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エピローグ
『風の吹くまま』
数ヶ月後。
ミナト地区のカフェテラスで、凪は一人、タブレットを開いていた。
そこには賑羽屋グループからの復職要請が届いていたが、彼女の返答は決まっている。
「……天野、返信は『今の仕事が忙しいので』でいいわ」
「承知しました。事実、住民組合の予算会議でスケジュールは埋まっていますからね」
天野は以前よりも少しだけ柔らかな表情で、地元の工務店との打ち合わせ資料を整理している。
そこへ、バイクのエンジン音と共に寧々が現れた。
「凪さん、何真面目な顔してんの。今日は裏山の湧水、見に行く約束やろ」
凪は笑って立ち上がった。その足元は、もう汚れを恐れることのない、軽やかなスニーカーだ。
「ええ、行きましょう。……でも、今日は私が先に見つけるわよ。私の『沖津鏡』は、もう泥の中でも道が見えるようになっているんだから」
「言うようになったやんか。……ほな、競争や」
二人の笑い声が、新しくも懐かしい街の風に乗って溶けていく。
十の宝は、今も彼女たちの日常の中に、静かに、そして確かに息づいている……。
―― 完 ――
賑羽屋 凪と長州 寧々の物語を、こうして一つの形にできたことを光栄に思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




