窓ガラスで校舎を壊して回った
夜の校舎でコソコソと窓ガラス壊して回るなんて、男のやる事じゃねえ。
私、女だけどね。
「そろそろ、朝練の連中が来るんじゃけどー」
だからと言ってだ。早朝に破壊行為に及ぶスケバンってどうなの? うーん、健康的。
空は透き通るように青く、雲は眩しい程に白い。
窓を開けると、心地よい風が吹き抜け、私達の髪を揺らす。
窓から見える校庭には、陸上部や野球部の姿はまだない。
これから校舎の窓をぶち割ろうって風情ではないわねー。
「他の生徒を巻き込むのは良くないと思うんじゃけどー」
だから、朝練の連中が来ない早朝にやれと。
バディがそう言うからには逆らえない。この世界に置き去りにして帰られたら困る。
異世界転移の魔法は、私のバディである魔法幼女にしか使えないのだから。
ガチャコン
無人の校舎に、機械的な冷たい音が響く。
私の右腕のセイフティを解除する音だ。
サイボーグである私の右腕はサブマシン。
科学の子である私は、石ころを投げつけるなんて原始的な手段は使わない。
毎秒10発で射出される鉛の玉で、校舎の窓ガラスを一瞬で粉々にして見せる!
ズドドドドドド!!
ガシャーン! ガシャン! バラバラバラー
「サイボーグ戦士になって、まずやる事がこれなのー?」
結構楽しいよ? あんたもやってみれば。魔法で隕石落としとか出来るんでしょ? 学校の腐ったミカンだけじゃなく、人類まるごと滅びそうだけど。
私は、異世界転生によって、この世界を卒業し、サイボーグ戦士になって戻って来た、スケバン悪魔だ。何の因果か、今じゃ女神の手先。私のバディは、異世界で出会った女神なのだ。見た目、貧相な幼女なんだけどね。6歳くらいの。
カチンッ
「え? もう弾切れなの?」
私のサイボーグボディは科学と魔法のハイブリッドなので、弾倉は圧縮空間になっているのだけど。それでもフルオートで撃つと、たったの40秒しか保たない。だって、私もバディと同じ6歳幼女の小さいカラダなので。どこにどう詰めたら400発の弾丸が装填されるのか、とても不思議。
この学校には嫌な思いしかない。髪の長さから、靴下の長さまで、果てはパンツの色まで校則で縛り付け、尊敬に値しない教師に絶対服従。真冬でも生足でいろとか、日本国憲法は仕事しろ。
そのくせ、卒業資格というパスポート以外に何も得るものは無い。科学と数学は好きだけども、学校でやっている事なんて、5分で理解出来る。授業で学んだ英語は、開拓初期のアメリカ大陸に転生した時は通じなかった。お陰で、何人射殺するハメになったか。
「学校は、情緒を形成する場所なんじゃよ」
バディは知った風な事を言う。コイツも日本からの転生者。将来は芥川賞作家になるので! などと妄想し、何も勉強しないまま世の中に出たパーだ。
「奴隷を調教する施設の間違いでしょ?」
私の事を、欺き騙し痛めつけた損ねた学校。学校そのものには罪は無いのだろうけど。まだまだ壊し足りない。将来の王妃たる私を、雑魚だと決めつけて押さえつけた学校。許されるものではない。
「転生して歴史に残る悪役王妃になったようじゃけどもー」
パンが無ければ、その辺の草でも食ってろ。そう言っただけで、後の歴史では極悪人扱いだ。この世界のニンゲン共は視野が狭い。
「ちょっと、新しい弾作ってよ。召喚魔法で出せるんでしょ?」
「そうじゃけどもー。代償が必要じゃからして、この割れた窓ガラスを使うんよ?」
窓ガラスで校舎を壊す? 哲学的な命題かトンチかしら?
「俺はヤるぜー! 俺はヤるぜー!」
「この弾丸うるせえなあ!?」
「権力の犬である先公で作った生体弾丸じゃからしてー」
生きた物を代償にして召喚したものは、それもまた生きているのだそうだ。生命の神秘ってやつね。
「先公か。だったら、花火にして打ち上げるか? 」
「まあ、ええけどー」
ずどーん!
体育祭でもないのに、大空に打ち上がる花火。先公を素材にした、その花火の炎色反応は、腐ったミカン色。きったねえ。
「ははっ! 先公を打ち上げて、コレがホントのセンコウ花火ってか!」
「うわー、座布団没収どころか放送からカットされそうなダジャレのために、ヒトの命を弄んじょるー。マジ悪魔だ、コイツ」
今ひとつスッキリしないけど、もう帰ろうか。気の早い生徒達が登校し始めた。
「ちゃんと落ちをつけないと。帰れないんよ。それが魔法の理じゃからして」
「何ソレ?」
落ちって何? 学校を全焼させて何も無かった事にする?
「そんな、中途半端は良くないんよ」
私のバディは、地球をパカッと割って、全てを無かった事にした。
お前こそ、女神の皮を被った悪魔だよ。
こういう荒唐無稽な異世界ものを書いています。是非お読み下さい。