4・これがレディーの交渉術
ズザァーと膝が擦れ剥けそうな勢いで正座をしながらリンの前で首を垂れるジール
その情けない父の姿を見たリンはニヤリと再び小悪魔の笑みを浮かべる
そして何かを閃いたようにジールへと口を開く
「ほうしよっかなぁ~、もわぁ、はまっへはへへもひひへほへ~(どうしよっかな~、まぁ、黙ってあげててもいいけどね~)」
が、その企みをジールに伝えようにも既に頬っぺたいっぱいに膨らんだレイカー特製のアップルタルトのせいで何を言っているのか分からない。その頬っぺたは宛ら小動物のようだ
コイツ!いつの間に!?
ジールが部屋に飛び込んでくる前はまだその頬っぺたは膨らむどころかタルトを手にすらしていなかったというのに・・・
残像を残すほどのスピードで飛び込んできたジール、だがリンの食欲に対すスピードはそれをも遥かに凌駕するらしい
「っん、ぷはぁ~。レイカーさん、また腕をあげたね!?」
口の周りにリンゴのソースをべったりと付けながら一息にタルトを飲み込むリン。そして満足したかのように一息ふぅっと息を吐きだした
「ふふ、ありがとリンちゃん。ほらそんなに急いで食べると喉に詰まっちゃうわよ?」
リンにタルトの出来を褒められたレイカーは嬉しそうに、だがそれを微塵も感じさせないようにいい香りがする紅茶をそっとリンの前に置く出来る女レイカー。やはりこれも大人の余裕の表れだろう
「レイカーさん、ありがと。う~んそうだなぁ~、レイカーさんの事を襲おうとしたんだもんなぁ~。これは高くつきますよねぇ」
レイカーから出された紅茶をコクンと飲みながら足を組みジールを見下ろすリン。彼女がタルトを頬張っている間、床に頭を擦り付けたままジールはピクリとも動かない
対するリンはレイカーを真似ているのか、優雅に紅茶を啜っている。その仕草はつい先月10歳を迎えたばかりとは思えないほど大人びていた
「あの・・・リンさん?その・・・決してレイカーさんを襲おうとした訳ではなくてですね・・・あのつまり、くれぐれも内緒にして頂けたらと・・・」
「パパ?」
「ひっ!?は、はい!何でしょうか!?」
ダラダラと尋常じゃないほどの汗を流しながらリンの顔色を伺うジール
余程告げ口をされたら何か恐ろしい事が控えているのであろう
「ふっふ~ん。内緒にしててあげてもいいけど条件次第かなぁ~」
リンは足を組みながら余裕を感じさせる態度を取りチラリをジールを一瞥した後、再び紅茶に口を運ぶ。だがその言葉にピクリと反応したジール。地面に擦り付けていた頭をゆっくりと持ち上げリンに懇願するような視線を送った
「そ、その条件とは!?」
もしかしたら無傷で済むかもしれないと思い、身を乗り出しリンに迫る
そしてゴクリと唾を飲み込み目の前のレディから発せられる言葉を待つ
「その条件はね・・・
ここにあるタルトは全部私のもの!パパはタルト食べちゃダメぇ!」
「ぐ、ぐっはぁ~!」
レイカー特製のタルトを独り占めしたいレディこと、腹ペコリンちゃんの欲望全開であった




