89・ウィッチ
「ったく生ナマコ野郎め・・・」
大通りを外れ東の方へブツブツ言いながら歩いて行くジール
余程二回連続で店主にしてやられた事に対して腹の虫が収まらないみたいで、空間収納に放り込んだ生ナマコの生足を取り出しては大げさにコリコリと咀嚼していた
「コリコリコリコリ・・・おっ?もしかしてアレか?・・・なるほど、確かにすぐ分かるな」
そんなジールの目に飛び込んで来たのは、モクモクと白い煙を吐き出す灰色の煙突にそれを支える趣味の悪い紫色をした屋根の小さな家。いや、家と言うよりは商店のようにも見える
町の外れまで来たので辺りに家は点々と数少なく点在している中、その家が異質な雰囲気を醸し出していた
「・・・何か如何にも意地悪な魔女が住んでいそうな家だな」
家の外観を気にしながらゆっくりと歩いてその家の扉の前まで来たジール。だが扉をノックしようにも植物のツタが扉全体を這っておりどこをノックすればいいか分からない。そもそもここに人が住んでいるのか?と疑問に思う程家全体も陰鬱な雰囲気に包まれていた、唯一前述した様に煙突から出る煙のお陰でここに人が住んでいる事が分かるぐらいだ
「・・・ええい、ままよ。すいませーん!」
ここで立ち往生していてもしょうがない、そう思ったジールは扉を開けながら元気いっぱいの声で家の中へと入って行った
「・・・ゴホゴホッ、何か想像通りの室内だな」
入った瞬間むわッと咽るような薬品の匂いが鼻孔を突いてきた。部屋の中は本やら薬品の瓶やら、さらには何に使うか分からない動物の一部の標本まで飾ってあり部屋全体が雑然としていた
ジールが家の中へ入っていったが返事は無く人の気配は感じられない。どうするか、出直すか、そんな事を考えながら飾ってある標本を手に取りぼんやりと考えていた、とその時
「ヒッヒッヒ、何か用かえ?」
「ひっ!?」
ジールのすぐ後ろから声が聞こえた
熟練のハンターであるジールの背後をこうも簡単に取るとは、そして誰も居ないと気が緩み切っていたジールは口から情けない声が出た
背中に冷たい汗が流れたジールは慌てて距離を取り後ろを振り向く
「・・・ばぁさ、おっと・・・御婦人、アンタが美容液を創っているジジさんかい?」
振り向いたジールが目にしたのはこれまた想像通りの人物。黒いローブを深く頭まで被っておりそこから見える深い皴の刻まれた垂れ下がった両目、鉤爪の様な曲がった鼻、ニヤリと笑う耳まで裂けている大きな口。そして片手には大きな樫の木の杖を持っていた
物語に出てくる悪そうな魔女をそのまま現実に描き出したまさにそれ。そしてその魔女に声を掛けようとしたジールだが生ナマコの店主に言われた事を思い出し慌てて訂正した
「ヒッヒッヒ、確かにジジってのはアタシだが、お前さん、美容液が欲しいのかえ?」
ジールの問いかけに怪しい笑みを崩さず答えるジジを名乗る魔女
そして確かに件の美容液を彼女が創っているのは間違いないみたいだ
「あ、ああ。もしあれば売って貰えると助かる」
そのジジの出す独特な雰囲気に飲み込まれそうになってしまうジールだが、グッと下半身に力を入れ漏らしそうになるのを何とか我慢する
「美容液ねぇ、あるにはあるが・・・アレはねぇ、売り物じゃないのさ」
対するジジはジールにゆらゆらとゆっくりと近づきながら答える。部屋に充満している薬品の香りも相まってジールの頭はくらくらしてきた。思わずこの家から飛び刺して逃げたくなるが、目的の美容液を手に入れなければ帰るに帰れない。だってエリーが怖いもの
「そ、そこを何とか譲ってくれないか?売り物じゃないなら代わりに物々交換てのはどうだい?」
「物々交換かえ?・・・ヒッヒッヒ、面白いことを言うじゃないかえ」
ジールの言葉にピタリと歩みを止めるジジ。そして顎に手を当て何やら考え出した
近寄ってくる魔女が歩みを止めたのを見てフゥっと額の汗を拭うジール。おかしい、何やらこの部屋に入ってからこのバァさんに飲み込まれている気がする
過去に色んなヤツと対峙したがこんな掴みどころがない圧迫感を感じるのは久しぶりかもしれない・・・どうやらこのバァさん只者じゃない・・・「その物々交換ってのを飲もうじゃないか」「ひっ!?」
いつの間にやらジールの眼前まで近づいてきていたジジ
気付いたら目の前まで鉤爪の様な鼻が迫っていた。いつの間に・・・一瞬油断していたジールは再び情けない声が出てしまい、そして少し股間が湿ってしまった




