67・NGワード
「私知~らないっと」
ガルスがオバサン発言をしたまさにその時、その背後で食器のようなガラス製品が地面に落ちる音がした。その音のする方へリンが目を向けたと同時に、我関せずと言わんばかりに引きつった顔をしながらさっさとその場を退散していった。被害がこちらにも来る前に、という英断だろう
だがその判断は間違っていなかった
あっという間に、それこそアップルタルトに飛び付いてきた時より早く、脱兎のごとくその場から姿を消していったリンを見てガルスは気付いた
あ~これはアレだ、完全にやらかしたわ、と
冷や汗が全身から一気に吹き出る。後ろを振り向けない
だがこのままでいる訳にもいかず、何とか生き延びる方法を考えながらゆっくりと後ろを振り向いた。ギギギと効果音を立てながら自分の首の向きを後方へ持っていき、そこに立っているはずの人物に視線を送った
そして予想通り、そこに立っていた人物と目が合う
するとその人物、エリーはニッコリと微笑み口を開いた
「遅くなってごめんなさいね。ちょうど果実のジュースを切らしていたものだから。レイカーさんの所に行って分けてもらってたのよ」
優しい
柔らかくいつもの優しい天使のようなエリーの声
だがそれが怖い
声だけ聞けば何でもないいつもの日常、だがガルスは全身から冷や汗が止まらない。その証拠にいつの間にかぐっしょりと地面に水溜りが出来ていた
「それでね、せっかく分けて貰ったのに今落としちゃったの。もう、私ってドジね」
怖い 怖すぎる
そんな事ありません、と言いたいガルスだが、その笑顔が怖い。いつものエリーならコツンと頭に手を当てて舌を出すようなぶりっ子みたいな事は絶対しない。これはエリーじゃないんだ。何か違う別の生き物なんだ
何とか言葉を捻り出し機転を利かしてこの場を切り抜けたいが声が出ない。そんなガルスから少しも視線を逸らさず、声が出ないガルスの代わりにエリーは言葉を続ける
「それでね、代わりと言ったらなんだけど、自分で飲み物を用意してみたの。またレイカーさんに貰いに行くのも申し訳ないし・・・ほら、見て?まだちゃんと溶けてないから飲みにくいかもしれないけど、量だけはしっかり用意したから」
そう言いながらスッと手を差し出すエリー
「あ・・・え・・・?」
それを見て僅かながら声が出たガルスだが、その差し出されたエリーの手には何も無い
それを不思議に思うガルスだが、その疑問はすぐに解けた
「あ・・・あ・・・」
気付いたのは自分の体が影に隠れた事。今日みたいな雲一つない晴天なら影が出来る事は無いはずだ。ならどうして?
そう思った。だから気付いた
自分の頭上に視界一面を覆い隠すような大きな氷塊が形成されていた事を
しかも棘みたいなのがいっぱい生えている
逃げよう
自分の生存本能が危険信号を発し、そう告げる
逃げなければ
そう思う。思うのだが体が言う事を聞かない
まるで蛇に睨まれた蛙。ライオンに睨まれた小鹿
小鹿の部分は合っているだろう。体が小刻みに震え、立つ事もままならない。指先一つ自分の意志で動かす事が出来ない
「あ・・・い・・・」
何とか逃げようと体に力を入れようとするが、漏れ出してくるのは僅かに空気が漏れた口から出た言葉と下半身から滲み出る液体
既に噴出した汗でおっきな水溜りが出来たいた為それに気付くのは本人以外いないのが幸いか
これはダメだ
そう悟ったガルスは最後に思う
ああ・・・せめて最後にベッドの下のお宝(エロ本)だけは処分しておきたかった、と
そう思った直後、ガルスの視界は氷塊に覆われ
審判は下った
「ふふふふふふ!ほら!こんなにいっぱいあるから!オバサン頑張って作りましたから!たぁんと飲んでくださいねぇ!!」
ドッゴォオオオオン!!
「うっぎゃぁああああああ!!」
・・・
「うわぁ~・・・さすがママ。怒らすと容赦ないなぁ、ガルスさん生きてるかなぁ」
自分だけ安全圏に逃げそれを遠目で眺めているリン
その心配先の人物は氷塊ごと地面にめり込み過ぎて姿すら見えない
「これまた随分と派手にやったもんだのぉ」
それを見ていたリンの背後からふと聞きなれた声が聞こえた




