63・伝承される技
「がっ!?ぐはっ!・・・はぁはぁ・・・音が、止んだ?」
セドリアーナの旋律が止んだと同時に体の支配が解かれたジール。息をするのも忘れていたジールは思わず地面に膝を付き咳き込んだ
「くっ、何だ、どうなったんだ?セドリアーナは?」
体の自由を取り戻したが全身に広がる倦怠感だけは拭う事が出来ず現状を把握できないでいた。辺りを見回そうにも視界は焦点が合わず、立ち上がろうにも足に力が入らない
自分の体を精神まで支配された事は長い間生きてきたジールでも初めての事だった
さすがは三大神の一柱と言ったところか
神龍などの伝説級の魔物の討伐は何とか可能にしろ、神そのものを相手にするには分が悪すぎたみたいだ。しかもそれが三大神となれば尚更
(はぁはぁ・・・クソ、一旦引いた方がいいのか?)
まだ力の一端も見せていないセドリアーナに対し満身創痍のジール。そもそも先程の旋律はジールに対する攻撃だったのかどうかも怪しい。それすらもジールは抵抗できなかったのだ
そんな歴然とした力の差に弱気になるジール。既に心はほとんど折れていた。何とかこの場からの脱出に思考を巡らす
そもそもここまで来た道が分からねぇ、どうする?どうやって抜け出す・・・来た時みたいに振動をぶちかましてみるか?
未だ立てない身体を叱咤し、何とか立ち上がろうとする
そんなジールを奏でていた弦楽器を再び下し、セドリアーナは静かに見ていた
そしてゆっくりと口を開き、一声
「いいわ、合格よ」
「・・・ほえ?」
思いがけないセドリアーナの言葉にジールはアホみたいな声が出た
「美しいわ。その理由は美しい。ふふ、私は美しいものが好きなの、人魚達みたいにね。ジール・ストライダル、アナタの事、見直したわ。不細工な面構えだけど、心は美しいみたいね。不細工な顔だけど、合格よ」
不細工不細工うるさいわ
セドリアーナの毒舌は相変わらず、だがそんな事口に出せる訳にもいかず、ジールはただ呆気に取られていた
「ふふ、ほら早く立ちなさい。原始の涙が欲しいのでしょう?その為の扉は今創っておいたから」
呆けているジールを早く立てと催促する。そして自分が奏でた旋律の残滓が残っている光りを指さした
創っておいた・・・?どういう事だ
そう思うジールが何とか焦点が合ってきた視界を上げ徐に辺りを見回した
そこにはセドリアーナが言う通り、確かに扉があった。いや、扉と言うよりは金色に輝く渦だ
金色の粒子が集まって朧気ながら、だが確かに地面から少し離れ宙に浮いている金色の渦があった
「見えたかしら?あの扉が原始の涙がある場所の入り口よ。ふふ、早く行って来なさい。あ、先に言っておくけど原始の涙自体は採る事が出来ないわよ?まぁ行ったら分かると思うけど、採れたとしても欠片ね。原始の涙の欠片。それでもアナタの目的には充分足りると思うわ」
「・・・」
いやいやちょっと待ってくれ。全然理解が追いつかない
そもそも何だ?さっきの旋律はこの扉を創るために奏でたもんなのか?じゃあ精神支配のようなアレは別に俺を攻撃したわけじゃなかったのか?それに扉やら欠片やら意味が分かんねぇ
いきなり弦楽器を奏で始めたと思ったら扉を創ったから行って来い、と言われジールの頭は脳内の処理が間に合っていない
その思いを見据えてかセドリアーナはジールへと手をかざしその体を静かな水の渦で無理やり立たせた
「ふふ、さっきの私の旋律で体が動かないのね。しょうがないわね、でもどうせ扉の中じゃ体は動かせないから一緒ね。まぁいいわ、このまま私が放り込んであげる」
そう言いながら水の渦を操りジールの体をそのまま渦の方へ導いていく
「お、おい!ちょっとどういう事だよ!?何が何だかさっぱりだ!」
「煩いわね。その臭い口を閉じなさい。行けば分かるわ、私が認めてあげたんだからさっさと行って来なさい」
ジールは訳も分からずドンドン話が進んで行く事に困惑するがセドリアーナはそんな事はお構いなし、渦の入口へ近づきそして浮かべたままのジールをそのまま渦の中へ放り込んだ
「行ってらっしゃい」
「ぬわぁあああ!何かデジャブな気が・・・!」
さすがツンデレククルが仕える神様
ヤる事がそっくりなのであった




