6・未亡人に手を出してはいけません
ゴゴゴゴと歪む背景とともに心なしか家の中が揺れているような錯覚を起こすほどのオーラ
シールは思った
これは死んだかも分らんね
「あああのエリーさん、ご誤解なんです!すす少しタルトを頂こうと思っただけで・・・」
いつの間にか両手にフライパンと包丁を持っているエリーに命乞いをせねば!と言わんばかりに必死になって言い訳を告げる
そしてジールが土下座をしている床はもはやダラダラ流れている汗か、もしくは股間を湿らしているもので水たまりが出来ている
いい歳したオジサンが気持ち悪い、とリンに言われる以上の哀れな格好をしているジールだがそんな事お構い無し。それより今の現状を何とかせねばと必死に食らい付く
そしてそんな必死な命乞いが少しは効果があったようで、その言葉にエリーが反応する
「タルト?あぁ、そう言えばリンがさっき何かくれたわね?パパにも少し分けてあげてねって言ってたけど?」
「!?そ!そうなんです!」
ジールはピクリと反応したエリーにここが正念場だと思い一気に畳みかけようとする
「ああのですね!レイカーさんからタルトを頂きまして!出来れば少しわわわ分けて頂けると」「あなた?」「はぃい!」
否、失敗に終わった
少し収まったかと思ったエリーから発せられるオーラ
しかしジールの言葉を聞いた途端に再び勢いを増していく
今のエリーならきっと一人でも魔王でも何でも倒せるのであろう
「あなたはそんなに『レイカーさんの作ったタルト』が食べたいのかしら?」
ガタガタガタガタ・・・
そんなエリーのオーラに勢いを押さえつけられ、ジールは再びキチンと自分の作った水たまりの中にチョコンと座りなおす
「い、いえそんな事はめめ滅相も御座いません」
「あらそう?じゃあこのタルトは私とリンで全部食べていいわけね?」
「いやあの・・・で出来れば私にも」「え?」「いや何でも御座いません」
ジールは天を仰ぎ思った
あぁ、神様、私が何か悪いことをしたのでしょうか?あなたはきっと私の事が嫌いなのですね、分かります
エリーの握っているフライパンと包丁が何故かジワジワと金色のオーラに染まってくる。それを見たジールはもはやこれまでと思い、スッと肩の力を抜き視線を宙に投げ現実逃避を図った
そしてふと窓の外を見れば
あぁ・・・今日も空がとても蒼いな。あ、ちょうちょ
ジールの瞳には映る、美しく澄み渡った雲一つない青空。そしてまるで水晶の様に透き通った輝く対になった羽を優雅に羽ばたかせ幻想的に踊る蝶々。ふと目線をやや下の方に移せばドアの隙間からコチラをニヤニヤと黒い笑みを浮かべ覗いているリン
数秒、ジールは一瞬それが何か理解出来ず不思議そうにそれを見つめた
「・・・」
「・・・あ、やばっ!バレちゃった!」




