83・お帰りのハグ
「ぁぁぁぁぁ~~~~・・・・」
ズガンッ!
セドリアーナに飛ばされて辿り着いたのは真っ暗な景色、何故か首から上が動かない。逆に首から下はしっかり動くのだが・・・つまりこれはアレだ。頭が地面に埋まっている状態だ
「モガモガ!っ~~~ッぱぁっ!」
両手を地面に当てて力一杯自分の首を引っこ抜いた。ったくセドリアーナのヤツめ、雑な魔法使いやがって・・・そう思っているが実際、空間転移なんて座標をある程度決めていたとしても個人で行使するなんてジールでも出来ない。何だかんだ言っても三大神の一柱ってとこか・・・
で、ここはどこだ?
辿り着いた先をグルっと見回そうとしたジールだが
「ッガボ!?ゴボボボ!???」
ここが海の中であるという事をすっかり忘れていた。先ほどまで居た所は特別な聖域であり、海底と言えど人間であるジールも不思議と呼吸が出来ていた
その為ジールが編み出した「水中で呼吸出来たら便利だよね」と言う名の魔法を使用するのを失念していたのだ・・・だがオカシイ、元々ここも人魚姫の涙で支配されている空間だから人間のジールでも息が出来るようになっている筈だ
そんな疑問を考える余裕も無く一気に海水を吸い込んでしまって溺れそうになってしまったジールだが、何とか前述の魔法を起動させ事なきを得る
「ぶはぁっ!ゴホガハッ!・・・あ~死ぬかと思った」
魔法を起動させたことで自分の気道が確保出来た。フゥっと一息ついたところで改めて辺りを見回した
「ここは・・・あ~ククルに突き飛ばされて落ちて行った所か・・・何とか生きて帰ってこれたな。しかし何かあったのか?息が出来ないとは思わなかったぜ・・・」
見回して最初に目に入ったのは自分が飛び込んだ、いやトライデントで叩き落された台座。そして部屋全体にエンタシス調の柱が高く並びそびえ立つ場所
台座の中は相変わらず魔力の本流で渦がバチバチと軽く放電していた。よくこの中に飛び込んで生きて帰ってこれたな、改めてしみじみとそう思う。むしろ辿り着いてからの方が大変だったか
そんな事を思い出しながら回想に浸っているところに部屋のドアがいきなり大きな音を立てて開け放たれた
ジールはいきなりの事でビクッと肩を震わせ音がした方へ視線を送ろうとするが、それより遥かに早く自分の視界を何かが覆いつくした
「ぶへぇ!?」
「ジールちゅわあぁぁ~~~~ん!あはぁ~~ん!会いたかったわぁん!遅かったから心配したんだからぁん」
ギュッと固くて肉々しい何かが自分の体を締め付ける。それは目で確認する必要もなく聞こえてくるその声がどう考えてもタルタロスだ
「ぐぇぇぇ・・・おぃ・・・苦しい痛い暑苦しい。離れろタルタロス」
「いやぁん、ジュリアって呼んでぇん」
自慢の肉体でこれでもかというぐらいジールを締め付けるタルタロス。心なしかジールの顔が紫色に染まってきた気がする。自分の視界を覆いつくしているのは人で言ったら胸にあたる部分。そしてそれは人魚でも一緒なので本来ならご褒美と捉えられてもおかしくないのだが・・・タルタロスは固い、固くて逞しいのだ。何故ならどう考えてもそれはおっぱいと言うより胸筋だから
ジールは遠のく意識の中で思った
あれ?確か人魚ってある意味性別が無いってセドリアーナが言ってなかったっけ?で、何でこいつはこんなに逞しいんだ、と
「タルタロス様、そろそろ離さねぇと死んじまいやがりますよ」
薄れゆく意識の中聞こえてきたのは聞きなれた毒舌第二号。だがそのお陰で自分をあっちの世界に連れて逝きそうになっていた力が緩んだ
「もぅククルちゃんも、だからジュリアって呼んで?」「ぶはぁ!殺す気かこの筋肉バカ!」
「お帰りなさいでやがります、ジール様。無事にセドリアーナ様には会えたので?」
力が緩んだことでタルタロスを自分から無理やり剝がすジール。ぶっちゃけ今のが一番死にそうになったかもしれない
肩で息をするジールにゆらゆらと近寄っていくククル。彼女はジールの安否よりも自分の敬愛する師匠に会えたのかどうかが気になるようだ
「あ、ああ。何とかな、んでもってちゃんと原始の涙の欠片は貰えたよ」
「そうでやがりますか・・・ちっ、つまらねぇですね」
どうせなら死ねば良かったのにと言わんばかりのククル。元々セドリアーナに会いに行くことに不満を持っていた彼女はジールが無事に目標を達成して帰ってきたことが気に入らない
「まぁまぁククルちゃん、そんなこと言わないの。無事にジールちゃんが帰ってきたんだから良かったんじゃない。アタシは心配で心配で・・・この一か月碌に食事が喉を通らなかったわん。おかげで少し瘦せちゃった」
そんなククルをコラッと優しく窘めるタルタロス。それに本人は瘦せたと言っているが全くもってそうは見えない。むしろ以前より少し逞しくなっている気がする・・・が、それよりタルタロスが気になることを言った気がする




