69・襲撃
村の平穏を切り裂くような不穏な空気
遠くから魔獣の遠吠えのような声が聞こえた
「え?ダノンじい、今何か聞こえた?」
「ん?特に何も聞こえんかったが・・・何か聞こえたのかの?」
「いや・・・気の所為かな」
聞こえた気がしたが空耳か、そんな事を思い直していた時村人の一人から大きな声が上がった
「お、おい!アレは魔物じゃないのか!?」
村の青年からそんな声が上がった時、村の外れから大きな音が響き渡った
ドォオオオン!!
「ぎゃぁあああ!」
「ま、魔物の群れよぉ!!」
「た、助けてくれぇ!!」
それと同時に辺り一面を耳を劈く様な悲鳴が響き渡った
村の外れの方から立ち上がる黒煙 吹き飛んでいく家屋
平和な村は一転、人々は一気にパニックになり叫びながら逃げ惑い始めた
「え・・・な、何?何なの?何があったの?ダノンじい!魔物が来たって!どうしたらいいの!?」
そんな状況を見て同じく慌てて取り乱すリン
魔法の才能は両親を引き継いで優れているがまだ年端もいかない可憐な少女。魔物と対峙したことがある訳でもなく自分の父以外の戦闘もした事が無い
しかも今起こっている喧騒は魔物の襲来。見る見るうちに村が蹂躙されていくであろう事柄に慣れている訳もない。いつもは大人びて見えるリンだが思わずダノンの側に駆け寄り、逞しく黒光りする背中に自分の身を預け震えていた
「大丈夫じゃリン。この村が魔物なんかに落とされるはずがない。・・・じゃが今はジールがおらんからのう」
魔物の襲来を受けても尚、スポン草を掻き混ぜている手を止めないのは流石。なんならそのまま魔物の所へ向かって行きそうな程背中の筋肉が隆起してきた
村人たちが逃げ惑っている中どうにも緊張感の無いジジイだ。だがこの村の守り手の要であるジールが居ない事に一抹の不安を覚える。いくらオリジナルフォーマルでキメているフンドシ爺でも魔物の群れが相手となると話は別なのだろう
「あ!そうだ、ママは!?ママぁ!」
震えていた筈のリンだが身を預けていた背中が膨らみ始めた事で我に返った
そしてオバサン呼ばわりしたガルスの為に氷の墓標を立てていたエリーに向かって駆け出した
「ママ!ママ、何してんの!?ま、魔物が襲ってきてるって!」
「ふ、ふふふふふふ。これで私をオバサン呼ばわりした害虫は居なくなったわ。どうかしら虫けらさん、あなたの為に綺麗なお墓を建ててあげたわ。冷たくて気持ちいいでしょ?うふふ、遠慮はしないでいいのよ。ずっとそこに埋もれていなさい」
リンは思った
こいつぁダメだ、と
「ま、ママ!落ち着いて!魔物が襲ってきてるの!逃げないと!って、ガルスさんはちゃんと生きてるの!?ガルスさんも連れて行かないと!」
目の前に積み上げられた氷の彫像を見て高らかに声を上げキマッちまってるエリー
リンはそんなエリーの肩を掴みブンブンと前後に揺らし正気に戻らそうと試みる。それより氷の彫像によって地面の下にめり込んでしまっているガルスの方が遥かに心配なのだが・・・だが僅かにはみ出ている腕がピクピクと動いている事から何とかイッちまう事は避けれたみたいだ
その時二人の近くで地面が吹き飛ぶほどの大きな音が響いた
ズドォオオオオン!!
「キャアッ!?」
その音と共に大きな衝撃が二人を襲う
その衝撃に逆らう事は出来ず二人は体を宙に投げ吹き飛んでしまった
「キャアアア!?」
受け身を打つ事も出来ないまま吹き飛んだ二人はそのままの勢いで地面に叩き付けられた
が、その直前、黒い影が飛んできて地面に叩きつけられる筈の二人をギリギリのところで抱きかかえた
「いたっ!?え?何なの?どうなったの?」
「いたた・・・え?アレ?私は・・・何してたんだっけ?それにダノンさん?何でここに居るの?」
そう、その黒い塊とは煮込み終わったスポン草をむしゃむしゃと口に入れ咀嚼しているダノンであった
吹き飛ばされた衝撃でキマッていたエリーも正気に戻ったみたいで、ただ前後の記憶は曖昧なようで今の現状が全く理解できないでいた




