旅人と歌姫
「なぁなぁ、ここの物資、もっと安くならないか?」
「無理、こちとて生活が掛ってんだよ、文句言うなら別のとこにいきな」
道具屋の前で交渉する一人の旅人の名前はジェム、
約8年間旅商人として生活してきた彼にとって、仕入れるものは全て値段を下げないと
気がすまないらしい、商人としてのプライドが許さないとでも言えばいいのだろうか
「そこを何とかできないか?」
「無理ったら無理だよ、他当たりな、分かったかい?僕」
分かったよ、と言って後ろを向き悪態を吐きながら、テクテクと町を進む
「くっそ、あと少しだったのに、どうしょっかなー……?あれ?あの子って…」
ジェムの目に映ったのは、放浪の歌姫と呼ばれている少女、エクストルだった。
彼女は色々な町や国を旅しながら歌を歌っているのだ、
「…だからさっきから言ってるでしょ!、私はもう、歌えないの!」
「何を言っているんだ、もう今更戻ることなんてできないんだ」
その口論は、周りの人を少しざわめかせるだけで、他の影響は特に無い、
だが、その話を聞いたジェムはとてつもなくがっかりしている、
なぜかと言うと、ジェムは彼女の大ファンだからだ。
「兎に角、もう私の後について来ないで!」
そう言うと、エクストルはジェムの方へと歩いてきた。
ジェムは慌ててそっぽを向き、横目でエクストルを見る、どうやら宿屋に行ったみたいだ。
「エクストルが歌えないなんて……、せっかくだし会って理由を聞いてみよう…、」
そしてジェムは、エクストルが入っていった宿屋に行くことにしたのだった。
昼間なのに男たちが酒を飲んでガヤガヤと騒いでいるのを尻目に、トコトコと歩いて
エクストルの部屋に向かっているジェム、
「ここだよな、」
どう見たって他の部屋よりも汚い部屋にエクストルが居るなんて思えないが、行ってみなければ分からない
ので、兎に角ノックをすることにした。
もしも嘘を吐かれていたら、一つ一つ虱潰しに探すこととなる、
(別にいいっか、時間なんて腐るほどあるし)
そんなことを考えつつもノックをした
「ついて来ないで言ったじゃない!いい加減にしてよもう!!」
確かに、エクストルの声が聞こえた。いきなり開けられたドアに頭をぶつけるジェム、
数秒たってから気づかれたらしく、大丈夫ですか!と聞こえたのが少し遅かった。
「だっ、大丈夫だよ、…エクストルだよね、確か、」
「…だとしたらどうするの?歌えとでも言うの?」
「違うよ、…道端で話を聞いたからさ…あのさ…、本当にもう、歌を歌わないの?」
「…ここでは話しにくいから中に入って、…ここで聞いた話は絶対に言わないって誓えるなら」
少し考えてからジェムは答えた。
「あぁ、誓えるよ」
部屋の中には何も無い、あるのは寝転がっただけでも軋んだ音が鳴りそうなベッドと、粗末なランプだけだ。
きょろきょろと周りを見渡していたらエクストルが、ここに座って、といってベッドの上をポンポンと叩いた。
「…貴方は何で私に付きまとうの?」
いきなりの質問に戸惑うジェムは、何のことだい?と答えた。
「あ…御免なさい、あいつらの所為でどうも、誰も彼も疑いたくなっているみたい、本当に御免なさい、えーと、まず貴方の名前はなんと言うの?」
あいつらとは道端で話をしていた男のことだろう、多分あの男以外にも色々な奴に追われているのだろう
何のために追われているのかが気になったジェムは名前を言ったあとに、何故追われているのかという事も聴くことにした。
「……あいつらは私のことをプロの歌姫にしたいって言って付きまとっているのよ、私は放浪して色んな町の人達に出会って、色んな歌を教えてもらってここまで歌が上手になったの、……金稼ぎのために私は歌っているんじゃ無いんだ色々な人に教えてもらったこの歌を他の人に聞いてほしいから歌うのあいつらはそのことを分かってくれないんだ、……」
エクストルが真剣に話しているのを聞き入っているジェムは、ある事を提案してみた。
「そしたら、夜に広場で歌えばいいよ、ここの広場はとても人が集まりやすいんだ、だからお客さんの反応を見て考え直すかもしれないし、」
「それでも連れて行かれる可能性が高いじゃない、その時はどうしてくれるの、ジェムがどうにかしてくれる訳で、無いんでしょ、ただ指を銜えて見ているだけで、」
「やってみないと分からないじゃないか、やる前に諦めるのはよくないよ、」
エクストルはため息をついて、分かったわ、と言ってくれた。ジェムはエクストルに今日の21時半には広場にいるように伝えてエクストルの部屋を後にした。
ジェムの言うとおり、広場には大勢の人間でごった返していた。
「おかしいな、もう10分も過ぎてるのに…何してるんだろう」
21時半を過ぎてもエクストルはくる気配が無い、もしかしたら誰かがエクストルを拉致したかも知れない…嫌な予感を抱きつつもエクストルを待つことにした、5分経ってもくる気配が無いなら、探しにいこう、5分経ってもやはり来ないので探しに出かけようと思って立ったその時に、エクストルが現れた。
「御免なさい、色々していて遅れたの、」
華麗に着飾ったエクストルがジェムに話しかける、ジェムは頬を赤らめてそっぽを向いて
「似合ってるよ、それ」と呟いた。
そして始まった。彼女の舞台が……
「好きといわれて 納得できない私がいる
苦しくて悲しくて 嫌なほどに辛かった
貴方を愛せない私はなんと罪深いのだろう 恋は苦痛
眩し過ぎて見れなかった貴方の笑顔は 何を訴えているのだろう
私は分からない 貴方の事が 笑いもしない私を笑わせようとする
貴方のその努力は何処で報われるのだろうか
悲しむ私を優しく抱き寄せ唇を合わせる ただ合わせるだけの接吻は何を表すの?
苦しさの知らない瞳に込み上げてくるもの 君はソレを知っているかな
多分知らないだろう だからここまで尽くしてくれるのだ
知ったその時に 貴方は傷つくのかな
それも分からない ただ分かるのは
私は一生かかっても 誰も愛せないと言うことだろう…」
悲しい声と歌詞が夜空に響く、華麗なドレスもこの歌を歌っているエクストルに合わせてより一層悲しげに魅せてくれている、ジェムは少しだけ、歌の好きな少女について分かったのかもしれない、歌っているエクストルは少し以上にあがっていて、音が正確に当たっていないのを気にかけていた
(ヤバイ、いつも道理に歌えない……)少し戸惑っているエクストルを見て、ジェムは近くに行って背中をとんっ、と押した。
「なんなの?邪魔をしないで」
「緊張したらいい歌が歌えないよ、もっと落ち着いて、ね?」
「ええ…分かってるわ、けど…」
「クレモラルー・ヴェクザー…って知らないか…」
ジェムがちょっと悲しそうな顔で呟く、不思議に思ったエクストルはジェムに問いかける
「…確かに知らないけど…それがどうしたの?」
「たいがいの旅人や旅商人は、知ってて当然なんだよ、クレモラルー・ヴェクザー…
緊張してもパンやワインなんてくれない、だからいつものびのびと商売や旅をするのが
決まりってわけじゃないけど、そういうものなんだよね、このごろ最近それを知らない旅人が増えてるから他の人と話してても警戒してるのが分かっちゃうんだよ、嫌だよ、他の旅人の所為で町の人に話しかけても逆に警戒されちゃうしさ…俺ってそんなに愛想悪いかな…」
ジェムのその言葉を聴いた瞬間にエクストルはクスクスと笑い始めた。ジェムはそれを見てわざと不機嫌そうな顔をして、「笑うなよー!」といってそっぽを向いた。エクストルは心の中でジェムに好意を寄せ、そして、もっとジェムのことを知りたいと、強く思ったのだ。
「御免なさい、フフッ、…どんな歌を歌ってほしい?ジェムが聴きたい曲を歌うわ
あの時の世界とか?」
目をキラキラと輝かせているジェムは、何にしよーかなー、と言って考えているが数分後に、はっとして振り返って発言する、先ほどふて腐れていたのが嘘のようだ。
「曲名分からないけど、確か… 澄んだ泉の淵で大きな月を見る それは鏡に映っているような暖かさの無い明かりが私を包む........ってやつなかったけ」
あぁ、それね、確かに在るけど…、その後の言葉を濁したエクストルは俯きため息を吐いてジェムに説明をする。
「あまりいい評判じゃなかったから歌ってなかったの…だけどそれを知ってる人なんて数える程度だと思ってたから意外だわ…、久しぶりに歌おうかしら、思いっきり歌詞を変えて」
ジェムはうれしそうに笑顔を浮かべる。幼いようにも見える笑顔を見てエクストルは少し
ドキリとするのだった。
「さてと、そしたら歌うとしようかな」
頑張れよ、とジェムに声をかけられて笑顔でうなずくエクストル、それを見てジェムは顔を赤らめた
「遠い遠いあの空に 小さい小さい希望がある
大きな大きなあの海の向こうに とても暖かい人がいる
あの大きな空に浮かぶ満月に 短いキスをしよう 愛されなくてもいいから
ただ愛したいの あの月を 綺麗に輝く あの月を
澄んだ泉の淵で 月を見る 泉に映っている月は 鏡のように 冷たく
そして私を狂わせる まるで私で遊んでいるかのように」
エクストルの口から溢れ出る歌詞は、歩いている旅人たちの歩を止めさせる。ジェムに話しかける旅人がいた、彼はアナザーと言うらしく、ジェムと同じくエクストルのファンの一人だと言った
「エクストルさんはとてもいい歌を歌う人だ、綺麗な声だし美人だし…申し分ないよ
ジェムさんはいつから旅をしてるんですか?」
「八年前からずっと旅をしてるよ、アナザーは?」
「僕は、まだ三年当たりですよ、ジェムさんの方が先輩なんですね、そしたら」
「そんな事ない、アナザーの方が年上だしさ、普通に呼び捨てでいいんだよ、それに
俺よりも人生経験豊富だと思うし、」
「そうですか?そんな事ないですよ、ただのサラリーマンだったし、クビになってから
やる事がなくって…そうなっていまや三年目…三年も経つと、なんか楽と言うか暇人と言うか…自分に呆れてきますね」
そういってうなだれているアナザーを励ますように話をするジェム、すると、歌って戻ってきたエクストルがアナザーに、どちら様ですか?と問いただす。
「あっ…あのっ、アナザー・トルシェールって言います。宜しくお願いします!」
無意味に緊張しているアナザーを見て不審に思うエクストルは、立ち上がって帰るからと言って帰ってしまった。不安になったジェムはアナザーに別れの言葉をいってエクストルの後を追う、ジェムが見えなくなってから、アナザーは笑う、
「くっくっく…宿に戻ったと思いますよ、彼ら、早く行かないとエクストルを拉致できませんよ」
「分かってる」
「ホントデスカぁー?あそこまで彼の注意を引き付けたのに貴方はエクストルを拉致できていないじゃないですか、あーあどうするんですかぁ、知りませんよもう、手伝いもしませんからね」
頭を掻き毟って呟く、そして近くに居る男に話しかける
「…金額によりますよ、僕の仕事量はね、結構弾むなら殺しでも何でもしますよ
どうですか?」
「面割れてるだろーがよ、とっとと失せろ、糞野郎」
「ハイハイ、分かりましたよ」
アナザーはそういって立ち上がって、この場から離脱した
(何なの、あいつ…気持ち悪い目で見て、兎に角ジェムには悪いけど見つかったら元も子もないし…ご免ね、ジェム…)
早歩きで宿屋に向かっているエクストルは 心の中でジェムに謝罪をした。
すると宿屋から出てきた男がエクストルの方へと、近づいてくるではないか、
「…どちらさまで?名前を名乗ってください、まあどうせ、ロストバルスの手下か何かでしょうけど」
「なら、話は早い、ついて来てもらおう」
「嫌といったら?どうするのかしら」
「強制的に拉致という形になるが…それでもいいね」
「やれるものならやってみなさい」
「あまり強制的なことは好きではないんだが…仕方がないな、恨まないでくれよ
俺はやりたくないんだからな、本当のところは」
「なら止めれば?」
「こっちも生活があるから無理だな、たとえやりたくない仕事があってもやらないといけないからね、分かるかい?歌姫さん」
すると男がエクストルに近づき、鳩尾に一発食らわせる、エクストルはそれをかわすことなく
そのまま受け止め、がっくりと男の肩にもたれ掛かって意識をなくした。それを見た男が呟く
「何でかわさねーんだよ…、」
エクストルを肩に担ぎ上げ、立ち上がる、そしてこの場から立ち去ったのだ
そして一足遅れてジェムが来た。
「エクストル!何処だー!エクストル!」
ジェムが叫ぶが応答がない、強く唇を噛み締める、辺りを探すがエクストルは
何処にも居ない、ジェムが息を荒げていると、今さっき一緒に居たアナザーがクスクスと
笑って観ているではないか、
「なっっ、…何で居るんだよ、アナザー…」
「良いお知らせを教えに来たんですよ、くくくっっ、…」
先程よりも気味の悪い声を出して笑う、いいや、明らかに豹変していた。
「良い知らせって何なんだよ、…てかお前、本当にアナザーか?」
「…エクストルはここから三キロ先の教会で縛られて待ってますよ、なぜか自分で殴られに行ったんですよ、訳が分かりませんよね、…あと少ししたら彼女はここの国から離れます。早くしないと間に合いませんよ?貴方の愛するエクストルさんがねぇー、ふふふふふ…それにもうロストバルスは、出国の準備をしてます。掛かる時間は…あと三十分ぐらいです、どうするんですかぁー、ジェムさん」
「何事もやってから言えって言われるな、…三キロ先だったっけ?…ぎりぎりセーフかアウト、五分五分なわけだ、」
「行くんですか?勝ちもしない賭けに」
「…俺は英雄になるためにやるんじゃない、だから負けさえしなければいいんだ。
勝つかエクストルを助けて逃げるかのどちらかを選択すればいいんだし、それにそれを決める時間なんてまだある、それに」
ジェムは軽いストレッチを済ませて、アナザーに話す。
「俺、本当にエクストルのことが好きだからここまでするんだ。…たぶんあんたには一生かかっても分からないだろうね」
「…行ってらっしゃい、ジェム・ストルトーズくん」
走り出したジェムには聞こえないぐらいの声で別れを告げるアナザーは、悲しそうに
微笑む、そしてジェムとは逆方向に向かって歩き出した。
数時間後にはもう、この国には、アナザーという旅人は居なくなっていた
大体15分ぐらいだろうか、それぐらい走ってやっと教会についたジェムは、休憩する間も惜しんで教会に入っていった。
凄くボロボロな教会、足を一歩踏み入れたらギシリと床が鳴って、少しだけヒヤリとする
「エクストル、俺だよ、分かるな、居るなら返事してくれ」
「!?何で貴方がここに居るの?」
「追ってきたんだよ、アナザーにここの場所を教えてもらってね」
「…ありがとう…助けに来てくれて」
「どういたしまして、…よし、これでオッケーだよ」
縛られていたエクストルの縄を解き、ニコリと笑ってエクストルを安心させようとする
ジェム、それを見たエクストルは、ホッとしたのと同時に、涙が溢れ、泣いていた。
ボロボロボロボロ涙が零れていつの間にかジェムに縋り付いて泣いていた。
「ちょっっ!!、…どうした?、怖かった?」
ジェムは顔を真っ赤にしながらエクストルに優しく問いかける、するとエクストルは頭を何度か縦に振って泣きつづけた。ジェムが教会に来てから約、5,6分は経ったと思われる、エクストルはジェムを掴んでいた手を離して、自分の目に手を当てて落ち着こうとしている
「…御免なさい、こんな姿見せたくなかったのだけど、」
「普通の女の子も泣いちゃうよ、拉致されてその後何されるのかも分からないで
監禁だよ、怖いのは当たり前だって」
「本当に御免なさい…泣きつかれて嫌だったでしょ」
「そんな事ないから、怖かったんだよね、」
そう言って、躊躇いながらもエクストルの頭を撫でた。エクストルが落ち着くまで
ずっと頭を撫ででいるジェム、今できることをやらなければならない、出来る事といってもこれぐらいしかない、これくらいといっても、見方を変えれば、ただのロリコン男の変態にも見える
「…落ち着いた?」
「…本当に御免なさい…」
「…分かった…、だけど知らない人を追っ払ってからでいいかい?帰るのは、」
「分かったのかい、少年、」
「…ロストバルス…」
エクストルは男の名前を低く、唸る様な声で言った。男は笑顔で、覚えてくれて光栄だよ、と言う
「何の用なの?」
「もちろん君を迎えに来たんだよ、ネスフェンダー・ファファーニ姫?」
「……え?……」
「もしくは、エクストル・バンスレー、…少年は知らなかったかい?」
「エクストルが…姫?…」
男は満足そうな笑顔を浮かべ、そして頷くエクストルはロストバルスを睨みつけジェムに謝罪する
「…黙っていて御免なさい…」
「…何で謝るの?」
「…え?…」
「深いことなんて俺聞いてないし、聞こうとも思ってなかったし…言いたくない事を無理して言う必要も無いじゃん…だから謝らなくてもいいんだよ」
優しくエクストルの手を握る、ジェムの手の暖かさを感じてエクストルは
涙を流していた
「!!…どうした?…」
「うぅ…うあぁぁぁん…」
泣きついてきたエクストルはなぜかとても幼い子供のようにしか見えなかった
まだ母親や父親と離れたことのない子供…離れたくないと言って
しがみついている子供のようだ
「まったく…離れなさい、困っていますよ」
「嫌!私はジェムと一緒に居たいの」
「いい加減にしてください!、姫、あなたの国はもう壊滅の危機にさらされてるのですよ
そこのところはちゃんと考えてるんですか?あなたしか国を救うことが出来ないんですよ!」ロストバルスは少しイライラしながらエクストルに説明する
「もう…壊滅したんじゃねーの…」
「…え…」
ジェムが冷ややかな声でこう告げた。
ロストバルスとエクストルは唖然とした顔でジェムを見た
「早く行けよ、国にさ…早く帰れ、今ならまだ間に合うかも知れない
早く行けって」
投げやりな言い方をしたジェムは目元が少しだけ赤くなっていた。
泣いているかは分からないが声も少しだけ震えている。
「エクストル、お前しか国救えないんだろ?早く行けって」
「いっ…嫌…」
「わがまま言うな、早く行かないと他の大勢の人間が殺されるんだぞ」
ジェムは続ける。
「大量虐殺、国中から聞こえる子供の叫び声、母親の嗚咽、父親の罵声、
隣の国からの兵士、殺される国民…お前はそんなものを望んでんのか?」
ジェムの言葉がエクストルの胸を抉る。
そしてロストバルスはエクストルを連れて帰る準備をした
「姫、帰りましょう、少年が言っていることが本当に起こっていたら
貴女は全国民を裏切ったことになる、今帰って謝罪すればまだ許されるのですよ」
「…分かったわ…ジェム…約束してくれる?…私が国を治めたその時に
必ず来てくれる?」
ジェムははにかんだ笑顔で、あぁ、と答える
そしてロストバルスとエクストルは自分の国へと帰国した
そして数日経ってからジェムもこの町を出た
数年後、風の噂で聞いた話しがあった。
ある国が崩壊しかけていたのに建て直しをし始めたという話だ
そしてその国を立て直したのはネスフェンダー・ファファーニ姫が立て直したらしい
ジェムの居所は分かってない、
多分ジェムはどこかである少女の歌っていた歌詞を口ずさんでいるのだろう
「澄んだ泉の淵で大きな月を見る それは鏡に映っているような暖かさの無い明かりが私を包む........」
そして笑顔でまた旅をするんだと思う、彼はあくまでも旅人
放浪することが彼に出来る一つの仕事だからだ…