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見習い ①

 夢を見た。不思議な夢だ。


 雲ひとつ無い青空の下、どこまでも広がる鏡のように静まり返った海面を彼女は白いワンピースを着て歩く。沈むかもしれないという恐怖は感じなかった。人間が海の上を歩くなど、夢の世界以外にありえないと分かっていたからだ。


 あの果てしない海の向こうには何があるのだろう。


 世界の果てまで辿り着いた人間は未だにいないと父から聞かされた。

 家庭教師にたずねてみても、ある者は分からないと正直に答え、またある者は、世界の果ては巨大な滝になっていて水が地獄へ流れ落ちていると宣った。


 しかしそれを実際に見たのかと問えば答えに窮した。


 結局誰も世界の全てを知ってはいない。知るものがいるとすれば、天上に座す神だけなのだろう。だがいつの日か世界の秘密を解き明かす人物が出てくるに違いない。


 もしも自分がその冒険に加わることができれば、どれほど楽しいことだろう。


 王宮での生活も、次期女帝という身分も、権力も財も全て放り出して気ままな旅が出来ればどれほど素敵なことだろう。ルーネは腕を一杯に広げて空を仰いだ。


 この世界全てを腕の中に抱きしめてみたい。


 そんな途方も無い願いを胸に抱いたとき、不意に雲行きが怪しくなり、大波が押し寄せ、雷鳴が轟いた。荒れ狂う嵐に晒された彼女の頭上に波が覆いかぶさる。


 どこまでも深く、どこまでも暗い海の底に沈んでいく……。


 冷たく、光の無い闇の世界。浮き上がろうと必死で手足を動かすが水面は遠ざかり、やがて暗闇だけが彼女を包み込んだ。逃れることの出来ない檻の中。光を求めて手を伸ばす彼女の手首を力強く誰かが掴む。


 これは誰だ。優しく、温かで、しかし確かに強く硬い手の感触。


 暗い海の底から引き上げられ、ルーネは再び水面に顔を出した――。

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