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TS転生悪役令嬢ですが、フラグを壊しすぎて別のフラグが立ってしまいました  作者: 於田縫紀
第6章 神の力の使用要領

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第70話 お約束的な展開

 手順込み魔法で開発した魔法は、討伐用とか大会用ばかりではない。

 お風呂でお湯を雨のように頭上から降らせるシャワー魔法も作ったし、女中兼お目付役のオルネットを誤魔化す為の居留守魔法なんてものも作った。


 ちなみに居留守魔法とは、睡眠時と同様の魔力反応や気配をベッド上、布団の中に作るという魔法。ちゃんと私と同じくらいの大きさに掛け布団が膨らむというギミック付きだ。

 これをかけた後、気配隠匿と魔力隠蔽を最大限に活用して部屋を抜け出し、リリアなりナージャなりの部屋に忍ぶ訳だ。

 おかげで毎日夜を満喫しているが。そのせいで若干の寝不足でもある。

 ただナージャの発情期、間もなく終わりそうだ。そこが少し残念。


 そんな訳で今朝も機嫌良く部屋に戻り、何食わぬ顔で着替えて食堂へ。

 寮なので朝食も基本的に食堂だ。以前は個室を使用していたけれど、おっさんがアンブロシアの中の人になってからは、基本的に大食堂を使っている。

 だから今日も大食堂へ行こうと思ったのだけれど、途中で職員の制服を着た人に止められた。


「アンブロシア様。本日はこちらで食事をとっていただくようにとの事です」


 よく見るとこの人は知っている。エンリコ殿下の護衛の一人だ。

 そして示された先の個室には殿下やリリア達の反応がある。つまり罠とかそういったものではない。


「わかりましたわ」


 昨日の暗殺の情報が入ったのだろう。そう思って私は示された個室へと入る。

 エンリコ殿下、リリア、ナタリア、リュネットがいる。食事も既に6人分並んでいる。

 個室での食事の場合は給仕担当の係員がいるのが普通だけれど、今はいない。

 いるのは先程とは別の、殿下の護衛らしい男だけだ。


「おはようございます、皆様」


「おはようアン。あとはナージャか」


「猫系獣人は朝が苦手だって言っていたから、放っておくとぎりぎりに来ると思うよ。呼びに行こうか?」


 女子寮は鉄壁の防備のせいで、伝達魔法すら届かない。

 リュネットが立ち上がりかけたところを殿下が手で制す。


「いや、いい。なら先に始めよう」


 男は一礼をして部屋を出て行った。扉が閉められ中は私達だけになる。


「さて、食べながら聞いてくれ。昨日の暗殺犯を調べた結果、暗殺しようとした対象とその理由が判明した」


 やはりその話か。なので早速聞いてみる。


「それでどうだったのでしょうか。わざわざここイワルミアの王都で、このような事件を起こそうとした愚か者は」


「それが少々面倒なんだ。だから暗殺の対象と、その理由から説明しようと思う」


 エンリコ殿下にしては歯切れの悪い言い方だ。

 しかしそんな思考は、次の台詞で吹っ飛んだ。


「まず最初に言おう。暗殺の目的はアン、君だ。今回の事件は正確には暗殺ではない。出来れば拉致、それが出来ない場合に限って暗殺という目論見だったようだ」


 何だそれは。私を拉致して何になるんだ。

 いや私1人なら、確かに拉致して身代金をせしめるなんて事も考えられる。

 でも近くにはもっと金になりそうなエンリコ殿下がいたんだぞ。

 それなのに、どうして私が……


「目的は何だったのでしょうか」


 何とか動揺を外に出さずに済んだ筈だ。でも何故私を。訳がわからない。


「手順込み魔法だ。この前の魔法大会で多くの者が手順込み魔法の可能性と威力を知ってしまった。その優秀な使い手として目をつけられたんだ。汎用性が高い上に、使い方によっては強大な戦力ともなる。そこを狙われたようだ」


 確かにそう言われればそうかもしれない。でも待ってくれ。


「手順込み魔法そのものは、私ではなくサクラエ教官の研究ですわ」


「サクラエ教官が研究していた時点では、難解かつ複雑な理論であって実用的だとは見られていなかった。実用化後の幅広い可能性を見せたのはアンだ。それにサクラエ教官を知っているなら、拉致しようと考える勢力はいない。サクラエ教官は今は研究者としてサクラエと名乗っているが、以前はカンナミという名で職業も特級冒険者だった。今回の事件の黒幕はその事を知っていたのだろう」


 やはりサクラエ教官(あのやろう)、そんなとんでもない奴だったのか。ちらりと見えた一部のステータスだけでもそれは充分納得出来る。

 でもそれならばだ。私を狙った勢力とは……


「率直にお伺い致しますわ。今回の事件の黒幕はどちらでしょうか」


 こうなると相手は、この国の貴族だの金持ちだの盗賊だのといった存在ではない。

 エンリコ殿下は戦力という言葉を使った。その言葉が意味するのは……


「アルヴェッタ教国、イルースタ正教会。理由はイワルミア国で手順込み魔法が活用されることにより正教会の影響力低下を防ぐ為だ」


 うわっ、汚い! それが宗教家のやる事か!

 なんて幻滅を感じる事は、少なくとも私の場合はない。

 宗教組織なんてのはえてして腐敗しているもの。典型的な21世紀日本のおっさんだった私はそんな観念がある。

 しかしリュネットにとっては衝撃だったようだ。


「まさか、正教会がそんな事をするなんて……」


「正教会全体がそんな体制だという訳ではない。だがイツクーシマ正教会及びアルヴェッタ教国は元々治療魔法の独占によって影響力を行使してきた。福音派弾圧事件で治療士が各国へ逃走・保護された結果、完全な独占体制は崩れたが。それでも治療魔法や魔力操作に関する秘伝呪文の大半は未だ正教会が握っていて出さない状態だ。

 だが手順込み魔法の応用で秘伝呪文の価値が大いに下がる可能性がある。その可能性を潰し、あわよくば更なる魔法の独占を狙った。それが今回の事案だ」


 うむうむ、宗教を握る大組織が黒幕か。ゲームとかラノベによくあるお約束的展開だ。

 しかしそのターゲットが私というのは問題だ。拉致監禁されたり殺されたりしてはたまったもんじゃない。


 それにしても展開が、随分とゲームと違うものになってきてしまった。

 この世界は本当にゲームなのだろうか。ゲームによく似た別世界なのだろうか。ゲームこそが元々あったこの世界を反映したものなのだろうか。

 確かめる事は不可能だろう。どれにせよ、私はここで生き残るしかない。


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