10・気品とは
「グルっ!?」
確かに銀狼の牙はその首筋に大きく喰い込んでいる
しかし血飛沫をあげるどころかジールの首から流れるのは僅かばかりの血が滴っているだけ
「え~っと、アレは持ったしアレも持った・・・あ、蒸してる間にスポン草を少し多めに採っておくか」
当のジールは首筋にブラブラと銀狼をぶら下げながら黙々と作業をしている。何ともシュールな光景・・・
「グル・・・」
まるで相手にされていない銀狼は埒が明かないと思ったのか一度牙を離し、大きく距離をとる
「ん~いい匂いだ。だいぶいい感じに仕上がってきたな」
喰らい付かれていた首をスリスリと撫で、えのき茸から漂ってくる香りに鼻息を鳴らす
そして首から手を離した時にはもうすっかり牙の跡は消えていた
「・・・っ!?」
それを見ていた銀狼は驚きに目を見開きしばらく身動きが取れないでいた・・・が少しの思考の後
スゥっと大きく魔力を溜め息を吸い始めた
「お?」
その銀狼の様子にジールはようやく少し警戒する
「おいおい・・・もしかして」
ジールが銀狼を見ている間、己の最大限の魔力を溜め続ける銀狼の喉は蒼く光り輝き始めた
そして・・・数秒
それは放たれた
「グルワァアアアアア!!」
魔力を極限まで溜めこみ一気に吐き出される蒼い炎
それはまさに蒼い炎の鳥と形容しても不思議でない程美しい炎
周辺の木々達はその炎が近くを通っただけで蒸発していく
その様子に少し眉をしかめるジール
そしてその直後
ゴバァアアア
青の炎がジールを飲み込んだ
「ガフッガフッ・・・グル」
炎を吐き出した後、魔力の殆どを使い果たした銀狼は苦しそうに一息咽る。しかし目の前の光景を見た後は満足そうに頷いた
蒸発しきった木々、超高温により所々溶岩と化している地面
しばらくその周辺には何も生命は宿らないであろうと思われるほどの光景
先ほどまであった生命溢れる深緑の光景は紅く染まる死の大地へと変化していた
「・・・」
そしてまだ煙に包まれているその光景を一瞥した後、納得したようにその場を立ち去ろうとする銀狼
・・・が
「おい」
「!?」
白煙の中から声が聞こえた
いきなり向けられた膨大な殺気
その強大さに慌てて後ろを振り向く銀狼
馬鹿な、と銀狼は思考を巡らす
あの炎に耐えられるはずがない、と
しかし銀狼の思考を他所に、徐々に煙が晴れてきた時にその声の主は姿を現した
・・・素っ裸で




