疲労の先。
高坂みのりは、ヨガの契約を解除するために、nomo Yogaの受付にやってきた。
「こんばんは」
「すみません。契約を解除したいんですけど」
事務の女は、笑顔が消えた。
「えっと、他にもプログラムはあるので、試されてはいかがですか?」
「いや、いいです。解約したいので」
あくまで、淡々と答える。
「他のプログラムを体験するチャンスを逃しますよ。」
「いらないです」
こちらの話を全く聞き入れてくれる様子など、一ミリも感じない。なんで、解約するのにこんなにも手間がかかるのだろう。この事務の女とよく話すことはあるが、いつも不愉快さだけが残ってしまう。
「あの、契約解除なんですが」
「ほかのプログラムでは・・・」
「解約書を書きたいので、進めてください」
こっちは利用者だから偉いぞと言いたくなってしまう。利用者でお金を払ってるから偉いわけではないけど、何でやめることができないのだろう。
「あなたとは話になりません。他の方と代わってください。」
「こちらの方がいいですか」
プログラムの資料を見せてくる。意味が分からない。
「あのー、聞いてますか?他の人と代わってもらっていいですか?」
みのりは大きな声で、受付の後ろにある部屋の人間に聞こえる声で言った。1人のヨガ専用のジャージを着た男性がやってきた。
「どうか、されましたか?」
男性は少し丁寧に言う。
「契約解除したんですけど。」
「えっと、はい。分かりました。」
男性は事務の女を見た。女はそのまま、受付の後ろの部屋へと消えて行った。
「解約にはキャンセル料がかかりますが、よろしいですか?」
みのりは血の気が引いて、真顔で相手と見てしまった。
「えっと、飛行機のキャンセル料のように、月額の10%を引く仕組みになってまして。」
そんなこと契約時の資料に書いていたかえさえ覚えてない。このまま2カ月だけ通って契約満期にする方法もあったが、もう後には引けない。
「わかりました。」
「では解約のため、こちらの資料に記入にサインをお願いします」
みのりがサインを終えて、来月末に契約金は銀行に振り込まれると言われて帰ることができた。
「大丈夫ですか?」
男性が言った。
「はい、大丈夫ですよ。ただ、さっきの事務員さんが話が通じなくて」
「そうですか。申し訳ございません。きちんと伝えておきます」
あの女に話が通じるとは思えない。男性は凝視してしまった。笑顔を返されて、困ってしまった。
「また何かあれば、ご気楽にお越しください」
男性は仕事モードとも見える笑顔を振りかざしてくる。何も文句も言えなくなってしまう。
「ありがとうございました」と、みのりは頭を下げて自動ドアを出たようとした。
なぜ、解約1つにこんなに労力を使わないといけないのだろう。




