41・ピンクコーラルは道標
「え~っと確かそろそろのはずなんだがな・・・」
町の惨状から数時間
距離にして約100キロほど進んだジールの見えている先の海が閉じていた
ジールの魔法の効果もそろそろ切れる頃なのだろう。そしてそれもあるが、その目視できる海底に底が見えない程の大きな穴が開いていた
直径にして1キロほどか、その穴から先はジールの魔法も及ばず、本来の海の姿をしていた
「ヤバいな・・・そろそろ効果が切れるな・・・その前に見つけないと」
ブツブツと独り言を喋りながら何かを探している
おそらく未開の海域に行くにはその大きな穴の中に飛び込まなければならないのだ
しかしジールは直ぐに飛び込まずうろうろと何かを求めているのか海底に目を向けている
「え~・・・おっ!これかな?・・・よし、この刻印は間違いないな。ったく相変わらず分かりにくい・・・前回は確かチョウチンアンコウのチョウチンの部分だったかな」
そう言いながらジールが拾い上げたのは綺麗なピンク色をした珊瑚
その珊瑚の下の方に僅かながら三俣の槍のような刻印がしてあった。そしてそこから微弱な魔力が漏れていた
「よしよし、こいつがなけりゃどんなに潜っても辿り着けないからな」
そう呟きながらその珊瑚に己の魔力と通す
こうすることで珊瑚の刻印とリンクさせているみたいだ
ジールが魔力を通した珊瑚は淡く光り出し、そしてそのまま宙に浮かび目の前の大穴に向かって飛び込んで行った
「おっと、早く着いていかねぇと見失っちまう・・・さて無事に着くかなっと」
珊瑚を道標に、ジールは先が見えない遥か暗く深い大穴にその身を投じていった
そしてジールが大穴に飛び込んだ瞬間、ジールの魔法により大きく割れていた海は轟音を立てながら元の姿に戻っていった
ーーージールが潜り始めて数刻
珊瑚の刻印に引っ張られながらひたすら潜っていく
否、潜っていくではない。引っ張られている
前回はそんな事無かったはずだが、そう思うジール。そして彼の両肩の辺りには三本の筋が入っていた
それをよく見ていればジールの肺と同じ動きをしている様であり、まさに魚のエラの様でもある
これぞまさにジールが開発した『水の中で呼吸出来たら便利だよね』と言う名の魔法であった
長い、名前が長い
しかもこの魔法を開発した主な理由が、漁をし易くなるとか言うのであればまだ良し
だがジールは海底からこっそり海水浴を楽しんでいる美女を下から眺めたい、と言う非常に変態極まる理由だった
しかしその下心を見抜かれたエリーにより、この魔法は封印されてしまった・・・その時のジールの凄惨な状況は伏せておいた方がいいだろう
だが今回に限りこの封印はエリーにより許可されていた
流石のジールもこの魔法無しには辿り着けないからである。むしろ今回がこの魔法の正当な使い方と言っても過言ではない
そしてその魔法を駆使して今まさに深い海底へと潜水して行っているのだが・・・
(やっぱり引っ張られているな・・・これはアイツの仕業か・・・)
やれやれ思い潜水を止め、力を抜き引っ張られていく体に身を任せる
どうせ抵抗しても仕方ないし、今回はその先に目的があるから意味ないのだ
ジールが体の力を抜いた瞬間、グイっと引っ張られていく力が一気に強くなった
「ガボッ!?」
そして一気に深く深く沈んでいく
その勢いと共に一気に水圧がジールの体を押しつぶしそうになる
(グギギギ・・・相変わらずこいつがキツイ・・・まだ着かないのか・・・)
身体中の穴から水圧により強く圧迫され出血してくる
なんとかそれに持ち前の不死身さで抵抗するジール。だが何トンもの水圧がかかってくる為、若干意識も薄れてきた
そろそろ本気でヤバい
そう思った時、常闇に沈んだ深海の先に青く光る魔法陣が見えてきた
(や、やっと着いたか・・・)
何とか意識と保ちつつ、その光る魔法陣に近づいて行った
そしてジールの道標となっていた珊瑚が魔法陣に触れた瞬間、その魔法陣が膨れ上がりジールの体を包み込んだ
(うへぇ~・・・何度体験してもこの感覚は慣れないねぇ・・・)
そのジールの呟きを残し少しずつ光が収束していく
そして光が収まった時そこにはジールの姿は無くなっていた
あるのは静けさを取り戻した暗く深い深海の景色だけだった




