第13話 殿下の質問
第2階層までクリアした後。
第3階層手前から一度受け付けのある迷宮入口に戻り、部屋を1室借りて昼食にする。
「この昼食も美味しいな。これはアンブロシアが持ってきたのかな?」
「ええ。寮に私付のメイドがおりますから、彼女に作って貰いましたわ」
ローストビーフをはじめ、チーズ、バター、卵、葉野菜等がふんだんに入った豪華版サンドイッチだ。
殿下と行くと言ったら、オルネットが気合いを入れまくった。わざわざ温かいクリームスープまで作って持ち込ませたのだ。
自在袋に入れているから温かいままだし重さも気にしなくていいのだけれど。
美味しいのはいいけれど、とても討伐中の食事とは思えない。
「それにしても殿下、午前中だけでここまで出来るようになるなんて凄いですわ。正直ここまでとは思っていませんでした」
本心だ。我ながら少々甘く見ていた。
殿下、思った以上に出来る奴だったのだ。
無詠唱は6半時間で出せるようになった。
それも簡単な火魔法だけでなく、高度な業火魔法までだ。
更に初級の回復魔法もやはり無詠唱で使える。この順応具合は並じゃない。
「何か私達、もう追いつかれたような感じだよね」
「でも一緒のパーティだから頼りになるにゃ」
確かにリュネット達は、レベルも追いつかれてしまっている。最大MPも2人より殿下の方が既に上。
リュネットもかなり魔法が出来る方なのだ。ナージャはまあ、獣人だから別として。
そのリュネットの3日分くらいの成長分を今日の午前中だけで獲得している。
これが王家の血という奴なのだろうか。
いずれにせよ殿下、ただ者じゃない。
「確かに明らかに力がついたと感じる。魔力もかなり強くなった気がする。確かにこうやって護衛なし自分達で迷宮を攻略する事には意味があるんだな。よくわかった」
何か今日だけでたくましくもなっている感じだ。
おかしい。ゲームのなかの殿下はこんな感じではなかった。
それでもまあ、私がやるべき事は変わらないけれども。
それに私の中身はおっさんだから、美形で王子でたくましく頼りがいまで出てきても、惚れたりはしないのだ。
むしろリュネットやナージャを取られることが精神的に怖い。
どっちも抱き心地が大変いいのだ。
特にリュネット、脱がせると適度に肉もあって大変宜しい。
お風呂でその辺は毎度味わわせてもらっている。
嫌われると困るから適度に加減しているけれど。
いやその辺の妄想は後だ。今はとりあえず今日のこれからの予定。
「午後からは、予定より早いですが第3階層から下を攻略しようと思います。殿下はリュネットを守りながら、ナージャが攻撃していない敵や危険そうな敵相手に魔法で攻撃して下さい。リュネットがいるので魔力の残りは気にしなくて大丈夫ですわ。装備は第3階層に下りる前にそれなりの装備に変えるという事で」
「今度は魔物を探して戦って、経験を稼ぐってのはやらないのか」
「ええ。最短経路を通って第5階層のボス部屋クリアまでを狙いましょう。それで帰ればちょうどいい時間です」
「殿下も加わった戦力なら楽勝にゃ」
「そうなのか?」
実際その通りだ。殿下にもわかるよう説明しておこう。
「おそらく。このパーティには魔力も魔法で回復できるリュネットがいます。ですから魔力の残りを気にせずに攻撃魔法を使用可能です。またナージャなら第5階層までの敵ならボスのアークゴブリンでもほぼ一撃で倒せますから。
それに今まではリュネットが弱点でしたから、私が必要以上に敵を引きつけたり早めの攻撃を仕掛けたりする必要がありました。でも殿下がリュネットの直衛についてくれたおかげで弱点がほぼなくなっています」
残念ながら殿下のおかげで安定したのは事実だ。
そこは仕方ないけれど認めるべきだろう。
それに殿下を持ち上げておくのは、今後を考えれば悪い事ではない。
「そう言ってくれると嬉しいな。ところでどうしても気になる事があるのだが、聞いてみてもいいだろうか。アンブロシアの事なのだが」
何だろう。
「何でもどうぞ」
「最近というか高等部に入ってからなのだが、アンブロシア、随分以前と印象が変わったような気がする。以前はもうちょっと、うまく表現しにくいがごく一般的な貴族令嬢という感じだった気がするのだ。何か変わるようなきっかけというか何かがあったのだろうか。もしそうなら教えて欲しい」
直球勝負で聞かれてしまった。流石殿下、遠慮も何もない。
どう返答しようか。中におっさんの記憶が宿ったからなんて事は勿論言えない。
かとは言ってちょうどいい自己啓発本とかもこの世界にはない。
くそ真面目に考えて、何とか答えてみる。
「侯爵家という背景無しでは、私自身に価値が無いことに気づいただけですわ。ですからもう一度基本に戻って学び直そうと思いました。先生でも生徒でも階級に関係なくお話を伺って、よいところは積極的に学ばさせて貰おうと」
「なるほど、謙虚だな」
「そうでもありませんわ。実際には私が何をするにせよ、実家である侯爵家の威光がついてきます。それを利用しても、少しでも私自身の実力を高めたいと思ったのです。迷宮で冒険者の真似事をするのもその一環ですわ。そんなカリキュラムがある庶民の学校もあると聞いていますから」
この辺は迷宮に行く前に調べた事で事実だ。
実際に迷宮で冒険するのに、どれくらいの実力が必要かを調べた時に知った。




