……ノラのことが……す、すすす、す、好きなんだ!!」

 マルキオーレは額を汗でびっしょり濡らして、大きな声で告白した。近くにいたエリス・カートライトが目を丸くするほどの音量で、ノラは苦笑した。なにを言うかと思えば!

「私も好きよマルキオーレ。大好きよ」

 ノラがはきはきと告げると、マルキオーレはしかめていた顔をぱあっと綻ばせた。思いが通じ合った2人は、にこにこと微笑み合った。

 賑やかな喧騒の中、空に瞬く満点の星空に見守られ、年に1度の祭の夜は更けていった。



凄い宣伝したけど、名前間違えてました……

正しくは、ヒューゴ・キャンピオンです。キャンピオン家の長男。

アリンガムは、ロイだったね。本当すみません、眠気を堪えながら書いてるもんで、つい……


★次回『祭りが終わって』お楽しみに!


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