39・パッカーン
「それでよぉコリコリオヤジコリコリ、コリコリ今何かコリコリ町でコリコリあったのかいコリコリ?」
口いっぱいに生ナマコの生足を頬張り、半分以上何を言っているか分からない
だが店主も慣れているのか、そんなジールのコリコリを聞き流して質問に答える
「あぁ、実はだな・・・」
「ふんふんコリコリ」
生ナマコの生足を捌いていた手を止め腕を組み視線を空に投げる。そして少し間を置き勿体ぶるかのように言葉を溜める店主
ジールに至ってはコリコリと緊張感の欠片もない。そんなジールの事は気にせず店主は続ける
「実はな・・・
とうとう勇者様が聖剣ってのを手に入れて魔王城に突入するらしいぞ」
ピタッ
それを聞いたコリコリしていたジールのお口が止まった
しかしそのジールに気付く事なく店主はさらに言葉を続ける
「それでなぁ、しかも旅の途中に寄った村とか町の周辺の魔物を全部退治してくれてるみたいだぜ?まぁ俺たち住人にとってはありがたい話だよなぁ・・・っておい!?」
話しながら店主が再びジールに目を向けるころには既にジールは屋台からかなり離れた位置まで歩き出していた
まるで先程の店主の話が耳に入っていなかったかの様に
「何なんだよ全く・・・自分から聞いてきたくせに」
店主はそんなジールを見てブツブツと文句を漏らした
「ちっ」
その場を立ち去ったジールはその足で漁船が並んでいる港の方まで歩いていた
そして波止場の方へ行き舌打ちをしながら先程買い占めた生ナマコの生足を魚たちにばら撒いていた
「胸糞悪い」
買い占めたそれを空間収納に入れていた物を含め全て海へとばら撒いたジールは、不機嫌さを全開に出し再び歩き始めた
せっかく買い占めた珍味を全て魚の餌にするところから、よっぽど先程の店主の言葉が気に入らなかったのだろう
「ったく・・・まぁ考えても仕方ねぇか。とりあえず俺の目的は人魚姫の涙だしな。とりあえず・・・迷惑かからないように港の端っこまで行くか」
イライラはしているが今回はそれよりも、そう思うジールは気持ちを切り替え人気のない港の端まで歩いて行った
周りに人が居ると巻き込む恐れがある、ジールはそう思ったからだ
そしてそう思う理由が『未開の海域へ行く方法』であった
人魚姫の涙を手に入れる為には、この最寄りの港町からさらに約100キロほど離れた沖合の青く輝く海域を目指し、さらにそこからひたすら深海に向かって進んで行かなければならない
その深さは世の中には公表されておらず・・・とは言ってもそこに辿り着ける人間が世界に何人もいないため、具体的な深さを測ったものがいないのだ
シールが言うには
「何かアレだよ、周りに魚が居なくなってきて体が水圧で潰れそうになってきたら・・・ほらそこが目的地だ」
だそうだ
・・・全くもって当てにならない情報である
それはさて置き
「さぁてっと、この辺りでいいかな」
ふと歩みを止め遥か水平線の方に視線を向けるジール
そしてそのまま体に膨大な魔力を溜め始めた
未開の海域へ行く為にはその前に青く輝く海域を介さなければならず、その周辺には船ではとても辿り着けないような大渦が侵入者を拒むように渦巻いていた
船で近づけば呆気なく海の藻屑となってしまうだろう
ならばどうするか?
沈む覚悟をもって船で進むか、それか
「よし、少し気合を入れるか。ぬ~・・・おらぁあああああ!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴ
「ふぅ・・・よし、こんなもんか」
ジールの様に最高難度を誇る魔力量と魔法陣をもって、海を大きく縦に割って歩いて渡るしか方法が無いのだ




