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TS転生悪役令嬢ですが、フラグを壊しすぎて別のフラグが立ってしまいました  作者: 於田縫紀
第7章 逆恨みの戦塵

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第82話 最悪な敵

 魔法の連撃が偵察隊周辺の敵を一瞬だけ一掃する。

 すぐに奥からまた敵が出てくるけれど、ほんの少しだけ間が空く。


 その隙に偵察隊はこっちへダッシュして逃げてきた。

 なかなか出来るパーティだ。ちょっと感心。


 装備からして騎士団ではなく冒険者だ。

 さっとステータスを確認。5人ともB級冒険者というパーティだ。

 なるほど、すぐ出せる中で一番頼りになりそうなパーティを出したのだろう。

 冒険者ギルド本部の方の責任者はバカではないようだ。 

 

 歩調を合わせて私も走り出す。もちろん街に向けてだ。


「ありがとう。君達は」


「応援ですわ。このまま撤退します。既に偵察の目的は達成されているでしょう。一刻も早く報告を持ち帰るべきです。所長、そうですよね」


「ああ。当然だ」


 そりゃこんな危険な場所から一刻も早く逃げ出したいだろう。人間として当然だ。

 でもこれで『冒険者ギルド幹部確認の上撤退した』との言い訳も出来た。所長の役目その1、無事終了。


 走りながら全員に疲労回復、5人に身体強化の魔法をかける。

 あと念のため口頭で質問。


「怪我はないですね」


「大丈夫だ。全員怪我はない。疲労も今の魔法でかなり楽になった」


 後方の追いかけてきそうな魔物に自爆型ドローン(ハロップ)を連続で飛ばす。

 かなり魔力が減った。仕方ないので不味いポーションをもう1杯飲む。

 今度は上級だ。更に不味い味に思わずうえっとなる。


 今後は口直し用のドリンクも用意しておこう。私はそう固く決意する。

 それでもMPはほぼ全部回復した。


「急ぎますよ。魔物が増えてきているようです」


「わかった」


 皆さん飲み込みが早い。ついでに駆け足も速い。

 まあ身体強化もしたし疲労回復魔法もかけたけれど。


「助かりました。ほぼ魔力も尽きていたので」


「身体強化と回復、助かる。これなら街まで何とか走れる」


 重戦士さんも大盾を自在袋に入れ、更に鉄兜や籠手も脱ぎながら自在袋に入れつつ走っている。

 なかなか慣れた様子だ。流石冒険者。


「それにしても見た事がない魔法です。血族遺伝ですか」


 攻撃魔法担当の若い女性がそんな事を走りながら尋ねてきた。

 確かに魔法使いとしては気になるだろう。でも教える事は出来ない。便利過ぎるし広まると危なそうだし。

 だからこう言うにとどめておく。


「私のオリジナルですわ。詳細は言えませんけれど」


 走りながら会話。

 前方に魔物の気配は感じるけれど、これなら今までと同じ自爆型ドローン(ハロップ)等で抜ける。

 大丈夫だ。そう確信した瞬間だった。


 ふっとヤバい気配がした。気配というか凶悪な魔力だ。

 襲われた日以来自分自身に対しては常に展開している常時展開自動防御魔法(パーツィバル)をパーティ全員に広げる。

 その直後だった。一気に私のMPが300台まで激減した。


「今のは!」


『大丈夫です。先を急いで!』


 女性魔法使いさんは気づいたらしい。いや、所長以外は全員気付いただろう。

 凶悪な攻撃魔法が襲ってきたのだ。殿下が全力で真・神雷球破(デウスーラ)を放ったレベルの。


 魔力ポーション上級を取り出して飲みながら私は考える。

 このままでは逃げ切れない。今の魔法を放ったモノはまだ余力を残している。


 あとポーションゲロ不味い。吐きたい。

 しかもMPが800台までしか回復していない。なんてこった。

 

 相変わらず走ったままもう1本、今度は魔力ポーション中級を出して飲みながら考える。

 どうする。私だけなら逃げ切る事は可能だけれども。そう考えた瞬間だった。


『貴様はあの時の小娘だな』


 何だ今のは。

 走りながら辺りを見回す。他の皆さんには聞こえていないようだ。

 どうやら私宛の伝達魔法か、それに類するものらしい。


『貴様のせいで私は……』


 また聞こえてくる。誰か別の人と間違えていないだろうか。

 でも返答はしない。面倒だから。


『あの特級冒険者はいないようだが、ちょうどいい。まずはオーツェルグを滅ぼす前に貴様から血祭りにあげてくれる。我が恨み思い知るがいい』


 どうやらオーツェルグの街及びサクラエ教官絡みのようだ。

 そうなると対象はごく限られる。

 たとえばバルビット教官を筆頭とする古い頭の貴族教官陣。あの辺にはかなり恨まれている筈だ。


 でも奴らにこんな魔力は無い。それにオーツェルグの街を滅ぼすなんて事も考えまい。

 あいつらは頭が古い分、そういった事はしないし考えない筈。

 だとすると……


『イルースタ正教会大司教の座も目前だった。その我が、こともあろうに正教会から暗殺者を向けられ追われる身になったのだ。しかも宝玉の力が及ばぬよう、魔性(アルコーン)に身を変化させてまでして』


 声の主が誰か、私はやっと理解した。イルースタの聖なる場所で会った悪そうな枢機卿だ。

 名前は忘れた。おっさんの名前など必要以上は憶えたくない。可愛い女の子なら話は別だけれど。


『だが魔性(アルコーン)となったおかげで、人を遙かに超える力と永遠の命を得ることが出来た。下僕として魔物を召喚する事も可能となった……』


 何かよくわからない事を言っている。魔性(アルコーン)って何なのだ。

 それに奴の言っているのは単なる逆恨みだ。

 私のせいにするな。全部お前が悪い。


『この力で我が覇道を妨げたイワルミアを滅ぼし、復讐をしてくれる。まずは貴様からだ。我が最高の攻撃魔法を受けて消滅するがよい。喚出(ロード)極黒悪獄魔境(ヴォルドゥモール)!』


 おっとヤバい。今度こそ本当にヤバい。

 魔力の大きさが違いすぎる。私の魔力では対抗できない。どうしよう。ああ責任者(サクラエ)出てこい。

 そう思って気づいた。対抗は出来ないが逃げる方法はある。


 正確な場所にたどり着ける自信は無い。でも他に方法はない。

 だから私はこの魔法を起動する。対象はこの場の全員だ。


遠隔移動魔法(ワープ)!』


 目標はオーツェルグ中心部、冒険者ギルド出張所付近。

 細かく制御する余裕はない。大体の出力と方向だけ合わせて一気に魔力を爆発させる。


 よし、全員爆発の波にのった。そう思った瞬間私はミスに気づいてしまう。

 つい今までの練習で物を移動させるのと同じ要領で起動してしまった。

 私以外は移動させたけれど、私はそのまま。これではあの性悪枢機卿の魔法にやられてしまう。


 咄嗟にもう一度空間を爆発させる。今度は私だけの移動用。

 しかし当然何処に行くかなんて計算はしていない。とりあえずその場を逃れるだけの移動魔法だ。


 それでも何とか空間の波と自分の状態は理解出来た。

 だから適当な場所で、私は元の世界というか空間へ。


 元の空間に戻った途端、そこそこ近くで巨大な爆発。

 地響きと突風、のぼる土煙、木々の折れる音。咄嗟に常時展開自動防御魔法(パーツィバル)に魔力を通して強化。


 この爆発は間違いない。さっき性悪枢機卿が放った何とかという魔法だ。魔力でわかる。

 つまり此処は、さっきの場所からそれほど離れていない。

 おそらくはセンガンジー山の入口付近。道から少し外れた雑木林地帯の何処か。


 万が一に備えて、上級魔力ポーションをまた飲む。もう味蕾が麻痺して味を感じない。

 何とかMPを最大まで戻し、出来るだけ気配を隠しながら周囲を走査。


 魔物多数。ただ今の爆発でかなり損害が出たようで、動きが鈍い。これなら逃げられるだろうか。

 しかし私がいるのは、焼け焦げた元雑木林。足場が良くないので速度が出せない。

 どんなに急いでも道路上を歩く速さ程度。これでは逃げられない。


 ならやはり遠隔移動魔法(ワープ)しかあるまい。そう思って空間の状況を確認。

 そして私は愕然とする。


 歪みまくっている。先程5人を飛ばした遠隔移動魔法(ワープ)の爆発と性悪枢機卿の魔法、そして私が逃げる為に使った遠隔移動魔法(ワープ)の影響だ。

 これ以上爆発させたら、何が起こるかわかったものじゃない。


 つまり遠隔移動魔法(ワープ)は使えない。

 そしてここは移動も防御にも最悪な、元雑木林で現焼け焦げの荒れ地。

 しばらく隠れてやり過ごすしかないだろう。そう思った時、絶望的な台詞が頭の中に響いてきた。


『まだ死んでいなかったか、小娘よ。だが見つけたぞ』 


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