不幸なリナ
「えっと……とりあえず、名前教えてもらえないかしら?」
気まずい空気が流れている。私はなるべく威圧感とか責めている感じをださないようにして聞いてみたつもりだけれど。
「は、はい。リナ・グランディです」
そういう気遣い関係なく緊張でガチガチといった感じね。
それにしても、改めて見てもきれいな青髪してるわ。年齢は私とあまり離れてはいなさそうだけれど、体は少し小さいわね。
装備とかを見る限りは商人というよりは冒険者な気がするけれど。
ひとまず、そこは聞けばわかることね。
「リナね」
「あの、助けてもらってありがとうございます」
「……まあ、そうね。とりあえずお互いに無事で良かったわ。それで、なんであんなところにいたの?」
ただまあ、リットがいなくなったからなのか言葉すら出せないほどの緊張からは脱せたみたいね。
「その……お金がなくて野宿生活だったんです」
「まあ、冒険者だとたまに聞くけれど」
「そんな矢先に野宿用のテントすら壊れてしまって……雨に振られた時に、偶然扉というか鍵がかかっていないことに気がついてそれで……本当に申し訳ありません!」
「いや、まあ私に謝る必要は……ほとんどないとは思うけど」
旧冒険者ギルドを管理しているのはリットだし。私はただ調査のためにいっただけだからね。
まあ、ただ誰でも入れる状態だったのは問題だし状況は知っておかないといけないわよね。
「ちなみに、あそこに泊まったりしてたのはいつ頃からなの?」
「少し前くらいです。一ヶ月とちょっとくらいだったはず」
噂も確かそのくらいの時期からだったわね。
そうなると噂の正体はこの子でよさそうね。
「一応、聞くけどわざと放火したとかじゃないのよね?」
「ほ、本当です! それは誓って嘘じゃないです。アタシだって驚いたんですよ」
「驚いたって……何が?」
「ランタンが壊れてたことです。比較的新しいランタンで、今までこんなに早く油漏れが起きるような壊れ方はしたことなかったのに。最近はいろんなものが壊れてテントを直すお金すら工面できなくて……」
どれだけ金欠なのよ。冒険者でそこまでになるって、自分の実力に見合わない場所に行って成果なしを繰り返してるとかじゃないわよね。
そう思ったけれど、ふと足元に置かれている荷物袋が目に入った。
あまり見ないデザインね。少なくとも雑貨屋とか冒険者の店で売っている物じゃない。
「その袋って、ダンジョンで手に入れたもの? それとも手作りとかどこかで作ってもらったもの?」
「ダンジョンで手に入れました」
「それって最近の話?」
「そうです。えっと……ダンジョンで手に入れたものはすべて納品のルールでしたか?」
「いや、そうじゃないんだけど……ちょっと見せてもらって良い?」
「は、はい。今は中身もないに等しいのでどうぞ」
彼女のその荷物袋を触ってすぐにわかった――呪いが付与されているわね。
多分、ダンジョンのアイテムに無造作にかかっているタイプのものだけど、消耗品とか武具じゃない呪いって見逃しがちなのよね。
「あなたって魔法は使える?」
「はい。一応、魔法戦士です」
魔法戦士――冒険者の中で魔法と近接武器を組み合わせて戦う人がそう呼ばれているはず。
でも、それなら魔力に対しての感覚はある程度は身についているはず。
「なんで、それで気が付かないのよ」
「え、なんですか?」
「これ、呪いかかってるわよ」
「へっ!?」
たしかに呪いの鑑定は特別な技術がいる。
だけど魔法を使っている人間なら、流石に自分の荷物いれるほど使ってれば違和感ぐらいは感じるはずだし、気がつく場合が多いんだけれど。
呪いに対して感覚が鈍いとかってあるのかしら。
「ど、どんな呪いなんですか!?」
「それはわからないけど。あなたのさっきまでの話を聞く限り、中に入れたアイテムを壊したり劣化を早めるとかじゃない?」
「そんな……いや、でもたしかにそれなら、最近のこと全部納得がいく。くぅ……」
リナは涙目になっていったと思ったら、俯いてしまった。
まあこれくらいならサービスで浄化しておきましょうかしら。聖女の魔力だけでどうにかなる程度の呪いだし。
何より、なんか火事といい散々な目にあいすぎて同情すらしてきたわ。
私はその荷物袋に魔力を通してかかっている呪いを浄化した。
「まあ、とりあえずこれで問題なく使えるわよ。ただ……うーん。どうしましょうね」
「あ、ありがとうございます。どうするかというと……あっ。そ、そうですよね。事故でもアタシって放火犯になりますもんね」
厳密には放火犯とはちがうけれど。呪いに気が付かなかったとかが原因だと、完全に責任がないともしづらいのよね。
しかも不法侵入に関しては純粋に魔が差したとは言え庇いようがない。
その不法侵入が原因ともいえるから――やっぱり、完全に責任がないという扱いができないわよね。
「まあ、幸いにも深夜で他に被害がなかったから。私の一存で全ては決められないけど、リットの――さっきまでいたこの国をまとめる貴族の1人の判断次第で極刑とかは避けられるわ」
「そ、そうなんですか」
「なんか今の話聞いてると別に悪意はなさそうだし。でも……そのレベルの金欠だと、ちょっと問題が多いのよね」
お咎めが全くなしにはできない。
後になにか言われた時に、罪に対しての償いをしたという建前はリットだって残しておきたいはず。
その中で一番手っ取り早くわかりやすいのは罰金なんだけど。
この子は今後も放っておいて罰金返せるか微妙よね。
「ちなみになんだけど。金欠の理由って自分でわかる?」
「それなんですけど……じ、実は荷物袋の前にもダンジョンで派手に呪いにかかってしまって、武器と防具がすべてだめになってしまって、最低限の装備を改めて整えるのにお金を使い切ってしまった上に、今度は道具までダメに……」
こんなにもふんだり蹴ったりなことがあるのかしら。
「いや、待って。武器と防具が全部駄目になる呪いって結構厄介な部類よ。聖女のわたしだって浄化には手間がかかるような」
「教会にいったら、武器と防具がすべて完全に駄目になったのが良かったのか自然と呪いは解けてたみたいです」
呪いの対象がなくなったってわけね。
「なるほどね……うーん。まあ、わかったわ。ひとまず、私からリットに対しては再犯の心配はないということは伝えておくわ。ただ、最終的に決定権を持ってるのは私じゃないから、それ以上のことはできないわ。ごめんなさいね」
「い、いえ、そんな。むしろ、命を助けていただいた上に、心配していただけただけでもありがたいです」
話した感じ悪い子ではなさそうなんだけど、どこか心配が尽きない。
でも、冒険者が金欠なんてのは起きうるリスクのひとつだし聖女がいちいち助けるわけにもいかないのよね。
きりが無くなるし。
というか、ダンジョンの中だと人間に直接的に呪いをかけてくる存在とか罠があるのね。
あんまり聞いたことはないけど……。
その後、リナにはラビリアに来てからのことなどを聞いた――結論でいえば呪いに愛されてると言いたくなるほどに呪いの道具を拾ったり罠にひっかかっているらしい。
そして、わかりやすい効果があるもの以外には鈍くて気が付けていない。
荷物袋もそうだけど、これまでの話を聞いてると彼女が不幸とか不運で片付けているものが呪いに起因する可能性が高い小さい不幸が多かった。
私はせめてできることとして、多少の金はかかるけど呪いに関して何かあれば来なさいとセイクリッドハウスの位置を教えておいた。
そして、戻ってきたリットにリナについての私の見解を伝えてひとまず解散になった。
リナはひとまずリットのほうでの扱いが決まるまでは教会預かりとなるみたい。
私は昼食とった後に少しだけ久しぶりに感じるセイクリッドハウスに戻ったら――教会から知らぬ間に運ばれてた浄化待ちの道具が部屋の中に積まれていた。
「少しは教会でもやってるんでしょうけど。一声くらいかけなさいよー!!」




