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出航 ②

 帝都での戦いから一夜が明けると、戦いの傷跡がいたるところに見てとれた。

 宮殿や庭園、また都の建物などに無数の弾痕が生々しく刻み込まれ、昨日まで大公の側で戦っていた兵士たちは傷の治療のために都の医師や軍医が設けた簡易テントの前に整列していた。


 列の中には剣と銃火を交えた海賊たちの姿も見受けられた。

 弾を打ち込まれ、あるいは剣で切りつけられた仲ではあるが、互いに下らない冗談を交わして白衣の天使たちのきめ細やかな手に酔いしれている。


 一方で、港の倉庫には戦いで命を落とした者たちが麻袋に入れられて積み上げられていた。

 皇女派の兵士たちから言ってみれば、大公派についた兵は反乱軍である。

 軍として正式な葬儀が行われることに反発する者も少なくなかった。

 しかし、それに待ったをかけた者がいた。


 皇女ルーネである。


「彼らは叔父の謀略を知らず、ただ国家のためを思って銃を取って戦ったはず。だから帝国の兵として弔ってあげてほしい」


 と、ローズに訴えかけた。


 皇女の言葉ならば是非も無いと、ローズは早速帝都に残された部隊に通達を出した。

 本来ならば軍を統括する大臣の責務であろうが、大公についていた重臣の多くが皇女の名のもとに権限を剥奪され、今となっては爵位だけが残った一介の人間に過ぎなかった。

 元より生き残った兵たちは全て皇女に従う意向を見せていた。


 彼女の為に手を貸した海賊たちも同様である。

 約束の私掠免状をいつになれば貰えるのかと心を踊らせ、ついでに帝都の海峡での海戦で沈められた船の新調や、武功に報いる金銀なども頂戴出来無いものかと企んでいた。


 そして、件の皇女は改めて宮殿に帰還したことを貴族たちに宣言し、各地方に向けて大公の悪事と事の顛末を報せるように指示を出した。

 このときの貴族たちの顔ときたら、ルーネはこみ上げてくる笑いを堪えるに必死だった。

 皆、別人を前にしたかのように目を丸くして口をぽかんと開けっ放しだったのだから。

 彼らの中では皇女ルーネフェルトといえば出来のいい人形のように物静かで、常に微笑を保ち、高貴な雰囲気に包まれた少女であったのだろう。

 だが荒波を乗り越え、自らの手で大公に銃弾を撃ち込んだルーネは既に次なる帝位を継ぐ者として相応しい威厳を備えつつある。


 ルーネがどんな思いで船に乗り、どれほどの決意と覚悟でこの地に戻ってきたのか、彼らは知る由もない。

 知ったとしても理解出来る者は少ないだろう。

 だからこそルーネは自らが先頭に立つと決めた。

 今や自分こそが、この帝国という巨大な船の船長に他ならないのだ。

 邪魔をするものは容赦しない。

 私は私のやり方で全てをやり遂げる。

 それが彼から学んだ流儀なのだから。

 と、自室の鏡の前に座る彼女の海よりも深い蒼き瞳の中に、赤々とした炎が燃え盛っていた。

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