88・交渉術
「へぇそうなのか、そう言えば何か似顔絵みたいなのがそこら中に飾ってあったがアレがそうなのかい?」
「おう、そうともよ!へへ、コーネリアちゃん美人だったろ?こりゃあ嫁さんに貰おうと町の連中はほっとかないだろうな、俺もあと20年は若かったら立候補したんだけどなぁ」
・・・どっちにしろ無理だろうよ、と言いたいがグッと堪える。何せ目の前にいる生ナマコの生足を捌いている店主はお世辞にも顔が良いとは言い難い。キラリと光る禿げ頭に白い鉢巻を巻いているのはまだいい、見事なまでの大きな鼻にそこから伸びている数本の鼻毛がなんとも素敵なアクセントになっている
だがコレも個性と言えば個性。生ナマコの生足が美味いのに間違いはないのだからジールにとっては関係無い事だ
「そうだなぁ、それでよ店主。ちょっと参考までに聞きたいんだが?」
「おうよ!何でも聞いてくれ!」
そんな的外れの店主の言葉を躱し店主の鼻毛をじっと見つめ、ジールは本題に入る
「そんなコーネリアちゃんだっけか?そんな女性に贈り物をするんならどんなものがいいと思う?ちなにみ出来れば宝石とか食べ物とかは除いて他の物がいいんだが・・・」
なるほど、町の事は町の住人に聞くのが正しいだろう。特に昔から変わらずその場所に住んでいる人間に聞けば余所者は知らない情報を多く持っているだろうから
「かぁ~兄さんも隅に置けないねぇ。止めときな、兄さんみたいなおっさんじゃコーネリアちゃんには相手もされないだろうよ!」
お前が言うな、と今度こそ口に出てしまいそうだったが両手を口に当て何とか寸前の所で踏みとどまる
「ゴホン、いやそうじゃねぇよ。嫁さんと娘にな・・・ちょっとばかり貢物、あ、いや贈り物をしようと思ってな。何かいいものあったら教えてくれると助かるんだが・・・」
「あ、なるほどな。そうだよな~、兄さんの歳じゃ妻子がいても可笑しくないもんな。贈り物ねぇ・・・まぁこの町ならではって物はあるな。しかも女性向けの」
「ホントかっ!?是非教えてくれないか!?」
寝耳に水、青天の霹靂。まさか本当に目の前の鼻毛が沢山出ている店主が有力な情報を持っているとは思わなかった。散々ツッコみたかったのを我慢した甲斐がある、よく我慢した偉いぞ俺。自分の事を褒めてやりたい。俺の思惑にハマった生ナマコ野郎が、どんなもんだ
見事に自分の思い通りに事が進んだ。が、そんな内心を表に出すわけにはいかない。まだ核心を聞き出せていないから・・・とそんな事を思ってた俺が浅はかだった
「教えて欲しいのかい?ん~そうだなぁ・・・おっとぉ!?ちょうど今捌いていた生ナマコの生足が全部出来上がってしまったぁ!あ、誰かぁこいつを買ってくれるヤツはぁいねぇもんかなぁ?」
「くっ!?・・・ちくしょーめ!俺が全部買ってやらぁ!おいオヤジ!その生ナマコの生足、全部お買い上げだぁ!」
「へい!毎度ありぃ!」
・・・今回も店主の方が一枚上手だったみたいだ
・・・
「それでその女性が喜ぶ贈り物ってのは何だ?」
纏めて貰った大量の生ナマコの生足を空間収納に放り込んだジール。少し不貞腐れているのはしょうがない、自分が調子の乗った結果だからだ。対する店主はホクホク顔、売り切れ必死の商品が一気に全部売れたのだ。そうなるのも当然だ、だがそのお陰でご機嫌な店主はジールの質問に機嫌良く素直に答える
「へへ、そりゃあ町外れに住んでいるジジバァさんの事さ。あの人が作る美容液は知る人ぞ知るってヤツだ。確かこの港で採れる海藻をエキスをベースに自分の何とかを何とかってやつで、それを肌に擦り込めばどんな女性の肌でもたちまちスベスベになっちまうって噂だよ」
「待て待て、ツッコみたい所は色々あるが・・・取り合えずその人はジジイなのかババアなのかどっちなんだ?」
今度はしっかりと店主にツッコミを入れたジール。もう我慢する必要はないからだ
「ん?だから、ジジって名前のバァさんだよ。おっと間違っても本人の前でバァさんなんて言うなよ?あの人はちょっと気難しい人でな、普通なら王都に行っても人気になりそうな美容液が全然人に認知されてないのも本人の性格もあってな・・・ま、行ってみれば分かるさ。取り合えず東の町外れにある紫の屋根の家を目指せばいいから。目立つからすぐに分かると思うぞ。ささ、今日はもう店じまいだ。何たって兄さんのお陰で売るものが無くなっちまったからな。さぁコーネリアちゃんの似顔絵を買いに行くぞ!」
「お、おい。ちょっと、まだ聞きたい事が・・・行っちまいやがった」
そそくさと店仕舞いを終えた店主はあっという間に人混みの中に消えて行った。残されたジールの伸ばした手が寂しそうに行き場をなくしていた




