32.覚悟、そして説得
最近は本当に更新頻度が遅くて申し訳ないですm(__)m。
まだしばらくはこれくらいのペースが続きそうですので、どうか気長に待って頂けると幸いです。
「建国祭直前にゼノンが脱獄したのは、あたかも『王家の紋章』が本命だと僕たちに思い込ませるためのいわば囮。そうして警備隊の層が『王家の紋章』に厚くなれば当然、他の箇所は手薄になる。その隙をついて、本命の王家を襲撃した。おそらくこれが、事の真相だと思う」
あまりにも大胆かつ周到に練られた策略。いくつもの予兆と違和感を感じさせながらも、根底にある真意を『王国の覇者』と『王家の紋章』いう大きすぎる存在で覆い隠すことで、誰にも勘付かれることなく作戦の遂行まで漕ぎ着けてみせた。
自身の推測をそう結論付けたレイコルトは、口いっぱいに広がる苦みを唾液と共に腹の底に流し込むと周囲の反応を窺う。
「‥‥‥なるほど、ね。確かに現状を鑑みても、その線が一番濃厚かしら」
一番に反応を示したのはルーシアだ。
彼女はしなやかな指を顎に添え、数秒間の熟考に耽った後にレイコルトの仮説に賛同を示す。
内心、自分が全くの的外れなことを口走っているのではないかと不安に思っていただけに、ルーシアが肯定してくれたことにレイコルトは密かに安堵の息を漏らした。
「で、ですが‥‥‥っ、ご主人様の推測が正しかったとして、これからどういたしましょう? 敵は現在も第二王女殿下の馬車を襲撃しているはずです。すぐに救援に向かわなければ‥‥‥」
「それだけじゃないわ。相手の目的が王家である以上、王城内でも何か危険が迫っているかもしれない。確か、城内の警備のほとんどが建国祭の見回りに駆り出されているから手薄になっているはずよ」
珍しく焦りを前面に押し出すシラリアを窘めるようにルーシアは冷静な言葉をかけるが、目の前に差し迫った事態はそれだけでは好転しない。
『王家の紋章』を持ち去っていったゼノンも追う必要があるのだ。
──第二王女殿下の救援
──王城内の安全確保
──ゼノン・グリフィスの追走。
今、動かすことができる人員はこの場にいる人達で全てだが、あまりにも人手が足りなさすぎる。
三部隊に分散して各地に向かったところで、その全てに十分な戦力を充てられるだけの余裕はない。
(どうする‥‥‥ッ!)
こうして頭を悩ませている間にも、状況は刻一刻と悪化している可能性だってあるのだ。
重苦しい沈黙が辺りを支配する中、レイコルトはひとり覚悟を決めた。
「‥‥‥僕が、ゼノンを追います」
「ご主人様ッ!?」
腹部に走る鈍い痛みに顔を歪ませつつ、のそりと上体を起こしたレイコルトは、手に取った黒刀を杖代わりにして立ち上がった。
「‥‥‥一応訊いておくけど、何人で行くつもり?」
「一人で向かいます。そうすればその分だけ戦力を他の箇所に回せるはずですから」
「却下よ。第一そのケガで戦うなんてもっての外だわ」
「ケガはもう大丈夫です。それに、今もっとも優先するべきは王家の人たちの命でしょう?なら、そこに向かう部隊二つに、最大限戦力を割いたほうが良い」
この場にいる人員を均等に三分割していては、一部隊あたりの戦力が圧倒的に足りない。
だがらこそ最も重要度が高い王家の人たちがいる大公道と王城に向かう部隊の二つに戦力を集中させ、ゼノン・グリフィスはレイコルトが一人で追う。これなら最低でも王家の人たちの命は守ることはできるはず。レイコルトはそう言っているのだ。
「それは‥‥‥っ、──なら私が代わりに行くわ! だからレイコルト君は──」
「ダメです。もし四大貴族の会長に万が一のことがあれば、この事態が収束したところでまた新たな騒動の火種になりかねません。それに、司令塔の会長がいなくなると、他の団員が安心して動くことができませんから」
そう言うとレイコルトは、微かにおどけた口調で口端を持ち上げてみせる。
『シュヴァルツ』の騎士団長として、何より生徒会長として誰よりも責任感の強いルーシアに辛苦な決断を迫っていることはレイコルトも重々承知している。
それでも、これはレイコルトにしかできないことなのだ。
レイコルトには失うような身分や地位はない。
レイコルトには二人のように誰かの先導に立ち、部隊を率いる経験も才覚も持ち合わせてはいない。
何もない。欠けている。だからこそ、今この瞬間だけは、レイコルトがゼノンに立ち向かわなければならないのだ。
「だから‥‥‥っ、行かせてください」
そう毅然と言い放ったレイコルトの黒い瞳は揺るぎない信念という焔で満ちている。
そんなレイコルトの眼差しに押されたのか、はたまたレイコルトの意思の強さに根負けしたのかルーシアはハァ、とため息をつくと、
「‥‥‥死にに行くわけじゃないのよね?」
「はい」
「必ず、生きて帰ってくる。‥‥‥そう約束できる?」
「はい」
「‥‥‥‥‥‥」
深い沈黙が辺りを支配する中、ルーシアは何かを訴えるように瞳を潤ませる。
それでも数瞬後、ルーシアは静かに首を縦に振った。
「‥‥‥分かったわ。レイコルト君の覚悟に免じて、この案で行きましょう」
「──っ! ありがとうございますッ!!」
レイコルトは深々とルーシアに頭を下げると、自身の横で俯き気味に不安げな表情を浮かべていたシラリアと向き直る。
「‥‥‥ご主人様」
レイコルトは膝を折ると、バイオレットの瞳と視線を交わす。
普段はあまり感情を表に出さないシラリアが、今だけはレイコルトに縋るような眼差しを向けていた。
「大丈夫、必ず戻るよ。だから、シラリアもみんなをお願い」
「──ぁ」
レイコルトは絹糸のように細くなめらかな白髪に指を滑らせると、そのまま優しくシラリアの頭を撫でる。
くすぐったそうに目を細めるシラリア。それでも決して嫌がる素振りは見せず、主人であるレイコルトの掌から伝わる温もりに身を委ねている。
やがてレイコルトがシラリアの頭から手を退けると、再び二人の視線が交錯した。
「‥‥‥かしこまりました、ご主人様」
依然として紫紺の相貌は揺れている。それでも最後は己の従者としての誇りが勝ったのか、シラリアは背筋をピンと伸ばしてレイコルトに恭しく頭を下げた。
「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
普段の何気ない会話のはずなのに、何故か今だけはそのやり取りが重く、深く、胸に突き刺さる。
レイコルトは背中越しに手を振ると、《魔力強化》を施した足で大理石の床を力強く蹴り上げるのだった。
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