62・神経支配
「ふふ、見た目とかは色々と気持ち悪いけど可愛い所もあるのね。いいわ、黙っててあげるわ。その代わりアナタが欲しがっている原始の涙、それを欲しがっている理由を教えてくれるかしら?」
ジールに近寄りツゥっと人差し指で頬を撫で下ろすセドリアーナ
絶世の美女に再び近寄られオマケに悩殺サービス・・・これにはジールも堪らない。先程のオーラは何処へやら、鼻の下がビヨーン、ついでに涎もビヨーン。変態面全開、これが男の性、だが男なら仕方ない
そんなジールに追い打ちを掛けるように、セドリアーナはジールの耳元にふぅっと息を掛けそっと囁いた
「あら?どうしたのかしら?ほら、しょうがない子ね。ふふ、汚いから消し飛ばしてしまおうかしら。あ、でもアナタには意味ないのよね。ほら、早く言いなさいよ。じゃないとアナタの下半身、千切って人魚にしてあげるわよ。そうすれば少しは見た目もマシになるでしょうから」
「・・・何それ怖い」
ちょっとしたホラーである
鼻の下ビヨーンしていたジールだがセドリアーナの猟奇的な言葉に思わず下半身が委縮してしまった。じりじりと後ずさりをし、せっかく近付いてきた美女から少し距離を取り安全確保に努めた
それを見たセドリアーナは美魔女のような妖艶な笑みを浮かべ意地悪そうに微笑んだ
「ふふ、冗談よ。でもそれはそれで面白そうね。どうかしら?一回やってみ」「いえ結構です!とても結構です!今のままで問題ありません。気持ち悪いままでいいです。あ、私が原始の涙を欲しがっている理由ですか?それはですね、自分の妻と娘の為に装飾品を作ろうと思いまして。それがここに伺った理由です!」
もう必死
大事な下半身と永遠のお別れする訳にもいかないジールは、セドリアーナからの問い掛けられた答えも含め彼女の言葉を遮って必死に畳みかける
それを聞いたセドリアーナは少し詰まらなそうに顔をしかめたが、直ぐに笑みを浮かべ下していた金色の弦楽器を持ち上げ優しく奏で始めた。両手で優しく抱きかかえ美しく整った指先で弦をスラっと撫で始める
その音色は聞いているもの全てを魅了するかのような旋律。優しくも強さがあり五感の全てを聴力に奪われていくかの様な感覚
音が耳へ入り脳へ伝わる。それが全身に駆け巡り浅く痺れるように震える
魅了されるより音に体全体を支配されている、そんな言葉が当てはまる
いきなり弦楽器を奏で始めたセドリアーナにジールは一瞬呆気に取られたが、その神代の依り代とも言える神器から響く旋律に耳を奪われ、体を奪われ、動けないでいた
(ぐっ!?・・・何だ・・・体が全く動かねぇ・・・もしかして俺に原始の涙を採りに行かせないように・・・!?)
思いついた想像にゾクッと背中に悪寒が走る
先程セドリアーナが言った事は強ち冗談では無かったのかもしれない。そんな事が頭を過る
しかしどうしても体が動かせない。魔力を込めるどころか体全身がセドリアーナが奏でる旋律を受け入れ、ジールの脳からの指令を拒否していた
この旋律をずっと聞いていたい・・・ジールの体は細胞レベルまでそれを受け入れ委ねていた
ジール自身と言える魂の部分だけは何とかそれに抗おうと必死に意識を保ち体に指令を送る
動け、動け、耳を塞げ
何とかしないとこのままじゃ・・・
だがジールの決死の抵抗も空しく指先一つどころか精神すらも支配されていく
(ヤバい・・・意識が・・・クソ)
エリー・・・リン・・・悪い・・・少し帰りが遅くなるかもしれねぇ
意識が遠のく
自分が自分じゃなくなるような感覚
ジールの意識を保っていた希薄な灯も消え去っていく
・・・
そう思っていた時、不意にセドリアーナの旋律が止んだ




