18・理不尽毛根
「いやな、今日お前さんから貰ったスポン草が切れちまってな。またお主に頼もうにも今日はもう遅くなってしまうからの、だからとりあえず今日の夜の分は直接自分で取りに行こうかと思っての」
「切れちまったって爺さん・・・ありゃあ常人の一ヶ月分はあったぞ」
既に還暦は軽く超えているはずのダノン爺、その計り知れない強さのフィジカルに驚きを隠せない
「ふぁっふぁっふぁっ!ワシをそんじょそこらの爺と一緒にするでない!」
「いや、ジジイでも若者でもその活発力は常軌を逸しているぜ・・・」
呆れた声でそう呟き、さっさとその場を立ち去りレイカーのとこへ向かおうとするジールだが、その背中に黒光りジジイが再び声を掛ける
「時にジールよ、話は変わるが・・・最近世の中では勇者と名乗る輩が出没しているみたいじゃな」
「・・・」
その言葉を聞いたジールはピタッと歩みを止める
そしてそのまま背中を向けたままゆっくりと返事をした
「あぁ、よく『僕たちが皆さんをお守りします!』なんてケツの毛が全部抜け落ちるような臭いセリフを吐きながら旅をしているバカどもの事か?」
『勇者』
その単語を聞いただけでジールの背中は明らかな嫌悪感を示していた
「何じゃジールよ。お主、何か勇者とやらに恨みでもあるのか?」
その態度に疑問を持ったダノンはそう尋ねる
「チッ!じゃあ聞くがよジジイ、お前は何で狩りをするんだ?」
くるっとダノンの方に振り返ったジールは眉間に皺を寄せたままふんっと鼻を鳴らし不機嫌そうに問いかける
それに対しダノンは何故ここまでジールの機嫌が悪いのか首を傾げながら答えた
「ん?そんなの分かり切った事ではないか。ワシらが生きていく糧にする為じゃよ」
「そうだろ。俺たちはそうなんだよ。だがなジジイよ、その勇者と名乗る奴らは狩りをする理由として何を掲げているか知っているか?」
「そうじゃの・・・大方、人間にとって害悪とか敵対するからとかそう言った理由じゃないかの」
ふむと少し考え込んだ後、ふっさりとした自分の顎髭を触りながらそう答えた
ちなみにふっさりとした顎髭の代わりに頭頂部はその肉体同様、見事なほど光り輝いている
「よく分かってんじゃねぇか。そうだよ、あいつらは別に生きていくために必要って訳でも無く、ただ単純にそれが自分たちの正義だと信じて人間以外の生き物を狩ってるだけだ」
そのもっさりとした髭を鬱陶しそうに見ながらジールは言葉を吐き出す
しかしそれを聞きダノンは眉をひそめた
「じゃがのジール、それで実際に助かった人たちも居ることも事実じゃて。そんな無下に勇者の全てを否定するのも頂けんと思うがの?」
そう言いながら再びそのもっさり顎髭をなでなでしながらダノンは答える・・・が、その言葉を聞いた途端ジールはあっという間にその間合いを詰めその顎髭に掴みかかった
「じゃあ聞くけどなジジイ!勇者どもが狩った野獣やモンスターと呼ばれる奴等の生き残りがその後何をするのか知ってるのか!?あいつらはな!殺された仲間たちの仇討とばかりに人間を襲うんだよ!平穏に暮らしていただけなのに自分たちの仲間の命や居場所を奪われた事に対しての怒りに身を任せてな!」
「・・・」
一気に言葉を捲し立てるジール
それにあまりの剣幕に何も言えなくなくダノンだが、ジールは顎髭を掴んだまま尚も言葉を続ける
「そうやってまた襲われた人間どもが狩りをする、その繰り返しなんだよ!結局その土地から人間しか居なくなった頃にようやく戦いが終わる・・・人間にとっては平穏な日常が戻ってきたことになるかもしれねぇが狩られたほうは溜まったもんじゃなぇよな。ただ、そこで暮らしていただけ。そのどこに日常を壊される理由があんだよ・・・俺だってあいつに・・・エリーに会わなければ・・・」
ふと何かを思い出し顔を沈めるジール
顎髭を掴んでいる手の力も少しずつ緩んでいった




