21・刮目せよ!これが私の先生
「まぁ肉は美味かったけどね。そんでそれは何か綺麗だったから貰っておいたのさね。あんたの親父は最後まで文句垂れていたけどね」
「え?パパ?何でそこでパパが出てくるの?」
突き返されている神鱗を胸でぼんよぼんよ受け止めているシャルの口から自分の父親の名前が出てきたことが不思議そうに尋ねる
「それはアレさね。さすがにアタシだけじゃ手に負えないからあんたの親父に手伝ってもらったのさ。それでその煎餅みたいな鱗はどうするのさ?いらないのかい?」
「せ、煎餅って・・・シャルばあちゃん、やっぱり受け取れないよ。パパが出てきたのは気になるけど・・・これは返すね」
いつまでも突き返された神鱗を受け取らないシャルに、リンは無理やり目の前の胸の中へそれを押し込もうとした
だがぼんよぼんよ揺れながらそれをはじき返す妙齢のデカメロンに苦戦している
それを鬱陶しそうに思ったシャルはどっこいしょとその場に座り込みようやくそれを受け取った
「何を断ることがあるのさ。アタシはこの歳になったら旨いものにしか興味がないのさ。こんな噛んでも噛み切れないような硬い煎餅なんていらないよ」
「いやだから煎餅じゃないから、神鱗だからね。鱗だよ、う・ろ・こ!分かる?間違っても温かいお茶に合いそうな食べ物じゃないから」
シャルの胸と戦っていたリンは額に汗を浮かべ肩で息をしながらビシッと突っ込む
だがそれを聞き、あぁなるほどとポンと手を付きながらシャルは言う
「やるじゃないかねリン、そうだったのさね。これはそのままかじるんじゃなくて一回炙った方が良かった訳かね」
「・・・いや、そういう意味じゃ」
もうダメだこりゃとリンは天を仰ぎ額の汗を拭った
そんなリンを気にすることなくシャルは神鱗を地面に置き一言
「じゃあ少し炙ってみるとするかね」
そう言いながら手に持っていた斧を後ろに投げると座ったまま手を合わせゆっくりとブツブツと呟き始めた
それを見たリンは伝説級の素材のせんべ・・・神鱗を本当に食べられては堪らないと思い慌ててシャルに詰め寄った
「わーわー!シャルばぁちゃん!分かった!分かったから!それ貰います!というか下さい!お願いします!私、それ欲しいなぁ!」
食べられるぐらいなら貰った方がいいと思い声を張り上げる
だがリンの必死の叫びも間に合わず一瞬先にシャルの詠唱が完成してしまった
「・・・よし、えーっと何だったかね?あ、そうそう炎の化身ヴォルカヌス!」
シャルがそう唱えた途端、地面に描かれた魔法陣が赤く光りゴウッと炎を巻き上げ始めた
そしてそれが収まる頃そこに現れていたのは・・・
小さい火を纏った小人だった
小さく見えて実際は強いとかいう圧迫感や存在感も感じられず
ただの小さい火の小人だった
「あっはっは!ダメだったかい!アタシは魔法の方はからきし何だっけか!ほら、もう一回やってみるかね」
「・・・」
唖然と立ち尽くすリンを前に一人で笑いながら再び詠唱を始めるシャル
リンにとっては魔法の先生のはず・・・確かにシャルのお陰で新しい魔法をいくつか覚えたのも事実。教え方も上手く魔法を使うための知識や効率化など、そこらに居る魔法使いよりは遥かに優れているはずだし先生としてはかなり優秀だと感じる
そう言えばとリンは思う、シャルばあちゃんが魔法使うのは初めて見た、と




