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ノラとパン焼き窯の悪魔  作者: kaoru
物語のはじまり
21/91

試験当日

著作権は放棄しておりません。

無断転載禁止・二次創作禁止

 試験当日は、日曜日だった。ノラはみんなが教会に向かう際、頭が痛いと言って家に残った。こっそり抜け出して試験を受けに行く作戦だ。試験開始は九時からなので、みんなが8時半に家を出たとしても、走れば間に合うはず……

「本当に1人で大丈夫かい?お兄ちゃんが一緒にいてやろうか?」

 と思ったのに。心配した兄のオリオがなかなかノラのそばを離れようとせず、家を出るのが予定より10分も遅れてしまった。

(どうしよう……間に合わないかも……!)

 ノラは人気のない道を走りながら、泣き出したいような気持だった。今日のために用意万端整えてきたのに、まさか遅刻なんて!

(……いや!諦めない!)

 わき目もふらずに走った結果、ノラは試験の開始時間の5分前に、教室にすべり込むことができた。教壇の前にはヘルガと校長先生がいて、教壇の後ろの黒板には、試験問題が見えないよう、布がかけられていた。

「おはようノラ。試験開始まで、席に座っていて」

 ノラはヘルガに指示された席について、教室内を見回した。ノラの席から少し離れたところに、ショーン・カートライトと、ジョゼフ・ボナリが座っていた。サリエリは……

(……まだ来てない……?)

 試験開始時間まで、あと3分ほどだ。お便所に行っているのかと思ったが、サリエリが座る予定の席には荷物がなかった。

(まさか、来ないつもり……?)

 あと2分。ノラはそわそわして、教室の扉をにらんだ。

「……みなさん、そろそろ時間ですので、本を閉じて前を向いてください」

 残り時間が1分になっても、サリエリは教室に姿を現さなかった。……んもう!こんな大切な日に、なにやってるのよ!

「時間になりました。これより、国立魔学校の入学試験を開始します」

 試験時間ちょうどになると、ヘルガが小さなため息とともに告げた。ノラはおずおずと手を挙げた。

「あの、ヘルガ先生……」

「なあに?ノラ」

「サリエリが、まだ……」

 来ていません……ノラが言い切る前に、ヘルガは首を左右に振った。

「残念だけど、開始時間は変えられないわ」

 ヘルガがきっぱりと告げて、ノラは口を噤んだ。

「では、試験をはじめます。前の黒板に書いてある問題の答えを、自分の黒板に書いて下さい。1問終わったら答え合わせに行きますので、静かに手を挙げて。チョークが折れたり、具合が悪くなったりした場合も同じよ。わからない問題は飛ばして大丈夫よ」

 ヘルガと校長先生が黒板にかけられた布を取り払うと、試験がはじまった。

(集中しなきゃ……)

 サリエリのことなんて、気にしている場合じゃない。最初のテストは、ノラが得意な文学だ。ノラは気を引き締めて、黒板にびっしりと書かれた問題に取りかかった。

 サリエリが教室に飛び込んできたのは、試験開始から約1時間後の、午前10時頃だった。文学のテスト時間は、あと20分ほどしか残っていなかった。

(……こんな時間にきたって遅いわよ)

 たった20分足らずでは、いくらサリエリの頭が良いと言っても、半分解くのが関の山だろう。ノラは心の中で、ふんっと鼻を鳴らした。

 ノラの方は、残すところあと2問だった。ノラは順調に問題を解き、5分前には、文学のテストを終了した。

 すべての試験が終了すると、ノラは机の下で、拳をぎゅっと握りしめた。勝った!

 ノラはちらりとサリエリの方を盗み見た。サリエリは青い顔で、机の木目をじっとにらんでいた。

「…………」

 なにがあったか知らないが、1時間も遅刻すれば力を出しきれないのは当然だ。寝坊なんてするタイプじゃないから、出かけになにかあったのかもしれない。

 落ち込んでいるようなら慰めてあげても良い。などとノラが考えていると、ショーン・カートライトが近付いてきた。

「試験、どうだった?」

「まあまあだったわ」

 ノラはかなり謙遜した。

「……そっちは?手ごたえはあった?」

「さっぱり。ジョゼフもぜんぜんだめだったって。合格は君で間違いないだろうね」

 ノラはすっかりその気になった。合格を確信したノラは、その後の面接でも緊張することなく、すらすらと受け答えすることができた。

 学校を出ると、クリフォードとアベルとマルキオーレが待っていた。

「試験はどうだった?難しかった?」

「ぜーんぜん。けっこう簡単だったわ」

 アベルの質問に、ノラは満面の笑みで答えた。

「なんだ。泣いて出てきたら、慰めてやろうと思ってたのに。つまんないの」

 クリフォードは憎まれ口を叩いた。ノラが言い返そうと口を開く前に、マルキオーレが割り込んだ。

「ノラ、早く帰らなくて良いのか?兄ちゃんが帰ってくるまでに、部屋に戻らなくちゃならないんだろ?」

「そうだった!クリフなんかにかまってる場合じゃなかった!」

 ノラがわざとらしく大きな声で言うと、クリフォードはちぇっと舌打ちした。ノラはアベルの馬車で、家まで送ってもらった。

「アベル、どうかした?」

 ノラは馬車の上で、どことなく浮かない顔のアベルにたずねた。

「ごめん、楽しい気分に水を差しちゃって……」

「良いのよ、そんなこと……なにかあった?」

「ううん……ただ、来年からノラはこの町にいないんだと思うと、俺……」

 アベルは悲しげに呟き、ノラははっとした。帝都へ行くということは、家族とも、友達とも、お別れするということなのだ。試験に合格することに必死で、その先のことはぜんぜん考えていなかった。

「……気が早いわアベル。まだ半年以上も先のことじゃない。それに、学校を卒業したら必ず戻ってくるわ」

「そ、そうだよね……一生会えないわけじゃないもんね」

 家に帰ったノラは、部屋に戻って寝間着に着替え、素知らぬ顔でベッドに入った。

「オリオ、私がいなくなっても、ちゃんと毎日仕事に行かなきゃだめよ」

 やがて教会から帰ってきたオリオに、ノラは言った。

「なんだい急に?どこかへ行くのかい?」

「もしもの話!……それから、オリオの彼女は私が見つけてあげるからね。私がいなくて寂しいからって、恋人なんて作ったらだめだからね」

 ノラが口を尖らせて言うと、オリオは目をぱちくりさせた。

結果が発表されるまでの3日間、勉強の代わりに仲間達と遊ぶ時間が増えたこと以外、変わったこともなく、日々は平凡に過ぎた。

 クラスメート達は、国立魔学校に入学するのはノラで間違いないだろうとうわさし、ノラ自身もすっかりその気で、頭のすみで『餞別になにをねだろうか』などと考えていた。



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