第41話 魔銃試射
いよいよ魔銃の威力を試す時が来た。
最初から敵に向かって試すなんてのは、無謀だし危険。
だから最初の標的は迷宮の壁。この先T字路になっている正面だ。
「それがアンが作っていたという、新しい魔法用の道具か。魔法杖としては随分と太くて重そうだ」
エンリコ殿下がそんな感想を述べる。
杖ではなく口径10ミリ用銃身だから、ごついのは当然だ。
「それでは試してみますわ
まずは弱めの威力で試してみる。
停止魔法がかかっているから反動は無いはず。
それでも念の為という奴だ。
『単射』
弾が発射され奥の壁の一部を抉った。成功だ。
なお壁は迷宮の性質で、すぐに自動的に修復される。
「今のが魔法でしょうか。高熱魔法に似た魔力を感じましたけれど」
「確かに似ているけれど、少し違う気がするよ」
「魔力としてはとても攻撃魔法とは思えない程度だが、威力は確かだ。迷宮の壁をあの程度でも破壊出来るという事は」
流石皆さんよく見ている。まさにその通りだ。
さて、次は最大威力で挑戦しよう。
『連射』
この魔銃は、弾倉に30発、銃本体に1発の弾が入る。
今回は30発入り弾倉に残った弾全てが、連続で発射された。
やはり反動は無い。音も風魔法で殺されている。
しかし今度の威力は、さっきと比べものにならない。
「あんな大穴があいたにゃ」
「迷宮の壁ってかなり頑丈だよね」
「凄いです。あの威力なら相当な敵でも倒せます」
威力の確認としては、これで充分だろう。
なお迷宮の中だから、開いた穴はすぐに塞がる。
証拠隠滅という意味では、まことに便利で宜しい。
「使用した魔力は火属性。しかし魔力そのものはやはり通常の攻撃魔法より小さい。あと攻撃の属性そのものは魔法ではない気がする。普通の剣や槍と同じく魔法属性なしのようだ」
殿下め、よく観察していやがる。その通りだ。
この世界に物理という概念は無い。でも強いて言うならこの魔銃は物理属性。魔法防御なんかされても関係なく敵を穿つ。
さて、弾が無くなったら次弾装填だ。
『装填』
これも魔銃にあわせて、私が開発した魔法。
弾倉が外れて、ポケットに入っていた弾が30発補充される。更に弾倉が外れた場所から弾が1発、銃本体へ。
この魔法を使えば、手動で弾倉を交換する以上の早さで弾の補充が可能だ。
つまり機関銃に近い感覚で、連射しまくることが可能となる。
ちなみに今、ポケットには100発、自在袋に700発の弾が入っている。
自在袋の中から直接装填は出来ないので、ある都度はポケットに入れておく必要がある。
しかし弾は重い。私の服のポケットだとこれが限度。
今度は専用の弾箱でも作っておこう。早くも改良点を思いついた。いい傾向だ。
「この魔法は他の人、例えば僕でも使えるのか?」
エンリコ殿下がアウトな事を聞いてきた。
「ごめんなさい。これは私専用の魔法なのですわ」
正確には『魔銃の使い方と専用魔法を知っている私専用の魔法』だ。
つまり使い方と専用魔法を知っていれば、私ではなくても使える。
しかし知っているのは私だけ。他に教えるつもりもない。
こんなの量産されたら大問題だ。危なすぎる。
「そうなのか、残念だ」
殿下、本当に残念という表情だ。
「仕方ないよ。本当は私も使えたら、少しは戦闘に貢献できるのだろうけれど、アンの開発した専用魔法だし」
リュネットには申し訳ない。
でもリュネットは回復に専念して欲しい。リュネットの存在が事実上このパーティの生命線なのだ。
確かにナージャと殿下がいれば、ある程度までは力押しも出来るけれど。
「それでは行きましょうか」
「そうだな」
今日は第15階層から、最短ルートで第20階層ボスまで攻略する予定。
殿下が参入してから、攻略がとんでもなく順調になった。
確かに殿下、このパーティの弱点を補強するのに最適なのだ。
剣技もかなり出来る上、他の面々とあわせて攻撃魔法主体なんて事も出来る。
更にリュネットが教えたおかげで体力回復魔法まで使いこなしやがる。
つまり万能キャラだ。RPGで言えば勇者並の性能。
でも私個人としては認めたくない。
このパーティは私のハーレムパーティだったのだ。なのに何故男が……
なまじ権力関係で切れないだけでなく、実際に有用というところがまた癇にさわる。
でも言えない。特別権力関係のせいで。
『連射』
悔しいので出てきたオーク2頭を魔銃で瞬殺させて貰う。
オークの頭が吹っ飛び、残った身体がばったりと後方へ倒れた。
「早すぎるにゃ」
「出てきてすぐだよね」
「オークはそれなりに強いので、念の為ですわ」
まさか鬱憤晴らしとは言えない。
「でもこのくらいの層はいいよね。魔石以外もお金になるから実入りがいいし」
リュネットの明るい声。
確かにオークは肉が食べられるし皮も素材になる。
つまりゴブリンやコボルトあたりと比べると段違いにお金になる訳だ。
魔砲少女ユニットのせいで金欠気味の私にとっても大変ありがたい。
自在袋にオーク2頭をそのまま収納。
全員解体が苦手なので、このままギルドへ持ち込む予定だ。
「さて、一気に第20階層ボスまで行きましょう」
オーク程度の大物は鬱憤晴らしモードで、小物は殿下やナージャの剣で瞬殺しながらガンガン進む。
そしてついに第20階層ボス部屋前。
第15階層ボス部屋の先から入って、ここまで倒した魔物はオークだけでも30頭以上。
ゴブリンの類いはもう魔石とるのもいいかな位。結局は全部魔石を取ったけれども。
この迷宮はクザルゲと比べて段違いに広い。
だからどうしても時間はかかるし、遭遇する魔物も多くなる。
とりあえずリュネットが全員に体力回復と清拭魔法をかけた後尋ねる。
「魔力は全員大丈夫かな。ぎりぎりまで回復させるよ」
これだけでも普通のパーティに比べると大分恵まれている。
「こうやって常に体力や魔力に余裕が持てるのは、リュネットのおかげだな」
「私はこれしか出来ないからね」
「これだけでも充分以上ですわ」
うんうん、私も大きく頷く。でもついでだからお願いしよう。
「ごめんなさい。7割は残っているのですけれど、軽くお願いしていいでしょうか」
「大丈夫だよ。それにアンは先頭だしここまで出た大物をほとんど倒しているしね」
ふっと魔力が戻るのを感じる。これは本当にありがたい。
普通のパーティなら、ここでポーションを馬鹿にならない金額分消費するところだ。
「本当に恵まれていますよね。リュネットがいるおかげで余力を残すとか気にしなくて済みますから」
これは本音だけれど、殿下に聞かせる意味もある。
だから殿下は私を気にせず、リュネットとくっついて欲しい。お願いだ。
いや本当は、リュネットも私のハーレムに入れて一緒に諸国を旅したい。
しかしここは、涙を飲んで引き下がってやる。
だから私には関与しないでくれ。陛下らにもそう言ってくれ。頼むから。




