噂の物音
人の賑わう中央区画を通り抜けて目的の旧冒険者ギルドに辿り着くことが出来た。
北の区画は宿屋中心の外からこの国に来た人向けの作りになっている。
それもあって明るいこの時間だと少し人通りは少ない。冒険者はダンジョンや依頼のために外にでていて商人たちはすでに国をでているか取引のために宿にはいない。
そんな区画ではあるけれど、実は開拓初期の頃の名残が一番残っている場所でもある。
旧冒険者ギルドも最初は簡易ギルド受付として1階が使われて2階は宿泊できるようの部屋を作って宿屋ができるまでは取り合いだったとか聞かされたことがある。
私は地図と一緒に渡されていた入口の鍵を取り出して扉の鍵穴に差し込む。
「鍵は壊されたりせずにかかってるみたいね」
噂の物音は侵入者だとは思っているけれど、正面からは入っていないということかしら。
もしくは鍵開けの技術を持っている。しかも、わかりやすい痕跡は残さずに閉めることすら。
私はひとまず鍵をひねって開いたのを確認してから、扉を開く
長いこと使われていない建物なだけあって、多少の埃はたまっているけれど、少し不快といった程度だった。
「まあ……なにもないわね」
1階は受付として使用されていたカウンターのある作りになっている。
奥には2階に登る階段があるのと部屋があるみたい。
家具とかは一切なくなって、とても広く感じる空間ね。
多分、当時は机とか椅子が並んで、掲示板を壁にかけていたんだろうけど、引っ越す時にすべて持っていったり処分したんでしょうね。
まあ、利用できるものは利用しないともったいない時期だったでしょうし理解できるわ。
ただ――なにか引っかかるのよね。
「入った瞬間もそうだけど、思ったより埃が散らなかったというか……」
ふと窓際を見てみると埃が溜まっている。窓を開けたら風で埃はまって咳き込むことになりそうなくらい。
「若干の差ならいいけど、妙に埃があったりなかったりする。つまり、侵入した何かがいて動いたことで埃が移動したってこと?」
素人の想像の範疇でしかないけれど。
そう思って床を見てみればやっぱり足跡になるほどはっきりはしていない、埃が薄い箇所と溜まっている箇所が存在する。
その痕跡を辿っていくと裏口にたどり着いた。
「裏口なんてあったのね。鍵もついて……あ、壊れてる」
内側からであれば鍵はなくても閉めることができる作りだけれど。
そもそもの鍵が壊れていたら入り放題じゃない。
「これに気が付かないって、本当に管理していたっていえるのかしら? まあ、放置しておいて盗まれそうなものもないけど」
一応、裏口から外に出てみると建物の後ろ側にでられた。
入口の前には大きな道路が整備されているけれど、こっちの裏口の目の前には宿屋が建っている。
ここから見えるのは裏口だけど。
「あれ、聖女様……何をしていらっしゃるんですか?」
そして、宿屋の裏口に大きな木箱を運んでいる女性と目があってしまった。
「いえ、ちょ、ちょっとね。あなたは?」
「見ての通り厨房に食材を運んでいますけど……そこって誰も住んでいませんよね?」
「そ、そうね」
やばい。盗みか何かと勘違いされてる?
「もしかして、噂は本当で呪いの実験のために人が使っていない家を」
「違う! というか私は呪いを浄化するほうで、呪いをかけるほうじゃないわよ!」
「ですよね。いえ、宿にくる冒険者からそんな噂が漏れ聞こえてきたので」
呪いの聖女って呼び名、本格的に誤解を広め始めてないかしら。
でも、ここまで広がっているとなると、どうすれば止まるのが検討もつかないわね。
別のなにかで上書きするしかないけれど……そう考えると、私がやっていることって呪いに関わるものが主だから、更に誤解を生むだけな気がする。
むしろ新たな噂すら出来上がりかねない……ぐぬ。
私は頭を無意識に抱えてしまっていた。
「あ、あの聖女様、大丈夫ですか? もしかして、空き家の中の空気が悪くて体調がわるいとかならウチで少し休憩していただければ」
「だ、大丈夫よ。あ、でも、あなたの宿は食堂とかやってる?」
「はい。やっていますが」
「じゃあ、お昼まだ食べてないから食堂にはおじゃましようかしら」
少なくとも何かが中に入っていた可能性は見つけられた。それに裏口の鍵が壊れていたことで、侵入が容易だったこともわかった。
あとは夜を待って侵入しているのが何なのかを判明させるだけ。
少なくとも噂になるような、得体のしれない何かじゃなくて物理的な侵入がされていそうだしね。
私はその宿の食堂でお昼をすませつつ、ついでに近辺での噂なんかを聞いてみたが目新しい情報はなかった。
夜に誰かがはいる物音を聞いてないかと思ったけれど、どうやら更に向かいに酒場があるらしく夜もそこそこうるさいらしい。
そして、私は一度その場を離れて夜に改めてここに来ることに決めて準備することにした。
まあ、ランタンくらいは用意しておいて損はなさそうだしね。




