7・氷襲 身に降りかかる厄災
ドアの隙間越しに視線が合った二人
外から見ていた金髪のレディは目が合った瞬間、踵を返しあっという間に逃げていく
それをポカーンと見ていたジール
だが、ふと我に返り水たまりの中から跳ねあがる
「ぬぁあ!リィイインンンン!!」
幻想的な程に飛んでいた意識から現実へと帰還し、開け放たれたままのドアを飛び出し全てのお漏らしの原因を作った我が娘を追い掛け始める
「待ちやがれぇえ!約束が違うじゃねぇかぁーーー!」
顔を真っ赤に染め顔全体に血管を浮き上がらせ全力でリンを追い掛けるジール
「はぁ、全く・・・まぁいいわ。お仕置きは後でゆっくりしようかしら」
一方二人が飛び出していった後、エリーは握りしめていた二つの神器・・・フライパンと包丁をそっとテーブルの上に下す
「レイカーさんのタルトか・・・少し頂こうかしら。あ、その前に」
そう呟きながら手を合わせ少し魔力を両手に込めた後、ジール作成の水たまりへ薄っすらと光った手を向ける
すると淡い魔方陣が現れゆっくりとそれを浄化していった
「これでよしっと。さて頂きましょう」
綺麗さっぱりその痕跡を消した後、先ほどまでの怒りはどこへやら、元々の端麗な微笑みを浮かべ鼻歌を歌いながらタルトを食べる準備をし始める
「ふんふん~。あら、やっぱりこのタルトは美味しいわね。今度レイカーさんに作り方を教えて貰おうかしら?私が作ると何故か二人ともいつの間にか居なくなっちゃうし・・・それにやっぱり愛しい旦那様には美味しいタルトを食べてほしいからね」
ゆっくりとレイカー作のタルトを食べ、うんうんと頷きながらいつも作る自分のタルトを思い出し不思議に思う
「それにしても何で私が作ったタルトはいつも紫色になるのかしら?」
ーーー
「リィン!待てこらぁ!」
「へっへ~んだ!待つもんかぁ!」
エリーが我が家でそう呟いている事なんて知らず、二人は未だに鬼ごっこを続けていた
しかしやはりそこは大人と子供の差か、徐々に二人の距離は縮まっていた
「ふふふ、あともう少し!捕まえたらそのケツをひっぺ返して真っ赤に腫れるまで叩いてやる!」
「パパの変態!スケベ!クソオヤジ!これでもくらえ!」
変態オヤジの変態発言に自分の貞操の危機にゾクッと背筋を凍らせて焦るリン
そして我が身を守るために慌てて掌をジールに向ける
「こらぁーー!へぶしっ!」
「やーい!この前シャルばぁちゃんに教えて貰ったんだー!」
リンが叫ぶと同時にリンの掌から小石サイズの氷の塊がいくつも飛び出した
「こ、こら!人に向かって魔法をうつんじゃない!あのババァめ!余計な事教えやがって!」
ガンッゴンッドコンッバキャァン!
「へぶし!あべし!ぺぷし!むがぁああ!」
「どうだこの変態オヤジめ!」
「コラッ!おまっ!最後のは中級ぐらいあっただろうが!あべしぃい!」
「やーい!パパなんてこれでも食べてればいいんだよ~っだ!」
「リィイーーン!」
「はぁ、タルト美味しかった。ふふ、二人とも早く帰ってこないかしら」
今日もこの村は平和なようであった
「あ、あべしぃいいいいい!!」




