66・口は災いの元
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「えいっ!やあっ!」
場所は変わって静かな村に響く一人の少女の声
「おっと、ふっ、まだまだ甘いな」
そしてそれに答える気持ち悪いおじさんの声
それはお尻の腫れがすっかり引いて少女の魔法の実験台と言う名の的になっているガルスの声だった
本人の本職はあくまでも鍛冶師なのだが、元々素材を自分で集めてりしていた時もありジールと一緒にハンターとして珍しい素材を採りに行った事もあった。それ故自分の身は守れるぐらいの実力はあるようだ
「もぅ!ガルスさん!避けてばっかりいないで少しは当たってよ!」
「・・・そんな無茶な。リンちゃんや、俺はジールみたいにすぐ復活できるわけじゃないんだ。そんなデカい氷の槍をくらったら死んじまう」
少女ことリンから次々と繰り出される氷の魔法。殺傷力で言ったら一つでも当たれば致命傷になりそうな氷の槍、実験台になるには少々どころかかなりリスクが高いみたいだ
「ふぅ~っと、少し休憩しようかな」
「よし、それがいい。そうしてくれ」
ようやく命の危険から解放されたガルスは額の汗を拭いどっこらせっと地面に腰を下ろした。つい最近まではお尻を地面に下すことも難しかった事もあり、何だか地面がとても懐かしく思えてくる
「ふふ、ガルスさん、お疲れ様。リンの相手をしてくれてありがとうね」
お尻の具合を確かめながら息を整えているガルスの元に金色の長い髪を耳に掛けながら一人の女性、エリーが声を掛けてきた
その手には出来立てほやほやのアップルタルトが乗った皿を持っており甘くいい匂いが鼻をくすぐってくる
「あ~!いい匂い!とうとう完成したの!?レイカーさん直伝のアップルタルト!」
そんな甘い匂いを腹ペコリンちゃんが見逃すわけもなく、腰を下ろしていた岩からとんでもない速さで飛び跳ね、あっという間に距離を詰めてきた
「ほらほら落ち着きなさい。ガルスさんもよかったらどうぞ」
「あ、あぁ。ありがとう」
(いや大丈夫かこれ?エリーのタルトと言ったらあのジールが死にかけたって噂のヤツじゃ・・・いや待てよ、さっきリンがレイカーさん直伝のって言ってたよな?なら大丈夫なのか・・・)
爽やかなリンゴの匂いがしてとても美味しそうに見えるアップルパイ。だが一瞬でガルスの今までの経験上、危険信号を鳴らしていた事もあり彼の脳内で緊急会議が開かれた・・・結果、少し伴侶に預かってみることにした、と言うか目の前で次々と少女の口の中に消えて行くアップルタルトを見れば大丈夫と判断するに固くなかった
「んぐっんぐっ・・・おいひいねほれ。へいはーはんはにほひへへもはったはう?(美味しいねコレ。レイカーさんに教えてもらったやつ?)」
「ほら、喉に詰まるわよ?全く・・・ちょっと飲み物持ってくるから少し待ってて」
エリーがリンの顔を見て呆れてしまっている。口いっぱいにタルトを詰め込んでいるリンは小動物の様に大きく頬っぺたが膨らんでいた
ガルスも少し手に取り食べようとしたが・・・
「っておい!もう全部無いじゃねぇか!・・・ったくお前さんの胃袋はどうなってんだ」
少し躊躇している間にすっかりとリンの胃袋に収まってしまったアップルタルト。さすがレイカー直伝のレシピであり、いつぞやの紫色をしたダークマターはすっかり身を潜めていた
「ぷはぁ~!あー美味しかった!あれ、ママは?」
「・・・どんだけ集中してたんだよ。それよりリンも大分魔法の腕が上達してきたな。さすがジールの娘なだけある。もう実戦とかはしたのか?」
「え?実戦?ううん、まだしてないよ。だってパパと勝負してる方が強くなりそうだもん。それよりママは?喉乾いたんだけど・・・」
「そりゃアレだけ食べりゃ喉も乾くだろうよ・・・エリーなら今飲み物を取りに行ってるぞ。まぁこうなるのを分かってたんだろうな・・・そんなにタルト美味かったのか」
リンの言葉にブツブツと小さな声で返事をするガルス。少しもタルトを食べれなかったことを根に持っているのか少し拗ねていた
「え?何?何か言った?それよりガルスさん、ママが戻ってくるまで魔法の練習の続きしようよ!」
お腹いっぱいになったリンは元気もいっぱいだ
元気いっぱいのレディは喉の渇きより待っている時間が耐えれないみたいで、ガルスを再び魔法の練習台にしようと座っているガルスの手を引き催促をする。美少女に手を引かれデヘッと一瞬気持ち悪い笑みを浮かべたガルスだがまた命の危険にさらされる方が一大事なので慌てて手を引き戻した
「いやいや!ちょっと休憩中だ!エリーが飲みもの持ってくるのを待とうぜ!俺も喉乾いたしさ!あ~しっかし遅いな、あのオバサンはどこまで行ったのかね」
ガチャン
「あ・・・」
「え?」




