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ノラとパン焼き窯の悪魔  作者: kaoru
物語のはじまり
24/91

かたき討ち

著作権は放棄しておりません。

無断転載禁止・二次創作禁止

 一方、ノラが母に連れ帰られた後。

 教室に残ったマルキオーレとアベルとクリフォードの3人は、どうやって友人の敵を討とうかと話し合っていた。

「あの生意気なちび、今日こそ懲らしめてやる!」

 マルキオーレは猛々しく言って、どんっ!と拳で机を叩いた。

「でも、捕まるかなぁ。サリエリが本気を出したら、クリフにも追い付けないんだよ」

「あいつ、鈍いくせに足だけはやたらと速いんだよな」

 サリエリに駆けっこで敵う子は、この町にはいない。悪戯してやろうと思って追いかけ回したことなら何度もあるが、捕まえられた例がないのだ。

「待ち伏せだ」

 クリフォードが提案した。全員ではさみ打ちにすれば、いくらすばしこいサリエリだって、逃げられないに違いない。

「夜仕事に行く時は、1人で橋を渡るはずだ。そこを狙おう」

「クリフ、良く知ってるね」

「俺んち、あいつが働いてる酒場の近くだからさ。それじゃ、五時半に教会の前に集合な」

 クリフォードがさっさと決めると、マルキオーレが慌てた。

「ちょ、ちょっと待って!暗くなってから抜け出したりしたら、親父に叱られる!」

「なんだよ。サリエリを懲らしめてやろうって、最初に言い出したのはお前だろ」

 クリフォードは呆れた声で言った。

「そうだけど……夜はまずいよ!」

「上手くやれば平気さ。ノラの敵を打ちたくないのか?」

「う、ううん……」

 マルキオーレは唸って、口を噤んだ。アベルは片手を挙げて「俺は平気だよ」と伝えた。

「多数決で決まり。遅れんなよ」

 とは言ったものの、夕方、マルキオーレは時間が来ても集合場所に現れなかった。

「仕方ない、俺達だけでやろう」

 クリフォードとアベルは、2人でサリエリを捕まえることにした。教会から少し行ったところに流れている川。クリフォードは橋のこちら側に、アベルは孤児院側に身をひそめて、サリエリがやってくるのを待った。

 6時近くなると、孤児院の方からサリエリが操縦する荷馬車がやってきた。辺りは真っ暗で、御者台に座るサリエリは、手綱と一緒にたいまつを握っていた。

 クリフォードは荷馬車が橋の上を通過するところを見計らって、馬の前に飛び出した。サリエリは驚いて手綱を引いた。

「今日こそ逃がさないぜ。覚悟しろ!」

 クリフォードは、叫ぶと同時に飛びかかった。サリエリは慌てて御者台を飛び降り、孤児院の方へ走り出したが、待ち伏せしていたアベルが道をふさいだ。

 後ろはクリフォード、前はアベル、左は荷馬車で、右側は冷たい川だ。サリエリは狭い橋の上で、完全に逃げ場を失ってしまった。勝利を確信したクリフォードは、にやりと口角を持ち上げた。

「それ!かかれー!」

 号令と共に、2人は同時にサリエリに飛びかかった。たいまつがサリエリの手を離れ、橋の上を転がり、川の中に落ちた。

 真っ暗闇の中、三人は激しく揉み合った。しばらく上になったり下になったりしていると、ばしゃんっ!と大きな水音がして、1人が橋の下に落ちた。

水の中にいたのは……

「クリフ!?」

 クリフォードは川底に尻もちをついたまま放心していた。サリエリを投げ飛ばすはずが、反対に投げ飛ばされたのだ。アベルがあわてて救出に向おうとしたその時だ。

「なにごとですか!?」

 孤児院の方から、たいまつを掲げたギネヴィア・タリスン院長先生が、大きな子供達を伴って駆けてきた。げげ、まずい。

「まあ!なんてこと!」

 タリスン院長先生は、川にどっぷりと浸かったクリフォードを見ると仰天した。

「ジャンマリア!正直に答えなさい!これはあなたがやったの!?」

 タリスン院長先生は、きっと眉を吊り上げて、サリエリに詰め寄った。アベルはあわてて2人の間に割り込んだ。

「ち、違うんです!俺達サリエリに……その、話を聞こうと思って……」

「話ですって?」

 見え透いた嘘をつくアベルを、タリスン院長先生は胡散顔でにらんだ。

「国立魔学校の入学試験のこと……俺達の友達も、同じ試験を受けたんです。その子が落ちたって聞いて、それで……」

 アベルはもごもごと言いかけると、サリエリは悲しそうにまぶたを伏せた。

「……聞いています。ノラ・リッピーは、とても優秀な女の子だとか……」

「そ、そうなんです!俺達、絶対ノラが受かると思っていたから……その……」

 タリスン院長先生は、長く深いため息をついた。

「……言いたいことはだいたいわかったわ。しかしその件については、あなた達が騒ぐまでもありません。この子は入学を辞退しますので。……そうよね?ジャンマリア」

 サリエリは答えず、しょんぼりと項垂れて地面を見つめた。アベルは首をかしげた。

「辞退?なぜですか?」

「ジャンマリアは、私や孤児院の運営委員の方々になんの相談もせず、勝手に試験を受けたのです」

「でも、せっかく合格したのに……」

「……奨学金があるとはいえ、帝都までの旅費や支度などで、入学には大変なお金がかかります。孤児院には大きな子が5人いますが、みんな進学を諦めています。ジャンマリアばかり勝手は許されません」

 タリスン院長先生はきっぱりと言って、サリエリは悔しそうに唇をかんだ。

「へっくしゅん!」

 いつの間にか川から上がった濡れねずみが、大きなくしゃみをした。

「服を貸してあげるから、一緒にいらっしゃい。……ジャンマリア。あなたは早く仕事に行きなさい」

 タリスン院長先生は、2人を孤児院に連れて行き、クリフォードにサリエリの服を貸し与えた。見覚えがあると思ったら、よれよれのカーキ色のシャツは、前にジャック・フォローズが着ていたやつだった。クリフォードとアベルは人に見られないよう、こそこそ家に帰った。

 次の日。

「昨日、なんで来なかったんだよー」

 クリフォードは学校に登校してきたマルキオーレを捕まえて文句を言った。

「ご、ごめん。……へへへっ、腹が痛くなっちゃってよ」

「ちぇっ。しようがないやつ」

 授業がはじまる直前になっても、ノラは登校してこなかった。

「おばさん、そうとうきてたからなあ……これはしばらくかかるな」

 空席を見つめて、マルキオーレが予測した。

「ノラ、大丈夫かなあ……」

「平気だろ。あいつ忘れっぽいから」

 心配するアベルに、クリフォードが鼻をすすりながら答えた。

 職員室からガブリエラが出てきて、3人は自分の席についた。

「ノラは今日もお休み?……まったく、しようのない子ね」

 ガブリエラはノラの席を見ると顔をしかめて、ぶつぶつ言った。アベルとマルキオーレは顔を見合わせ、クリフォードはむっとした。

 討たなければならない敵がもう1人いたことに気付いたクリフォードは、休み時間に大きな蜘蛛を捕まえてきて、ガブリエラ先生が黒板の方を向いている隙に、背中にくっ付けた。

「先生!先生の背中に毒蜘蛛が!!」

 クリフォードが席に戻ったところを見計らって、悪戯好きのベン・ウォルソンが叫んだ。

「きゃあああっ!」

 シルビアやカレンがわざとらしく絶叫し、教室は騒然となった。

 ガブリエラは背中の蜘蛛を取ろうとして、自分のしっぽを追いかけ回す犬のように、くるくると回り続けた。職員室からオーボー校長先生が出てきた時にはもうくたくたで、ガブリエラはオーボー校長先生の計らいで、早退することになった。



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