71・思い出さない方が幸せだって事もある
「ほらリン、ちょっとこれ持ってて!」
そう言い、リンにポイっとガルスの足らしき部分を放り投げる。そして掌を合わせ魔力を込め始めた
生まれながらエリーの得意とする属性は水であり特に回復に特化していた。よくジールに向かって使っている氷の魔法はその水属性から生まれる派生属性であり水魔法より氷魔法の方が攻撃するに当たって使いやすいからであろう
それを娘であるリンはしっかりと受け継いでいるみたいだが・・・
閑話休題
「持っててって・・・これホントに生きてるの?」
渡された足らしき部分を嫌々摘まんで持ち上げてるリン
これと言っている辺り大分ガルスに失礼なのだが無理やり引き摺り出した手前、放って置く訳にもいかずエリーに協力することにした。それに渡された部分を持っていないとまた氷の墓標の中に落ちてしまいそうだからであった
そしてある程度魔力を込めたエリーは光に包まれてきた両手をガルスの方へ向け放った
放たれた魔力はガルスの体全体を包み光の軌跡を残しながら負傷した個所を治していく。つまり今回の場合は全身って事である
「わぁ・・・綺麗」
普段エリーの回復魔法をあまり目にしないリンはその光景に目を奪われる。いつもズタズタになっているはずのジールはいつの間にか復活しているため回復魔法を使う機会がほとんど無いからだ
さすが回復魔法を得意とするだけあって、他の魔法使いが行使する回復魔法より遥かに一段と優れているその効力。あれだけガルスかどうか怪しく見えていた肉塊が見る見るうちに元の形を取り戻していく
一流の魔法使いが行使する回復魔法が脚色して天使の息吹と表現するならエリーの回復魔法は神の歌声と比喩できるぐらい、そのぐらい彼女の回復魔法は優れており、そして何より美しかった
光の軌跡がガルスの全身から消え去る頃、その全身の怪我は全て完治しており、アレだけ見るも無残だったガルスらしきモノはいつものガルスに戻っていた
「・・・う・・・何だ?俺は・・・何があったんだっけ?」
薄っすらと目を開けるガルス
当然、瀕死だったため前後の記憶が曖昧みたいで目を開けた後、体をゆっくり起こし辺りを見回した
「え~っと・・・何でオレはこんなとこで寝てんだ?それにこのバカでかい氷の塊は何だ?」
まず目についたのが自分の側に悠然とそびえ立っている氷の塊
そしてそこからゆっくり視線を下ろしたら少し心配そうな顔で見ている自分の愛でる対象の少女リン、それに何故かバツが悪そうに引きつった笑みを浮かべていた金髪の美女エリーの二人
「あの、よく分からねぇが何かあったのか?」「いえ、何もなかったわよ。ガルスさん、少し疲れて寝てちゃったみたいだから」
無かった事にした
オバサン呼ばわりされたエリーだがさすがに瀕死まで追い込むのはやり過ぎたと自覚したみたいで、自分がガルスを肉塊にした事を無かった事にした
「ママ・・・」「リンは黙ってなさい」「はい」
色々ツッコみたかったリンだったがエリーの笑顔の隙間から見える冷たい視線に何も言えず黙ってしまった
「そんな事より大変なのガルスさん!村に魔物の群れが襲ってきて!今危ない所をダノンさんに助けて貰ったばかりなんだけど・・・」
ガルス肉塊事件から話を逸らしたかったエリーは今村が大変な状況にある事を思い出し、と言うかそもそもそれが一番の問題なのだが、それをガルスに伝えようとした
「はぁ?魔物の群れぇ?この村に魔物が来る訳無いじゃ・・・」
「ぐわぁ!!」
だがその二人の会話を遮ってその近くに大きな黒い塊が飛んできた
「え!?なになに!?・・・あ!ダノンじい!大丈夫!?」
真っ先に反応したのはリン
飛んできたのは魔物達と熱い戦いを繰り広げていた筈のダノン
「ダノンじい!どうしたの!?血だらけに・・・!?さっきまで全然余裕そうだったのに・・・」
そう、その筈なのだ。先程まであれだけ楽しそうに、さらに余裕そうに魔物達を蹴散らしていた筈のダノンが少し目を離している間に血だらけになり、そして吹き飛んできた
自慢の黒光りしている筋肉もズタズタに切り裂かれ、フォーマルスタイルの白いフンドシも自らの血で真っ赤に染まっていた
「ダ、ダノンさん!大丈夫!?待ってて今回復魔法を・・・!」
「おいおいダノン爺、お前さんがそこまで痛めつけられるって何があったんだよ?」
そのダノンを見て慌てて駆け寄るエリーと体を起こしながら不思議そうにダノンを見るガルス
ダノンの実力を知っているガルスはその元凶を探ろうと先程までダノンが戦っていたであろう方向に目を向けた
「ほう・・・他にもまだ人間が居るではないか」




