終戦 ⑤
後日、戦いの論功行賞が正式に発表された。
各個人の武功や、戦勝への貢献度などが重視され、家柄だとか爵位などは評価から徹底的に排除された。
不埒な大貴族の中には袖の下で息子を出世させようと目論む者もいたというが、いくら金を動かしたところで、当人がどのような結果を出したかは当時の部下などに聞けば動かしようがない。
そもそも最終的に恩賞の裁可は女帝の意思によるのだから、彼らの金銭的親心は殆ど意味をなさなかった。
かくして帝国議会で議決された恩賞はその功績に沿った勲章と共に、女帝自らの手によって授与された。
ランヌには帝国最高勲章と共に、男爵位と彼の希望により地方の小さな農園を新たに領地として与えられた。
曰く、老齢ゆえに今後は軍務から身を引き、農園で静かに余生を愉しみたいとのことだった。
事前にこれを知った帝国軍首脳部は当然ながら難色を示した。
彼らからすれば、今後も陸軍の顔として参謀総長と共に総司令として将兵を率いてくれるものと思っていたからだ。
特にカールハインツは強硬に反対し、正式発表の前夜にランヌの部屋に押し入って説得を試みたという。
「老いを理由に前線から身を引くならそれもよかろう! ならば、陸軍大学校の校長ならばどうだ! 名誉職ではあるが、貴様も後進の育成ならば文句はあるまい!」
仮にランヌがあと十年若ければ、受け入れていたかもしれない。
だが彼は尚も首を横に振った。
「わしはとうに退役して然るべきであった。それが何の縁があってか、かくのごとく最後の務めを果たすことも出来た今、老兵がいつまでも地位に居座っていては後輩どもの迷惑というものであろう。若い者から老害と陰口をたたかれるくらいならば、田舎に引っ込んで農夫の爺になったほうがマシというものじゃて。女房にもこれ以上心配をかけたくないのでな」
夜を徹した説得も実らず、ついにカールハインツも戦友の意思に折れた。
次に軍功第二位とされたローズには、海軍大将への昇進と帝国海軍司令長官の要職が与えられた。
これに伴って海上勤務からは外れたものの、彼女の両手に海軍の全てが委ねられた。
また彼女の爵位も伯爵から侯爵へ格上げとなり、領地も拡大された。
よって海軍戦力だけでなく彼女の家が抱える私兵の数も増えるだろう。
「我が身に余る栄誉を賜り、御礼の申し上げようも御座いません。命の限り、陛下のため微力を尽くします」
司令長官として恩賜の剣を受け取った彼女に対し、ルーネは微笑んで頷いた。
同じ席で、ヘンリーにも恩賞が下賜された。
「准男爵ヘンリー・レイディン卿。貴殿を帝国海軍大将に任ず。更に帝国領の各港湾に専用の屋敷を賜る。以後、さらなる忠勤に励むべし」
議会を代表して宰相アーデルベルト公が恩賞の内容を読み上げるも、ヘンリーは唐突に挙手する。
「有難き幸せと答える前に質問をいいか?」
「……何か?」
「大将というが、俺の行動と私掠船団は今まで通り自由なんだろうな?」
「その点は心配ない。私掠船団は貴殿の指揮下にある」
「ならいい。謹んで御受け致す」
この問答を上座から見ていたルーネは、口元を抑えて笑いを堪えていた。
ヘンリーにしてみればまさにそこが肝要であったのは間違いない。
勲章の親授も滞りなく終わり、他の将兵にも相応の昇進があった。
将官未満の士官に対しては書類上で通達された。
ジョニーは白薔薇擲弾兵連隊の詰め所でそれを上官から渡された。
「ジョニー・ウェリントン中尉、か。夢未だ遠し、だなぁ」
ジョニーは自室で荷物を纏めていた。
戦後の休暇が認められ、故郷への帰省が許された故のことで、一応は錦を衣て帰る形となった。
父と母の顔が目に浮かぶ。昇進を喜んでくれるだろうか。
それとも、人殺しをしてきた息子を怒るだろうか。
いずれにせよ、彼は重たいカバンを背負って旅路につく。
戦いが終わり、死した者たちは永遠に眠れども、生き残った者たちは未来に向けて歩まねばならない。
それぞれの戦後、それぞれの未来を、それぞれの自由に従って迎えていく。
そして歴史は奇しくも、この五人を中心に時の渦を荒れ狂わせていくのであった。




