第4話 午前中の授業
座席は最初に座ったままで決まってしまった。
これは学校内というかこの国での力関係のせいだ。
何せ教師よりも偉い貴族家の子女様が生徒だ。生徒間の権力関係で決まった座席は、教師であろうともおいそれと変更出来ない。
そういう意味でもこの国は腐っている。だからこそ出て行くのに支障は無いし未練も無いのだけれど。
ホームルームが終わった後の授業は、魔法理論上級。
授業を聞きながら教科書を読んでいて、私は気づいた。この魔法理論はきっと、21世紀日本のゲーム制作者が設定として考えた理論だろうという事を。
授業で教わる呪文は、形式的かつ長く意味不明な部分が多い。そして必ず魔法には呪文か術式を記載した魔法陣が必要だとされている。
教科書にもそう記載されているし、アンブロシアの記憶にもそう教えられてきたとある。
しかしこれはきっと『長い間に本質を忘れ去られ歪曲された教え』という奴だ。
異世界物の漫画やラノベ、ゲームに通暁した中のおっさんはそう思わずにはいられない。
何故そう思うかと言われても、お約束だからとしか言えないけれど。
ならば授業内容やこの教科書から、新しい理論を探し出すべきだろう。そう簡単に出来るかどうかは別として。
この場合一番正しい方法は、実は授業を真面目に受ける事だ。理論全体として間違っていてもこれで魔法が使える以上、何かしらの真実が隠されている筈だから。
ベルリン青を作る為に鍋をかき混ぜる際、音を立てれば立てるほどいいという話から、材料に鉄の粉を混ぜればいいと判断した科学者の話がある。
あれと同じように、偽の理論に隠されている正解を探す為には、まず偽の理論をよく知る事が必要なのだ。
そんな訳でくそ真面目に授業を受け、曖昧な点は侯爵令嬢の立場を嵩にしつこく質問をしまくる。
どうせ捨てる国だから、教師の心証は別に悪くても構わない。そう思えば気が楽だ。
授業が終わったら昼食の時間。第二王子殿下は男のお付き2名とささっと消えた。
王族や高位の貴族は、学園でも基本的に個室で食事を取る。その為の個室がこの学校の食堂にも数部屋あるのだ。
学内は王族もいる事から、警戒態勢がしっかりしていて安全。だからこの個室は、単なる形式的なものだ。
非合理的で駄目駄目だなと、今の私は思う。私もそういった部屋を使う生徒の1人だったけれど。
そう、今までの記憶では、個室で父の派閥に属する伯爵級の令嬢と4人くらいで個室を借り切って食事をする事が多かった。
しかしそれでは、攻略が進まない。だから今日からは、方針を変更させて貰う。
「アンブロシア様、昼食に行かれませんか」
私とつるんでいた派閥の女子3名が声をかけてきた。ユーリアも一緒だ。
「誘っていただいたのに申し訳ありません。今日からは大食堂の方で食事をつもりです」
「えっ、アンブロシア様があんなところに!」
ユーリア、驚かないで欲しい。かつての私がいかにこの国の悪習に染まっていたかがわかって悲しくなるから。
「ええ、ですからお先にどうぞ」
個室組の方が先に食堂へ行くという不文律がある。個室と大食堂両方をさばくには食堂の人数が足りないからだ。
だから基本的に偉い順にサーブをしていく事になる。殿下一行がさっさと行ったのはそういう意味もある訳だ。
ユーリア達3名は、ひそひそと相談の後。
「わかりましたわ。それでは本日はお先に行かせていただきます」
「ごきげんよう」
粘らずに行ってくれて、ちょっと安心する。
正直、あの連中と食卓を囲んでも、おべっかしか聞けない。
確かに家柄や見た目はいいだろう。でも攻略の為には、ここでリュネットやナージャとの仲を深める方が正しい。それに中のおっさん的にも、リュネットやナージャや方が好みだ。
「アンブロシアさ、いえアンは個室の方へ行かないのでしょうか」
リュネットが恐る恐るという感じで聞いてくる。
「大食堂の方が楽しいですわ。色々な方のお話が聞けますもの。それに個室でしたらリュネットやナージャとお話しできないでしょう。せっかくお近づきになれたのですから、今日は食事中もお話をしたいし聞きたいなと思いまして」
中のおっさんの本音だ。
ゲームの主人公だけあってリュネット、クラスの中でも1,2位を争う可愛さだ。これはやはりもう少し接近してウフフとは言えないまでもいい関係になりたい。
ナージャも同様だ。やはりケモ耳少女の可愛さは、あざといばかり。
胸もお尻もいい感じで大きいのもいい。もう少し仲良くなったら一緒にお風呂で是非実物の質感と感触を確認したい。
私自身、正確には私の中のおっさん自身は巨乳派では無い。大きいのも小さいのも同じように尊いと思っている。前世では全く縁が無かったけれど。
しかしやはり目立つものには、男として惹かれずにはいられない。ああ後ろからぎゅっと抱きかかえてもみもみしたい……
しかしリュネットのもやっぱり確認したい。片手に片方がちょうど収まる大きさこそ至高だと、お●ぱい星人の誰かが言っていたし。
こういった事をおっさんが言ったら犯罪になるだろう。
しかし女の子同士だから問題ない。多分きっと。
ただし、2人に近づきたいのはそれだけじゃない。2人ともそれぞれ他にはない魔法や特技を持っているのだ。
これはゲームでは殿下攻略の鍵のひとつとなる。しかし私が自立するためにも入手しておきたい。
こっちが本来の目的だ。決してウフフな理由がメインではない。本当だ。
本当はもっとクラスの皆さんを誘いたい。しかしナージャがいるから、現状では期待薄だろう。
それでも侯爵令嬢の私がナージャと仲良くしているのを見れば、皆さんの態度も少しずつ変わっていくと思う。
凝り固まった高級貴族令嬢の皆さんは別として。
「それじゃ、食堂へ行きましょうか」
私はナージャとリュネットの2人に微笑みかけた。




