第26話 迷宮攻略開始
この辺の建物は、ログハウス風に丸太を使ったものが多い。
この迷宮施設もそんな造りだ。
頑丈そうな丸太でしっかり作られたそこそこ大きな建物が、迷宮入口になっている。
「こちらで冒険者ギルドの事務と、ミセン迷宮の管理双方をやっていますわ。そこまで大きくはない町ですから」
確かにどっちも冒険者ギルドの業務範囲だし、合理的だ。
私達は中へ入り、ミセン迷宮受付と書かれたカウンターへ。
「本日は第１階層から順に第５階層まで行って、その先はそこまでの様子を確認してから決める予定です」
そう受付のお姉さんに言って、冒険者証を提示する。
「わかりました。失礼ですがこちらのギルドや迷宮は、はじめてでしょうか」
「はいそうです」
「それでは今までの実績を確認しますので、少々お待ち下さい」
お姉さんは冒険者証を受け取って、奥へと消える。
もしここがオーツェルグの冒険者ギルド本部だったら、柄が悪い冒険者に囲まれそうだ。
しかし幸いここは、冒険者ギルド併設だけれど、そんな心配は無さそうに感じる。
朝一番の依頼探し時間が終わって、人数が少ない事が理由だろう。
待合室にいる冒険者は２組、合計８人。それぞれそんなに柄の悪い感じは無い。
ここでなら迷宮だけでなく、一般的な依頼を見てみてもいいかもしれない。
領主の娘がいるからお願い系はパス、討伐系のみにした方が無難だろうけれども。
受付のお姉さんが、奥から戻ってきた。
「実績を確認させていただきました。ミセン迷宮に入るには問題無いと認めさせていただきます。次回からは冒険者証を提示していただければ、すぐに入れるようになります」
「わかりました。ありがとうございます」
「それではお気をつけて」
冒険者証を受け取り奥へ。
一般的な迷宮は、国際的な組織である冒険者ギルドによって整備されている。だから入口の造りは概ね共通だ。
ここミセン迷宮もクザルゲ迷宮と同じ。
入った場所に転移陣の部屋があり、その更に奥に第一階層への階段がある。
転移陣を確認すると、５階層ごとに50階層まであった。
本気になれば、かなり魔物が強そうな場所まで行けそうだ。
勿論安全第一で、今日は第１階層から行くけれど。
「それでは装備するかにゃ」
「そうですね。まずは軽装の方でいいでしょう」
授業でも使用している革鎧を、服の上から装着する。
この鎧はそこそこ頑丈で、軽くて体力を使わないのがいい。
全員が装備を身につけた事を確認。
「それではいつも通り、私とナージャが先頭で行きますわ」
階段へと踏み出す。
ここミセン迷宮はクザルゲ迷宮と違い、洞窟状の空間だ。
つまり上下左右が土というか岩。
ただ触れてみたけれど、崩れるような気配は無い。かなり頑丈なようだ。
もっとも迷宮は、よほど強力な攻撃魔法でもない限り、壊せないらしい。
無論最奥の層にいる迷宮支配者を倒せば話は別。
でもそうでもしない限り、崩れる事も崩壊する事もまずないそうだ。
だから自分に被害がなければ、どんなに強力な魔法を使っても問題ない。
そう本に書いてあった。
さて、此処はクザルゲ迷宮と違い、第１階層でもかなり広い。
私の魔力感知でも、何とか全体が見える程度。
魔物の気配も結構ある。中には明らかに群れがいる場所も……
どういうルートで行くべきだろう。迷った際は相談だ。
「皆さんは魔物をとにかく倒しまくるのと、魔物少なめでさっさと次の階層へ行くのと、どっちがいいでしょうか」
「最初だからガンガン倒して行くにゃ」
ナージャは獣人らしく戦闘的な意見。
「そうだね。私もそっちかな。経験値をある程度稼いだ方がいいしここでの戦い方にも慣れるしね。私自身はあまり戦闘そのものに関与出来ないけれど」
「確かに慣れるのが重要でしょうね。ですから私も同意見ですわ」
「同じくです」
ガンガン行くことに決定だ。
「でしたら最初はコボルト３頭です。通路の途中で遭遇するよう、ペースを考えて行きます。まずはリリア、見つけ次第お願いしますわ」
「わかりましたわ」
まっすぐ歩いて、次の曲がり角を右。
更に次の角も右へと曲がり、10腕程度歩いて立ち止まる。
「まもなく後ろ方向から出てくると思いますわ。リリアの魔法だけで倒せる筈ですから、隊列はこのままで。出てくるまで待ちでお願いしますわ」
「わかりました。もう魔力感知の中に入ってきましたわ。５、４、３、２，１，間違いなくコボルトですわね。それでは過冷却！」
既にリリアも正式な詠唱無しで攻撃魔法を使える。
あっさりとコボルトの動きが止まり、倒れて凍り付いた。
「それでは魔石を取りますね」
ナタリアが近づいて、熱線魔法を無詠唱でかける。
コボルトの頭部が熱で灰になり、灰色の魔石だけになった。
これに冷却魔法をかけて、手で持てる状態にしてから自在袋に収納。
「それでは次に行きましょう。次もコボルトで２頭ですわ。仲間を呼ばれると面倒なので、今度もリリアの魔法で倒しましょう」
コボルトはゴブリンより動きが速く、すぐ仲間を呼ぶ。
仲間を呼ばれて前後に挟み撃ちされたら面倒だ。
勿論私達なら、挟み撃ちしたのがコボルトだけなら何とかなる。
しかし中にメイジコボルトやエルダーコボルトがいれば厄介だ。
だから出来るだけ各個撃破するように心がける。
他にリリアの魔力を上げたいというのもある。
リリアの魔法は強力なものが多い分、魔力消費が大きい。
しかし魔力というか最大ＭＰは、普通の生徒より少しだけ大きい程度。
だから出来るだけ魔力を使って貰って、レベルアップ時に最大ＭＰが増えるようにしたい。
少し歩いたところで、リリアがコボルトの魔力に気づいた。
「感知できましたわ。それではここで待って、目視でコボルトと確認出来た時点で殲滅します」
「リュネット、このコボルトが終わったら、リリアの魔力補充を頼みますわ」
「わかった」
「コボルトと確認しましたわ。それでは今度は高速加熱！」
出てきたと同時にコボルトが高熱で灰になり、魔石だけが残される。
次のお話は４月14日に公開予定です。
