8・日常
トラウマになりそうな一日から翌日
まだ朝日も昇らないうちからもぞもぞと一人の男が目を覚ます
「あ~もう朝か・・・くそっ、まだ口の中に氷が残ってる気がするぜ」
大きなため息をつき、顎を擦りながらベットから降りる
彼の名は先日理不尽な暴力を受けまくった男、ジール・ストライダルその人である
「リンの奴め、やりすぎだろ・・・いやそれよりその後のエリーのお仕置きの方が・・・」
ブルっと先日の凄惨な現場を思い出し身震いをする
「ったくシャルのババァめ、氷魔法なんか教えやがって・・・まぁリンも俺に似て魔力だけは生まれつき多いしな。やれやれ・・・よしっと今日も行って来ますかね」
ブツブツと文句を言いながらも身支度を整え、部屋のドアを開け外に出ようとする
が、ふと何かを思い出し後ろを振り返る
「おっと、弁当弁当っと。昨日は忘れちまったからな。あと、それと・・・」
そう言いながら静かに部屋の中に戻り、自分の部屋とは別のドアに手をかけ静かに中に入る
「行ってきます」
そう言いながら目の前にスヤスヤと静かに眠る最愛の妻と娘・・・エリーとリン
優しく二人の髪を撫でた後、先日の恐怖を思い出し少し身震いするが
まぁこれも幸せな証拠か
そう思い、改めてまだ肌寒い外に一歩踏み出した
「うぅ~まだ寒いな・・・まぁそれはしょうがないか。さぁってと、確か今日はシャルのババァに頼まれたモヤイ草とガルス親父に頼まれた鉄鉱石にアメジストか・・・あ、あとダノン爺に頼まれた滋養強壮に効くスポン草か・・・全くあのジジイはいつまで現役でいるつもりだよ」
村の住人に頼まれた依頼を思い出しながら採取場所へと進んで行くジール
そう、所謂彼の仕事はハンターである
しかしハンターと言っても魔物等、討伐の依頼は受けていない
娘のリンが生まれてからは狩りの依頼を断るようになったのだ
いくら魔物であろうが彼等にも家族があるだろうと考えるようになったからである
例外があるとすれば生きていくための食料として、狩猟と分類される部分であろう
しかしやはり実入りのいい討伐の依頼を断ればその分稼ぎは減る訳で・・・その穴埋めは自分で採取した物を自らの足で運び、売るようにしているのである
「出来れば店でも開きてぇな」
と呟くジールはハンターと言うより商人のようである
しかしジール自身、商人と呼ばれることは嫌いなようであくまでも「俺ぁハンターだ!」と言い切る変なプライドがある
恐らくそれは一時期、ハンターとして世の中にその名を轟かせた『不死身のジール』と呼ばれていた時のプライドかもしれない




