40・濡れ場
「よし、久しぶりだったが何とか上手く出来たな。さてっと時間もないしとっとと行きますかね」
町の住人からしたらかなり非日常的な光景
何たって海が割れているのだ。その幅は人が数人並んで歩いて通れる程で、割れている先は遥か遠くまで目視は出来ない程、そしてしっかり海の底まで綺麗に割れていた
いきなり行き場を失った魚達は海底でピチピチと跳ねている
「ふっふ~ん」
その割れている海の間を呑気に鼻歌を歌いながらジールは歩き始めた
町の人たちに迷惑が掛からないよう、と気遣い港の端の方で魔法を行使したが・・・そんな大規模の魔法を町の人達が気付かないはずがない
「お、おい・・・あれ見ろよ。海が・・・海が割れてるぜ」
「何をバカな事を、真昼間から酔っぱらってんのか?って割れてるーーー!すっごい割れてるーー!!」
「マジかよ・・・天変地異の前触れか」
「あわわわ・・・ばぁさんもうすぐ会えるで」
もう大騒ぎ
それもそのはず、先程ジールが行使した魔法はとんでもない魔力量を消費するもので、一般の魔法士より遥かに魔力量が多い王宮勤めの魔法士ですら数十人がかりで行使するほどの大掛かりな魔法なのだ
それ故、田舎の港町の住人が目にする事などほとんどありえないのだ
それをジールは日常の片手間にでもするようにあっさりと行い、尚且つ何事もなかったの様に普通に割れている海底を歩いているのだ
まるで化け物を見るかのような視線をジールに送る町の人々
しかしその中の一人の老人がふと思い出したように呟く
「ひょっとして・・・あ奴は『不死身のジール』じゃないか?」
その些細な呟きに周りにいた人々は敏感に反応した
「ジール?ジールって一昔前にその名を世界に轟かせていた『変態ジール』の事か?」
「あ、そう言えばさっきこの港町唯一の珍味、生ナマコの生足を大量に買い占めていたような・・・」
「あ~あの人が変態ジールか~。なら海が割れてるのも頷けるな~」
「コラ!見ちゃいけません!変態になるわよ!」
もう言いたい放題
ピクピク
既にジールと町の人達との距離は数百メートルは離れているのだが、どうやらジールには聞こえているみたいでこめかみに青筋を浮かべていた
そしてスッと手に魔力を込めそのまま掌を空へと向けた
掌から放たれた魔力は空へ打ち上げられ町の人達の頭上に魔法陣を形どる
そして・・・
ドッゴォオオオン!
「「「うっぎゃぁあああああ!!!」」」
すると空から大量の水柱が群集の中に盛大な音を立て勢いよく落ちて行った
雨などと生易しいモノではなく下手すれば首の骨が折れるぐらいの威力。だがそこはジール、上手い具合に際どい所で威力を調整したようだ
水が引いて行った後もピクピクと打ち上げられた魚の様に動いている住人達には目立った怪我は無いようだった
勿論水柱が落ちて行った中に美しいマダム達が含まれていないのは当たり前である
男の、オッサン達の悲鳴を聞いていたジールはニヤリと悪魔のような笑みを浮かべご機嫌に歩いていた
「おっやぁ?こんなに天気がいいのにいきなりスコールが降るなんて・・・いやはや、世の中何があるか分からないねぇ」
「・・・末恐ろしい奴じゃ」
辛うじて水柱から逃れた老人はその惨状を見てブルっと身を震わせていたのである




