85・ビフォーアフター
ジールが居なくなった後のタルタロスの後ろ姿が妙に寂しく見える。虚勢を張っていつもの様に振舞っているが長年連れ添ったククルからはそれが痛々しく見えてしょうがない
その背中を見ながらククルはハァッと溜息を吐きタルタロスに声を掛ける
「そんなに帰って欲しくないなら誘惑でもしてみたらいいじゃねぇですか。ジール様は変態野郎だからそんな筋肉まみれの姿なんかしてないで、いつもの綺麗な人魚の姿に戻ればイチコロでやがりますよ」
「・・・うふふ、いいのよククルちゃん、アタシはこれで。それにこの姿の方がジールちゃんには丁度いいのよ。あの人にはエリーちゃんが居るからね・・・きっとあの二人には外見とかだけじゃ覆せない絆があるのよ」
そう言いながらタルタロスは首にかかっている小さな宝玉をギュッと握りしめ魔力を込めた。するといきなりタルタロスの体の周りの空間がグニャリと捻じ曲がりゆっくりと姿を変えていく。そしてそれが収まるとそこにはセドリアーナにも負けないような美しい人魚が佇んでいた。その姿はまさに人魚姫と言っても過言ではない程美しい。その姿を見てククルは再度溜息を吐きながら肩を竦める
「そんなもんですかねぇ・・・アタシには良く分かりませんが、それでタルタロス様が悲しそうな顔をするのは見てられねぇでやがりますよ」
元々その姿が本当の姿であったのか、いきなり姿を変えたタルタロスにククルは驚きもせずにいつも通りに声を掛けていた。おそらくタルタロスの首に掛かっていた宝玉は人魚姫の涙であり、その固有能力である空間管理の力で自分の姿を変えていたのだろう
ククルが言うようにその現実離れした美しい姿でジールに迫れば変態ジールは一瞬で堕ちそうなものだが・・・
「いいのよ・・・でもジールちゃんの事諦めた訳じゃないんだから!目指せの側室の席よ!そこだけは誰にも譲らないんだから!それにはまずエリーちゃんを説得しなきゃね!」
二人の事情をアレコレ知ってそうな発言をするタルタロスはギュッと拳を握り締め頭上に掲げ宣言する
そんなタルタロスを見て再々度ため息を吐くククル
「やれやれ・・・まぁアタシは関わりたくねぇですし、どうなるかゆっくりと傍観を決め込むでやがりますか」
そんなタルタロスの本当の姿をジールが見ることはいつか来るのだろうか・・・
ーーー
バッシャァアアン
「ブハッ!」
ピンクの珊瑚からゲートを通り来た時の入口まで一気に移動したジール。だがよく考えたらそこは海の底であり、来た時にジールが海をパッカーンとやってしまった魔法はとっくに効果が切れていた
だが今回はセドリアーナの所から移動した時とは違い、事前に「水中で呼吸出来たら便利だよね」の魔法を掛けていたため溺れることは無かった
だがそこから海面までの距離がかなりあった為、そのまま海面まで泳いで這い出てくるのは中々骨が折れたみたいだ。そして海面まで浮上したジールはそのまま陸までゆっくりと泳ぎ浜までついた時にはゼイゼイと肩で息をしながらしばらく浜辺に転がっていた
「・・・あ~疲れた。・・・何が疲れたって、何か色々疲れた」
急いでいるとはいえ、よほど疲れていたのだろう。少しの間浜辺で転がって休息を取るジール
だがそうするのも頷ける気がする。何たってほとんど休憩無しにこの街にたどり着いたジール、そしてそのまま原始の涙の欠片を手に入れるまで何だかんだでまともに休んでなかった。不死身のジールと言えど
その内容の濃さに流石に肉体的にも精神的にも堪えたみたいだ
「・・・」
しばらく天を仰ぎ波の音を聞いて一息つく。今は港の方も船が出払っているのか静かなものであり、ウミネコが鳴く声が耳をくすぐる
さっきまでの命の危機に瀕していた状態が噓のようだ
「あ~平和だ・・・よく帰ってこれたな、俺」
改めて自分が経験したことを振り返ってみる
ただ人魚姫の涙を取りに行くだけと思ったら三大神の所へ行けか・・・やれやれ自分の価値観や常識が一気にひっくり返された気分だぜ
そんな事を思いながら目を瞑り今の平穏を嚙み締めていた
・・・
ドオォン!! ドオォン!!
「っ!!?何だ何だ!?何の音だ!?」
ボ~ッとしていたジールの耳にいきなりの爆発音が響いてきた




