53・オジサンの独り遊び
「・・・とりあえず歩いてみるか」
このままずっとここに居てもしょうがない。そう思ったジールは回復していた体の具合を確かめながら一歩足を踏み出した
サクッという砂の感触が足の裏を通して伝わってくる
「しかし何も見えねぇな。明かりでも付けてみるか」
何にしろ前が全く見えない。自分の足元ですら見えないのだ。歩くにしろ前が見えないと進みにくい
そう思い指先に魔力を灯し光を照らした、が
「あれ?何だこりゃ?」
ジールが指先に込めた魔力は明かりが付いた途端に霧散してしまった
おかしいな・・・不思議に思いもう一度試してみる
「・・・やっぱダメか。どうなってんだ」
だが結果は一緒
魔力を込めたり練ったりする事は出来る。だがそれを体外に放出した途端に始めから無かったかのように霧散してしまう
「特別な空間って事なのか?原始の涙ってので管理してんのか・・・とりあえず色々試してみるか」
魔力自体がダメなのかそれともまた別の制限があるのか。とりあえず、魔法の方から試そうか
ジールはそう思い様々な属性の魔法を打ち出してみる
火、水、風、土、雷、氷、光、闇・・・
さすが歴戦の変態と呼ばれたジール
神龍を討伐するだけあって魔法のバリエーションはかなりのもの。そしてその威力も、だが・・・
「・・・どれも一緒か。魔法はやっぱダメなのか?」
高威力、それも最上級と呼ばれるそれぞれの属性の最高峰の魔法を打ち出してみたが結果は同じだった。放出した瞬間、形どったそれぞれの魔法は跡形もなく消え去ってしまう
だが魔法が使えないわけではない。それを体外に出す事が出来ないのだ
「魔法がダメならとりあえず進んでみるしかないか・・・でも待てよ?放出は出来ないんなら身体強化みたいな体の内部で使う魔法なら使えんのか?」
ブツブツ独り言を言うジール。先程から漆黒の無音の空間にそれは空しく響き渡っている
はっきり言ってボッチだ。寂しいボッチだ。オジサンの寂しい独りぼっちだ
だがそんな事実に気付いていないジールは自分の思いついた事をさっそく試してみる
「ん~・・・お?やっぱりだ、こいつは上手くいったな」
寂しいボッチオジサンは思いついた身体強化の魔法が成功した事にニヤリとほくそ笑む
気持ち悪い事この上ない
「身体強化が出来るならまず全力で走ってみるか。まずはこの特殊な空間の把握が先決だな」
気持ち悪い顔面になっているが真っ暗なのだ。幸いな事に気付くものは誰も居ない
ニヤニヤ笑いながら全力で走り出すジール
だが息は出来るものの水中に居る事には変わりはなく、やはり地上よりは断然走りにくい
だが現状を打開するためにそれを我慢し、しばらく走ってみる
「・・・」
数十キロは走っただろうか
身体強化を施している体でも少し息が上がってきた
何たって走りにくいのだ。水中に加え足元の柔らかい砂に足を取られてしまう
「ハァハァ・・・クソ。全く先が見えねぇな」
走り出した時から全く周りの景色が変わっていない、と言うか真っ暗なまま。余りにも景色が変わらないのでいい加減飽きてきた
むしろ本当に自分が走っていたのか、前に進んでいたかも怪しくなる
そう思うと足が進まず腰に手を当て前に進むのを止めてしまった
「あークソ!何だってんだ!魔法は放出できねぇわ景色は変わらねぇわ腹立つ!」
全力で走った疲れからか若干イライラし始めた。その苛立ちのまま思わず足元の砂を踏みつけた




