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教会 ④

「そうか……遂に牙を剥いたか」


 純白のカーテンの奥に座る当代の法王カテドラのしわがれた声が、静まり返った室内に響いた。

 齢八十を迎える教会内の長老であり、歴代法王に比べて特に功績があるというわけではない一見凡庸な人物に見えるが、陰ながら教会の特権を活かして不道徳な財を築く老獪な人物でもあった。

 噂によれば法王に選定されたのも、その財力によるところが大きいとも囁かれていた。

 報告を受けたカテドラはさも憂いのある溜息を吐くが、その心に浮かぶものは信仰に対する不安ではなく、自らの絶対的な利権を奪われるのではないかというものだった。


「愚かな小娘じゃ。神の怒りを恐れぬとは傲慢の極み」


「法王猊下、如何取り計らいましょうか?」


 主教が恭しく訊ねると、カテドラは杖をついて立ち上がり、世話係の若き少女にカーテンを開けさせた。


「この教会を弾圧する者は、神に対する反逆である」


「はい。仰せの通り。しかし、此度は女帝直々の勅命。猊下げいかの御力にすがる他は御座いません」


「やむを得ぬ……」


 重々しい足音を響かせながら主教に歩み寄ったカテドラは、彼の肩をシワだらけの手で掴む。


「女帝には、帝位から降りて貰わねばならん」


「げ、猊下!? そのようなことが……っ!」


「何を驚くことがある。我らは神の使徒なるぞ。どうして小娘の思い通りになるものか」


「し、しかし、もし帝国軍が動くようなことになれば、武器を持たぬ我らはたちまち……」


「狼狽えるではない。軍といえど所詮は個人の集団。兵の中には神罰を恐れる信心深き者も多かろう。だが、備えるに越したことはない。幸いにも神は我らに加護を授けて下さっている」


「何か策がおありで?」


「おるのだ。女帝を倒すにうってつけの連中が。その者どもと我らの目的と利害が一致するならば、女帝に対抗することは十二分に出来るであろう」


「一体、その者たちとは?」


「帝国の栄光の陰だ。今は地下の暗闇に潜んでおる。魔物の如き汚れた愚か者どもではあるが、使いようによっては、神の鞭として女帝を打ち据えてくれるであろう」


 口の端を吊り上げて笑う聖者の顔が、主教には酷く邪悪なものに映った。

 カテドラは座に戻ると全員を退室させて部屋の明かりを全て消し、暗闇の中で思案を巡らせる。

 女帝との聖戦で最も大きな障害は何か。

 脳裏に真っ先に浮かび上がったのは、二人の人間の顔。


 隻眼の灰色狼ヘンリー・レイディンと、銀髪の女侯爵ローズ・ドゥムノニア


 この二人を排除しなければ事は成就しないであろう。

 そして三人目の男の名が閃く。

 灰色狼の命を仕留められる刺客の名を。

 深い皺が刻まれた頭脳で次々と計画が練り上げられ、瞑想は夜通し続いた。


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