神様を探す旅
夢で見た内容をAIに書いてもらった。
厳しい冬の凍てつく寒さがようやく和らぎ、春の兆しが見え始めた頃。少女の名前はリゼ。石畳のひび割れた教会の孤児院で、彼女は両親の顔を知らずに育った。神聖なはずの孤児院は、その実、闇の帳に覆われた場所だった。身請けと称しては、幼い命が競売にかけられる。器用な者、体格の良い者、そして容姿の優れた者だけが優遇され、そのほかは放っておかれていた。リゼもその一人である。
彼女の食事は常に不足し、僅かなパン切れさえ、優秀な子供たちに奪われるのが常だった。理由は、彼女が何の取り柄もないと見なされたからだ。優秀な子供たちからの罵倒と暴力は日常の一部で、痣と傷が絶えることはなかった。リゼは孤児院にいるとき、いつも空腹と痛みに耐え、そして何よりも孤独を感じていた。それでも、彼女は生きることを諦めなかった。
その日、リゼはいつもに増して子供たちにいじめられていた。何とか孤児院を逃げ出し、行く当てもなくひたすら歩いていた。空腹が、そして体中に残る暴行の痕が、鉛のように彼女を重くした。どれくらい時間が経っただろうか。ふと顔を上げると、目の前に息をのむような美しい景色が広がっていた。荒んだ心が、微かに持ち上がるのを感じる。
その景色に呆然と見とれていると、突然、怒声が耳に飛び込んできた。景色に夢中で気づかなかったが、その先には信じられないほど大きな、立派な屋敷がそびえ立っていた。今まで見たどんな建物よりも壮麗だ。興味に惹かれて目を凝らすと、そこには品のない、いかにも粗暴な男が、優しげな目をした老婆に怒鳴りつけている姿があった。
リゼの頭に、ある考えがよぎった。今なら、この屋敷に忍び込めるのではないか。こんなに大きな屋敷なら、きっとおいしい食べ物がたくさんあるに違いない。どこか入れる場所はないか、と屋敷の周りを回ってみる。そして、彼女の目に留まったのは、建物の陰に隠れた、人目につかない小さな穴だった。少女一人ならギリギリ通れそうな大きさだ。
小さな罪悪感が胸をよぎる。それでも、空腹と、温かい食べ物への渇望が勝った。リゼは意を決し、その穴へと身を滑り込ませた。
薄暗い通路をしばらく進むと、ひんやりとした空気が肌を撫で、埃っぽい匂いが鼻をくすぐる。やがて、わずかな光が差し込む場所に出た。
屋敷に忍び込んだリゼは、その途方もない広さ、部屋の数に途方に暮れた。食糧庫も厨房も、どこにあるのか見当もつかない。ようやく持ち直した気力は底をつき、空腹の限界に達した彼女は、その場に座り込んでしまった。
目を閉じていると、どこからか足音が聞こえてくる。きっと、先ほどの言い争っていた男か、それとも老婆だろう。罵倒され、殴られ、追い出される。そう覚悟して身構えていると、「あなたはだあれ?」と優しい声が降ってきた。
リゼが恐る恐る顔を上げると、そこにいたのは、先ほど地上げ屋の男に怒鳴られていた老婆だった。彼女は穏やかで優しいまなざしでリゼを見つめている。何を言い訳すればいいのか。疲労と空腹で、リゼの頭は全く回らない。ただ、おろおろと老婆を見つめるだけだった。
そんなリゼの様子を見て、老婆はふわりと微笑んだ。「ごはん、食べる?」老婆はそう言うと、リゼの小さな手をそっと引いた。温かい手のひらに、リゼは思わず涙がにじんだ。老婆に連れられて辿り着いたのは、暖炉の火が温かく灯る食堂だった。目の前に置かれた食事は、リゼにとって生まれて初めて見るほど豪華なものだった。湯気を立てるスープ。焼きたてのパン。それだけではない。薄くスライスされたハムに、鮮やかな黄色のチーズ、そして艶やかな赤いリンゴ。孤児院で分け与えられたわずかなパン切れと、かろうじて口にできるほどのシチューとは比べ物にならない。リゼは夢中で食事を口に運んだ。一口ごとに、冷え切っていた体が温まっていくのを感じる。味蕾が、これまでの人生で感じたことのない喜びに震える。
リゼが食事を貪る間も、老婆は穏やかな声で語りかけていた。
「あなたはどこから来たの? お名前はなんていうの?」
そして、ふと、老婆はにこやかに言った。「私の名前はアンネリーゼよ。そう、アンネリーゼ。あなたはなんていうのかしら?」
リゼは、咀嚼を止め、つぶやくように自分の名前を口にした。「リゼ……」
アンネリーゼは、優しく目元を緩めた。「あら、リゼちゃん。私たち、名前が似ているわね」
アンネリーゼは、リゼに尋ねる。「どこから来たの? 迷子になってしまったのかしら?」そして、質問の合間には、いつものように神様の話を挟む。「神様はね、いつも私たちを見守ってくださっているのよ。この美しい景色も、この温かい食事も、神様からの恵みなの」
リゼは、神様という言葉を聞くたびに、心の中で冷たい嘲笑を浮かべた。神がいるなら、なぜ自分はこんな目に遭ってきたのか。なぜ、飢えと暴力に喘がなければならなかったのか。神の存在など、信じるに値しない。アンネリーゼの話は、ただの耳障りな雑音として、リゼの意識を通り過ぎていく。彼女はただ、目の前の食事が奪われないよう、ひたすら頬張ることに集中した。アンネリーゼは、リゼの無言の反応や、食事への集中を気にする様子もなく、神様の話を続けた。その声は、まるで自分自身に語りかけるかのように、穏やかに、しかし揺るぎなく響いていた。
リゼが食事を終えると、彼女は深々と頭を下げた。「ごちそうさまでした。ありがとうございました」
アンネリーゼは優しく微笑み、リゼを玄関まで案内した。別れ際、アンネリーゼはリゼの手をそっと握り、「また、あなたとお話しがしたいわ。お腹が減ったらいつでもいらっしゃい」と言った。その言葉に、リゼの心の奥深くに、温かい何かがじんわりと広がった。
その日から、リゼは頻繁に屋敷へ通うようになった。孤児院にいても、暴力と罵倒に晒されるばかりで、いいことなど何もない。神など信じてはいないけれど、あの屋敷に行けば、お腹いっぱい美味しいものを食べられる。アンネリーゼの神様の話は聞き流しながらも、リゼは屋敷での時間を心待ちにするようになった。
そんな日々が続く中、ある日、アンネリーゼがリゼに語りかけた。「私ね、昔のことが思い出せないの。自分がどうしてここにいるのか、いつからここにいるのかも、よく分からないのよ。親しい知り合いもいなくて、こうして話す相手もいないものだから、あなたが来てくれると、本当に嬉しいわ」
アンネリーゼの表情は、どこか寂しげだった。リゼは、周りに誰も人がいないこと、そして自分のことすら思い出せないことが、どれほど怖く、寂しいことなのか、想像してみた。それは、自分が孤児院で感じてきた孤独とは、また違った種類の深い孤独だろう。神は信じられない。しかし、この優しくて寂しいアンネリーゼのことなら、信じてもいいのかもしれない。リゼの心の中で、これまで頑なに閉ざされていた扉が、少しずつ開き始めていた。
それからもリゼは屋敷へ通い続けた。お腹いっぱいの温かい食事のおかげで、やつれていたリゼの体も少しずつ健康を取り戻していく。そして、アンネリーゼとの距離も、少しずつ、確かに近づいていた。
季節は巡り、春の柔らかい日差しが降り注ぐようになった頃、アンネリーゼがリゼに「たまには屋敷の外でピクニックをしないかい?」と提案した。リゼはピクニックがどういうものかは分からなかったが、アンネリーゼの提案を了承する。ピクニックに行けることを、アンネリーゼは心底喜んだ。その喜びようを見ていると、リゼまで嬉しくなるような気がした。
二人はピクニックの買い出しに出かけることになった。手をつなぎ、他愛のない会話をしながら街を歩く。通り過ぎる人々の話し声、パン屋から漂う香ばしい匂い、露店の賑やかな声。ただそれだけのことが、二人にとってかけがえのない幸せな時間だった。
買い出しもあらかた終わり、町の中央にある噴水で二人はひと休みしていた。ふと、アンネリーゼが「あら、リンゴを買い忘れちゃったわね」とつぶやいた。リゼは「私に任せて!」と元気よく店へ走り出す。だが、リゼはお金など持っていないし、その使い方も知らない。以前、空腹に耐えかねて、こっそりパンを盗んだことがあった。
店主は他の客の接客に忙しく、リゼに気づいていない。今なら、とリゼの小さな手がリンゴに伸びた、その瞬間。後ろから追いかけてきたアンネリーゼが、そっとその手を止めた。「あなたはきっと、私のためにやってくれたのね。ありがとう」。アンネリーゼは優しくリゼの行動を咎めた。しかし、その声には一切の咎め立てはなく、ただ温かい理解がにじんでいた。
アンネリーゼは店主に深く頭を下げて謝罪し、リンゴを少し多めに買った。屋敷へと帰る道すがら、リゼはばつが悪そうに「ごめんなさい」と謝った。アンネリーゼはにこやかにリゼの頭を撫で、「神様はきっと許してくださるわ」と優しく微笑んだ。リゼは、自分を撫でるその手が、ひどく温かく、かけがえのない大切なものだと感じた。
その後、二人は屋敷に戻り、暖かな日差しと、鳥のさえずり、そして眼下に広がる素晴らしい景色の中で、ささやかなピクニックを楽しんだ。
「やはり、外は気持ちがいいわね」とアンネリーゼは目を細めた。「私、神様に会うために、旅をしたいと何度も思ったのだけれど、記憶もないし、体も一人旅に耐えられるほど元気じゃない。でも、あなたと買い物に出かけてピクニックをする。小さな旅みたいで、とても楽しいわ」。
数日後の日曜日、リゼはいつも通り孤児院の他の子供たちと一緒に礼拝堂に集まった。神父の話す聖書の朗読を聞く時間は、最低限の教養と信仰心を与えるためでもあるが、実情は子供たちを買おうとする人間への展示場に過ぎなかった。孤児院では、子供が急に姿を消すことがあった。どこかで野垂れ死んだのか、誰かに買われたのか。誰がいなくなっても、教会の大人たちは気にしない。子供たちもまた、自分の優秀さを見せて、より良い人間に買われようと必死だった。何の取り柄もないリゼには関係ないことだと思っていた。
今日もお客様が来ているらしい。気まぐれにぼーっと眺めていると、一人の男と目が合った。こちらに笑いかけてきた気がしたが、きっと気のせいだろう。アンネリーゼ以外に、自分に興味を持つ人間などいないのだから。
それから何日か過ぎ、リゼはいつも通り屋敷へ向かう。今日は何をしよう、どんな話をしようか。胸が弾む。
屋敷の前に着くと、何人かの人影が見えた。リゼは物陰に隠れて聞き耳を立てる。どうやら以前から嫌がらせをしている地上げ屋とその仲間らしい。あまりにもアンネリーゼが立ち退きを拒否するため、かなり婉曲した言い回しではあるが、アンネリーゼに危害を加えることを告げている。目撃者さえいなければどうにでもなると話しながら男たちは帰っていった。
リゼは急いでアンネリーゼにこのことを伝えた。しかし、アンネリーゼは悲しそうに首を横に振った。「私には頼れる知人もいないし、ここ以外に住むところもないの。だから、ここから離れることはできないわ」。リゼはどうにかできないかと考えながら孤児院に帰った。
部屋に戻ろうとすると、神父に声をかけられた。神父から声をかけられることなど初めてのことで、リゼは驚いて立ち止まる。神父は気にも留めずこう言った。「お前の身請け先が決まったぞ。まさかお前なんかがもらえるとはな。どこで餌付けされているか知らんが、近ごろずいぶん調子がよさそうだったからな」。リゼはきっと、この前の礼拝の時に目が合った男だと感じた。
神父は続けて言う。「お前にとっては幸運なことに、身請け人は善人だ。妻との間に子供ができないから養子としてお前をご所望だ」。リゼにはもう神父の言葉など聞こえていなかった。
私が買われた。屋敷は燃やされるかもしれない。アンネリーゼとはもう会えなくなる……? アンネリーゼの住むところは……?
神父が言う。「一週間後にお客様がいらっしゃる。身なりを整えておけよ」。
リゼの身請け前日。彼女は決めた。アンネリーゼと話すために屋敷へ向かう。また、怒声が聞こえてくる。地上げ屋の男たちだ。どうやら今回は本気らしい。かなり湾曲した言い回しで言質を取られないようにしているが、アンネリーゼに害を及ぼすことを告げている。
リゼは男たちを無視してアンネリーゼに話しかけた。「私と二人で、神様を探そう。神様に会いに行く旅をしよう」
地上げ屋は、リゼの言葉を聞いて嘲笑う。「それはいい。神様にきっと会えるぞ。ここにいたら生きて神様に会えるとは思えないからな」。
アンネリーゼは、リゼの真剣な眼差しを見て、一瞬ためらった。記憶もなく、体も万全ではない。しかし、リゼの言葉には、これまで彼女が語ってきた神様への信仰にも似た、強い決意が込められているように感じられた。そして、何よりも、リゼと共に旅をするという提案は、アンネリーゼの心を強く揺さぶった。アンネリーゼは深く考えた後、ゆっくりと頷いた。「ええ、そうね。私たち二人で、神様を探す旅に出ましょう」。その決意に、リゼの顔に安堵の表情が浮かんだ。
それから二人は食料を買い込み、荷物をまとめてその夜、屋敷を後にした。旅を続けていく中で、様々な冒険が待っていた。「なんだか、前にこんなことがあった気がするわ」とアンネリーゼは呟いた。旅を通じて、景色や人との出会いが刺激となり、彼女はわずかながら記憶の断片を取り戻していく。
旅の道中、二人は様々な困難に直面した。急な天候の変化、険しい山道、そして見知らぬ人々の警戒心。アンネリーゼの足取りは、時折不安定になり、息が上がることが増えた。それでもリゼは、アンネリーゼの細い手を決して離さなかった。彼女は、アンネリーゼを守りたいという一心で、どんな困難にも立ち向かっていった。アンネリーゼもまた、リゼの存在が大きな支えとなっていた。リゼの瞳に宿る力強い光と、健気な行動は、アンネリーゼの心の奥底に眠っていた記憶の扉を少しずつ開いていく。
ある日、二人は森の奥深くで、古びた礼拝堂を見つけた。苔むした石段を上り、ひんやりとした扉を開けると、そこには埃をかぶった祭壇と、色あせたフレスコ画があった。「ここは…」
旅を続けていく中で、アンネリーゼは少しずつ、しかし確実に老いていった。彼女の指の皺は深くなり、背中はわずかに丸みを帯び、朝起きるたびに体が軋むような音がした。歩く速度も遅くなり、休憩の回数が増えた。それでも、その瞳の輝きは失われることはなかった。リゼは、そんなアンネリーゼを懸命に支え続けた。水汲みや薪拾い、そしてアンネリーゼが疲れた時には肩を貸し、小さな背中で支えた。
そしてある日のこと、二人はついに、険しい山道の先に立つ、荘厳な神殿を見つけた。長い年月を経て風化した石造りの神殿は、まさに神の住まう場所のようだった。アンネリーゼは、その神殿を目にした瞬間、自分が少女だったころの記憶を取り戻した。そう、自分こそが、かつて孤児院にいた「リゼ」という名の少女であり、その少女が成長してアンネリーゼになったのだと。アンネリーゼは深く確信した。リゼの手をそっと握り、優しい眼差しで言った。「リゼ、神様は確かにいたわ。私と、あなたの中に」。リゼは、アンネリーゼの言葉の真意をまだ理解できていないようだった。彼女は神の存在を理解できないまま、ただアンネリーゼの温かい手に包まれていた。
すべての記憶を取り戻した。遠い昔の出来事、失われたはずの家族の顔、そして、自分があの屋敷にたどり着いた経緯。すべての点が繋がり、彼女の中で確固たる真実となった。
その夜、神殿の傍らで、二人は満天の星空を眺めながら眠りについた。アンネリーゼは、リゼの頭を優しく撫でながら、静かに語り始めた。「リゼ、あなたと出会うことはきっと運命だったわ。あなたと過ごした日々はとても幸せだった。ありがとう」。
リゼは、アンネリーゼの死が近づいているのを察し、震える声で懇願した。「一人にしないで…お願い…」。
アンネリーゼは、かすかに微笑み、リゼの頬に手を添えた。「あなたはきっと幸せになれるわ。私みたいにね。神様がそうしてくれる。だから、笑っていて」。そう言い残し、彼女は静かに、そして永遠の眠りについた。
翌朝、リゼは一人旅に出た。アンネリーゼが教えてくれた「神様」とは何なのか、その答えを、これからも探し続けるために。