3+雨の間の密やかな囁き
開き直ってしまえば気にはならないだろう。この二人の世話は。
実のところそのうちの一人とは話してみたいと思っていたし関わることに覚悟を要した。
ある日突然世界からいなくなるかもしれない不安定な存在。いつ消えるとも知れぬ存在、だから。
そう思って決意して事態に踏み入って。後にソルは自分の浅はかさに激しく後悔することになる。
この世界はまるで不条理の塊だと。
「ほら、ずぶ濡れのままだと風邪引くぞ。二人とも当然サイズは合わないだろうが、取り敢えずこれに着替えとけ」
「や、いいよこのままで」
「私も大丈夫です」
着替えを渡してもこれだけはとでも言うように頑として譲らなかったので、ソルは何か事情があるのかもしれないと納得はしなかったがとにかく二人を着替えさせることは諦めた。代わりにと昨日作り置きしていたシチューを椅子に座らせた二人の前にでんと置く。
「食え」
「・・・あの、なんか命令口調なんですけど?」
「いいから食っとけ」
「・・・ハイ」
仏頂面のぶっきらぼう。目を合わせないし何だか黒いオーラを放っている。
それは単なる照れ隠しで、それが明らかなものだからギヴンとフォートは顔を見合わせてくすりと微笑んだ。
「なんか笑ったか今ー?」
「いえっ」
「いただきまぁす」
振り返ってきたのでぱっと顔を逸らし二人はスプーンを手に取る。一口食べて、
「あ」
「おいしいです」
するりと賞賛の声が上がった。ソルは当たり前だろうと殊更にしかめ面になって二人を一瞥する。
腹を空かせていたことも手伝って二人は黙々とシチューを食べ、その間ひたすら沈黙が続いた。食器の擦れあう無機質なけれど暖かい音が響く。雨の音は相変わらず窓の方から流れ出て、人界に帰って来たのだとギヴンはようやくため息をついた。
「どうした?」
「ん。人だなあって」
フォートはその言葉に小首を傾げた。だが最近までツバメだったソルは得心して頷き、同時に眉根を寄せた。
「お前、どのくらい荒野にいた?」
「えと」
荒野は人の住む場所ではない。
日差しが容赦なく照りつけ、砂塵が目の端を舞い、魔獣の咆哮が上がる、そこは人にとって死の世界だ。それが一人で渡るのならば尚更。何処まで行っても荒野の世界に長くいると、自分がこの世界に一人きりのような錯覚に陥ることがある。猛獣にいつ襲われるとも知れない恐怖、自分がいて良い世界ではないという疎外感、世界にひとりぼっちのような孤独感は精神を少しずつ侵蝕し、酷いときには発狂することもあるという。
人と触れ合う感覚、人が住む独特の音や気配を思い出せなくなったらそろそろ街に降り立つべきだ。それは精神への負担が大きくなっている証拠だから。
人の間に立って「人だ」と実感するのは、人と触れ合うことを忘れかけている証拠だ。この小さなツバメはそんなにも。
「無茶するな」
困惑した少年の頭をソルは帽子の上から撫でる。少年は何故だかそれに嬉しそうに微笑んだ。・・・微笑んだ、のに。ソルにはそれが、まるで泣いているかのように見えた。そんなこと、あるわけがないのに。
短いって?そうですよね・・・すみません、配分を間違えました。でもここで場面が分かれてまた会話がずらーっと並ぶので、一旦切ります。
うーむ、連載って難しい(ちゃんと考えて書きなさい)